廣瀬陽子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
【狭間国家の地政学】 廣瀬 陽子 著
本書がきっかけで、廣瀬先生とお仕事をさせていただくことになりました。「狭間国家」とは、大国に挟まれた環境にあって、独自の戦略・思考をもって生き抜く国々のこと。本書では、「南コーカサス三国、東欧、中央アジア、バルト三国と周辺国」の章立てを設け、ロシア周辺の16ヵ国の動きを描出されています。地政学では、「ハートランド(ロシア)」と「リムランド(周辺国)」という概念がありますが、「単に大国に翻弄される存在としてではなく、地理的・歴史的な制約の中でも、自ら選択肢を作り、大国との関係を調整しながら生き抜いていく主体」として描きたかったとのこと。
本書が素晴らしい点は、大国に挟まれた各国の思考・行動パターンが詳述されるのに加え、隣国・周辺国とは必ず物議・紛争・係争が起こるということも論評されている点です。得てして日本だけが周辺国と揉めているように感じてしまうのですが、国境を挟み、力のある国々と対峙すれば何がしかの軋轢が生じるということがよく理解でき、大変示唆に富みます。また、ロシアと国境を長距離に接しているスウェーデンでは、「包括的安全保障」と称して、万一の場合の備え、食料・エネルギー・核シェルターが万全に準備され、ポーランドでも、訓練やサイバー対策など、驚くほどの対策をとっている点にも驚かされました。
廣瀬先生は、こうした「狭間国家」の分析を行った上で、何か一つに頼ることなく、「複線化」することを提唱されています。ロシア・ウクライナの関係では、よく小泉悠氏とともにTVなどで論評されますが、実はこの二国に留まらず、とてもダイナミックなご研究をされていることがよくわかる一冊です。 -
Posted by ブクログ
明確に定義付けされていないハイブリッド戦争、特にロシアのそれについて、実例豊富にわかりやすくまとめている。
正規戦・非正規戦の境を越え、ありとあらゆる手段を用いて政治的目的を達成しようとするハイブリッド戦争。ジョージアとの戦争で実績を積み、ウクライナで花開かせたと言われる。そしてシリアへこ介入もハイブリッド戦争の一環であり、かなりの部分がPMCに担われている。現代のロシアの戦争目的は領土拡大自体ではなく敵対的な同盟の弱体化、自身の同盟の拡充である。面白いのはロシア自体は自身の戦略をハイブリッド戦争と呼びたがらず、むしろ西側諸国からハイブリッド戦争を仕掛けられていると考えていること。ハイブリッド戦争にはprobing、探りとしての手段という側面がある。
コサックの由来やPMCが持つ魅力、ソフトパワーの悪質版であるシャープパワー、サイバー戦とタリン事件、北極圏や南米、アフリカ等での地域ごとのロシアの活動、についてもまとまっていてわかりやすい。 -
Posted by ブクログ
「ハイブリッド」というのは「異質なモノが交じり合って成立している」という程の意味で、現在では広く用いられている表現になるように思う。それが付せられた「ハイブリッド戦争」ということになれば「??」という感だ…
「ハイブリッド戦争」というのは、正規軍による活動、非正規な武装勢力による活動、所謂“情報戦”ということになる情報操作等のあらゆる活動、陣営に有利になり得る勢力が権力に近付くことが叶うような、所謂“情報工作”というようなこと等、様々な要素を織り交ぜて「自身の陣営が有利になるようにあらゆる要素を適宜組合わせて展開する活動」という事柄の総称ということであるらしい。本書によれば、ロシアは21世紀に入ってから、場合によってはその以前から、利用可能なあらゆる資源を使って、そうした「自身の陣営が有利になるようにあらゆる要素を適宜組合わせて展開する活動」に努力していて、それを<ハイブリッド戦争>と呼ぶようになっているということであるようなのだ。
“戦争”とでも言えば、軍艦が列になって航行する様、軍用機の編隊が上空に飛び交う様、物々しい車輛の一群が街や原野を行き交う様を想うが、実はそれは「末端の事象」で、陸海空軍の兵器が動くに至るまでの「余りにも多彩な様々な事柄」というようなモノが存在する。そういう意味では、“戦争”というモノは何時の間にか「様々な要素が組み合わさる」という意味では「かなり以前から“ハイブリッド”」なのかもしれないと思っている。自身の中にそうした問題意識も在るのだが、それはそれとして、本書をなかなかに興味深く拝読した。
