堀川惠子のレビュー一覧
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腎臓の病気の治療法である人工透析を通して、生と死について、医療について深い示唆を与える本である。著者は、腎臓の難病によって人工透析しなければならない夫を看取る。しかし、衰弱して人工透析が受けられなくなった夫は、苦しみの中で亡くなった。なぜ、最後まで苦しまなければならなかったのか。まず、人工透析を受ける患者は緩和ケアを受けられない。そして、人工透析にも血液透析以外に腹膜透析という方法があることを知らせられない。緻密な取材で、乱暴に言えば金のなる木としか見られていない人工透析患者の現状を紹介し、患者の尊厳を守り安らかな最期を迎えられるようにするにはどうすればよいかを提言する。死の瞬間に尊厳があるの
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自分がいかに、人工透析について知らなかったか、それだけでなく偏見の目を持っていたのかに気付かされた。
透析クリニックの前に、送迎の車が停まり、患者さんたちが乗り降りしているのを見ると、不摂生の結果、医療費の高騰、という言葉が頭をよぎることがあった。
でも、透析を受ける(まわす、というらしい)というのは、その人の心にも身体にも大きなダメージがあること、家族の負担も大きいこと、そもそも透析を始める理由も様々であること。
知らずに判断するのは良くない、とよく言われるけれど、まさにそう。
さらに、「人工透析」が市場のシステムに組み込まれているのも悲しい現実だと思った。以前いった病院に「病ではな -
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とても読み応えのある一冊だった。
腎臓にまつわる病気や、日本の医療制度について知らないことをかなり教わることができた。
それに加えて、僕は果たして、ここまで愛し、愛してくれる人に今後の人生で出会えるのだろうか?と疑問を感じた。
自分が林さんと同じ立場に立った時、信念を持ったまま矍鑠と人生を終えられるだろうか。それを背負ってもいいと思ってくれる人に出会えるだろうか。そして僕はその人に、背負ってもらう覚悟ができるだろうか。また、すべて逆も然り。
なんかそんな、自分の今後について考えさせられる本でもあった。
愛とは。
助け、助けられる、とは。
とてもよかった! -
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ネタバレ知らないことが多すぎる。この本からたくさんのことを知った。
透析患者は生きているかぎり透析を続けるしかないことは知っていたけど、透析を止めた後に旅立つまでの間に人生最大の苦しみがあることは知らなかった。止めたら死ぬけど、それは穏やかなものだと思っていた。
誰もが、死の間際に緩和ケアを受けられるものと思っていた。しかし実際は、緩和ケアを受けられるのはがん患者とAIDS患者、重度の心不全の患者に限られていて、透析患者をはじめその他の病気の患者は受けることができない。
透析に血液透析と腹膜透析という二つがあることも知らなかった。日本の腹膜透析の患者は透析患者全体の2.9%だという。香港 -
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愛と勇気で世の中に一石を投じた、貴重な一冊です。
2024年1月に、恩師が人工透析になったことを知ってから、何かに取り憑かれたように腎臓の病気について調べ始めました。しかし、透析を止める日がくることについて考えは及ばず....
2024年11月に本書出版されたことを知ったとき、ハッとさせられました。
著書の夫である林新さんの透析導入は、難病が原因でした。治療の記録は克明です。克明であるがゆえに辛い。林さんは治療過程の中で、実母からの移植も受けています。
第一部は1人の患者の治療記録に留まらず、ご夫婦の愛に満ち溢れていました。透析を止めることになってからの様子は、涙なしに読めませんでした。 -
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夫を送った経験を記録し、その後も取材を積み重ねた本作。入り口はあるのに出口がない血液透析をめぐる日本の医療の現在地を問うた力作だ。衝撃だった。透析について何も知らなかった。実は昨年、親戚が透析に向かう送迎車の中で突然死、という出来事があった。なんと不幸なこと、と悲劇を嘆いたが、この本を読むとそれは透析患者にとっては幸せな最期と言えるかも?と思わされるほど、透析者の最後の過酷さに震えた。緩和ケアを受けられるのががん患者だけという現実にも、唖然とした。「ガンで死にたい」と言わしめる背景にはこういうことも含まれてるのか。皆保険制度の問題、医者不足の問題、病院経営の問題、緩和ケアとはどうあるべきか?尊
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堀川惠子さんの『透析を止めた日』を読んだ。
夫が「多発性嚢胞腎」で血液透析を受け、終末期に透析を止める決断をご本人がし、亡くなった。
透析を止める――それが「死を迎える」という意味を持つことを、私はこの本で初めて知った。
それまでの私の透析の知識といえば、「地震などで電源が止まると透析ができず、大変なことになる」という程度だった。身の回りに透析を受けている人もいない。だから、透析がどれほど大変で、どれほど生と死に関わるものなのかを考えたことがなかったのだ。
腎臓の働きを失った人は、血液透析で体の中の老廃物を取り除かなければ生きていけない。週に三回、病院に通い、何時間もベッドの上で針につながれ -
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【概要】
1部:著者の夫の生き様、死にゆく様と伴走する妻の闘病生活が描かれている。
2部:日本の透析医療の現状。そして、透析患者であっても穏やかに最期を過ごすことができた人の紹介。
【感想】
旅立ちが近いことを自身で感じ、大切な人とのお別れや身辺整理を行なう中でもなお、肉体的な苦しみから解き放たれない様子がそのまま伝わってきて読んでいて本当に辛かった。日本の医療の限界や、近い将来自分と大切な人に訪れるかもしれない未来に絶望感さえ感じ、とんでもない虚無感に襲われた。透析患者が故に保険診療の絡みで緩和ケア病棟に入れず、望む緩和ケアを受けられないどころか、蔑ろにされているような孤独感を病院の中にい -
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著者の作品はこれまで興味深く読んでいた記憶があった。4、5冊くらいは読んだはず。本書は今年の始めに新聞の書評で見かけていたもので、久しぶりに著者の本を読んでみた。
彼女の執筆の陰で、こんな苛酷な日々が続いていたとは。
大切な伴侶の、それこそ文字通り命懸けの日々を、共に心身を擦り減らしながら必死に駆けずり回っていたとは想像だにしなかった。
本書は、その伴侶の闘病に寄り添い共に闘い続けた日々の記録であると同時に、自分事として直面せざるを得なかった医療制度の課題を、ジャーナリストとして核心に迫らんとした取材記録でもある。
医療と福祉は、近いようでその実、背中合わせだと言ってもいい。究極の理念は -
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いつもながら堀川さんの著作は読みごたえがある。これまで読んだ裁判とか死刑囚がテーマではなく、この本は広島の原爆がテーマだけどもともと堀川さんは広島出身だそうでそれだけに真摯に取材を重ねた感がある。
原爆投下そしてその後をたどるなかにさまざまな不条理が、やるせない思いにさせるものが描かれる。原爆を機に身内ですら疎遠になったり不仲になったり、原爆で亡くなった人の算定の覚束なさとか、供養塔に納められている人の情報が実は不確かだったりとか、本で深く触れられている佐伯敏子さんや著者が受けた行政の対応とか。平和を軸に誠実に公明正大に対応している気がしていた行政の被爆者対応、縁故者対応だって平和のイメージを