近年、ロシアでは「自身の陣営が有利になるようにあらゆる要素を適宜組合わせて展開する活動」に努力が執拗なまでに重ねられているのだという。それを本書の著者自身を含む論者が<ハイブリッド戦争>と呼んでいるということになる。
そういう<ハイブリッド戦争>というような展開の中に世界の様々な地域が関わるのだが、実は日本もその関りと無関係でも居られないのである。
色々な意味で「広く読まれるべき研究」というように思った。そういうことで広く薦めたい一冊だ… -
Posted by ブクログ
実質的には国家であるにもかかわらず,国際的な承認を得られていない未承認国家。その誕生の背景や個別の実情,将来の地位について見通しよく描き出した快著。ロシアによるクリミア編入や,ISILの問題で騒がしい昨今,複雑な国際関係の理解を深めるためにも読んでおくべき一冊。
既存国家の領土保全・主権尊重と,民族自決の原則。互いに矛盾するこの二つの国際原則が,今に至るまで多くの戦争・紛争を引き起こし,未承認国家を生み出してきた。二度の世界大戦の後,冷戦の後には一時的に世界の趨勢は民族自決寄りに傾き,多くの独立国や事実上の独立国を増やす。そしてその後の揺り戻しで事実上の独立国は長い間未承認国家にとどまり,法的親国は自国の領土内に実効支配の及ばない地域を抱え続けることになる。「帝国」の恣意的な線引きやダブルスタンダード,民族のアイデンティティを作り出すための歴史の捏造,民族浄化(ジェノサイド・エスノサイド)…。人類が経てきた苦難の歴史はまだ終わらないのかという気持ちになる。
日本と地理的に近く関心も高いであろう台湾についてはあまり触れていないが,それはおそらく台湾の抱える問題が比較的小さいから。対して台湾とともに正式な国家に最も近いといえるコソヴォについては詳しく取り上げている。これはコソヴォ問題の例外的性格が,今後の未承認国家を考える上での極めて重要な先例になるからで,現にクリミア問題にも大きな影響を与えている。
大戦・冷戦後の混乱期を除けば,法的親国の領土・主権を尊重することが国際秩序にとって重要であったはずだが,コソヴォに関してはメディア動員も含めた欧米の戦略により,非常に多くの国が国家承認をしてしまった。コソヴォがもし順調に独立するようなことになれば,これをモデルに他の未承認国家や自治共和国で独立の気運が盛り上がり,大きな混乱がもたらされるおそれもある。
忘れてはいけないのは,未承認国家といっても,そこに住む人々が決して特殊であるわけでなく,彼らは彼らなりに日常の生活を送っているのだということ。本書もそこにしっかり気を配っていて,著者が実際に見てきた例もいくつか挙げている。国際関係が現状で確定していないからといって,明快に白黒つけることが必ずしも幸福につながるわけでもない。所詮は国家というものも,生身の人間たちに優先する存在ではないのだから,その辺を見誤ってはならないのだと感じた。 -
Posted by ブクログ
本書は2008年に刊行された本。
それから2014年経った今、既読。
アルメニアに関する本を読んで、コーカサス地方に(関する本)興味をもったので、本書を手に入れて読んだ。
コーカサス地方(アゼルバイジャン、グルジア、アルメニア)の抱える問題などについて、わかりやすく書かれている本。
黒海やイランやトルコといった隣国との石油資源の利害関係、また古くからの民族対立、政治政策、そして、旧ソ連に組み込まれていたこともあり、ロシアとの関係も絡まる。
EUとも近い関係にあるし、またロシア、あるいはトルコ、イランといった中東諸国との複雑なバランス、緊張関係になっていて、複雑な利害関係が本書から伝わってくる。
本書が刊行されてから年月が経ち、政治局面なども大きく変わっていることあるが、最近のウクライナ情勢、あるいは、シリア情勢も絡んでいるように思える。
EUとソ連と中東の間に挟まれたコーカサスの三国。ただただ、複雑な利害関係の上に成り立っているということがわかる。
筆者の新しい本があれば、読んで見たいと思う。 -
Posted by ブクログ
2022/05/07 読み終わった
ロシアのことを俺は何も知らないなと思って。
自分が得た新しい視点としては、旧ソ連圏の年配の方々は「ソ連時代の方が良かった、ソ連時代に戻りたい」と思っている層が一定数いるということ、下手したら過半数だということ。確かに、こういう人たちにとっては、ソ連の崩壊(と自由主義化)は、自分の周りの世界や常識がある日突然ガラッと変わり、「これからは自分で考えて自分でお金を稼いで自分で生活してくださいね」と言われたということに等しい。急にそんなことになったら困惑するし、それについていけずに貧困化する人は相当数いるだろうな、と思った。