工藤幸雄のレビュー一覧
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ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムによる『架空の書籍』の書評集。
本の内容を個別のパーツにばらして、ひとつひとつを解説・批評することが書評のおもしろさだとすれば、架空の本の書評はそもそも「全体」がないのに「一部」だけを切り取って摂取することになってまずその経験自体が奇妙で楽しかった。
それを前提に、この本は架空の書評をするというアイデアを超えてすごい。ひとつひとつの「架空の書籍」につぎ込まれている想像・思考が尋常ではない。
『新しい宇宙創造説』『とどのつまりは何も無し』『生の不可能性について/予知の不可能性について』など、いくつの分野でどれだけの教養を蓄えたら書けるのかちょっと想像もつ -
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前年、岩波文庫から出ているのを読んだ。
その解説において、「サラゴサ手稿」には複数の異なるヴァージョンが存在している、とされていた。
この工藤幸雄による邦訳は、その「異なるヴァージョン」のひとつ、ということになる。
岩波文庫版の方の記憶はそれほど鮮明ではなく、また細かく比較して読むような手間を(今のところ)かけられていないが、違っているな、という点はいくつかあった。たとえば、この創元ライブラリ版で少し登場した「さまよえるユダヤ人」やそれにまつわる部分はまるっきり覚えがなく、同じ箇所を見比べてみるとたしかに、岩波文庫版からは、その部分がまるっと抜け落ちていた。
あるいは、数学者ってこんな早 -
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読むのに1ヶ月近くかかってしまいましたが,なんか,すごいものを読んでしまった.
「事典」のタイトルの通り,五十音順で見出しが並べられているのだが,それぞれは幻想短編で,全部読むと全容がわかるという構成.しかも事典なので,各国版で並びが違うはずなのだが,それでも全体が一冊の書として成り立つ,という不思議な構成.ああ,この不可思議さは1/100も伝えられていないんだろうなあ.
自分も混乱しているので,巻末の索引を使いながら再読する必要がありそうだ.
てっきりハザールは著者の創造の産物かと思っていたら,訳者あとがきの冒頭が「ハザールの首都発見」で,「?????」となる.実はハザールはかつて実在し,ユ -
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再読。一気読みするとミステリーとしての構造がはっきりと見え、初読時よりエンタメ小説らしく思えた。読み終えてからも各項目の読み直すのがまた楽しい。
前回はあまりに東欧について無知だったが、マイリンクの『ゴーレム』やストーカー『ドラキュラ』の想像力が生まれてくる風土を頭に入れて読み返せば、惜しげも無く詰め込まれた奇譚の豊かさにクラクラする。アテーと鏡の話、人生の一日を閉じ込めた卵の話、天使と契約して聖画を描く悪魔の話、亀の甲羅に文字を彫ってやりとりする秘密の恋人たちの話など。特に妖婦エフロシニアに捧げたドラキュラオマージュの長詩は美しい。
また一気読みしてキリスト教(ギリシャ正教)、イスラーム、ユ -
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レムの生誕100年の年だとのことなので、レム祭り再開。
とはいうものの、レムを読むには知力、気力、体力が必要でお酒を飲みながら気楽に流して読むことはできないのです。仕事で疲弊していたころは気力がなくて読めなかった作品群も今ならば!と取り組んだ次第。いや〜、さすがレム。架空の本の批評を作ってそれをまとめた体裁で序文を書くという二重三重の仕掛けがあるうえ、架空の本そのものが、AIをテーマにしていながら神への信仰にまで言及するものから、新しい宇宙創生理論にいたるまで脳味噌痺れるテーマを暑かったものですが、どれも読んでみたいものばかり。
レム氏に実際に書いてほしかった。 -
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非常に新鮮な読書体験だった。周知の通り、本書は「存在しない本に対する書評集」という、一風変わった内容である。そのコンセプトに惹かれて手に取ったが、架空の書評というアイデアのみならず、一編一編の書評も読み物として大変興味深かった。物語を書くということに対して、「そういうアプローチがあったか!」と膝を打った回数は数知れず、無数の示唆に富んだ一冊だったと思う。
読んでみて思ったのは、「書評集」というよりは、存在しない本のストーリーラインの要約や根幹となるアイデアを示すという趣が強いなということ。他者の批評を引き合いに出して、問題点や要点を論じる形体を取ってはいるが、その小説の大まかな流れを説明す -
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ネタバレ一ヵ月ほどかけてじっくり読み切った。
「石蹴り遊び」は子供の頃に読んだ本遊びだが、本書は事典の体裁。
ただし単なる思い付きや目くらましではない。
同じ唯一神を源流とする三つの宗教がいわば視点を成すので、並列することで大いなる相対主義を宣言するもの、
といえば仰々しいが、対立を笑い飛ばしてしまえる機構になっている。
実際各項目内の奇想を辿るだけでも愉しいし、色違いで比較すればするほどに切り口の違いが面白い。美味しい。
さらに時代を貫く生まれ変わりの物語はロマンチックでありミステリアスでありリリカルでもある。
ぜんぜん凶悪でも陰惨でもない悪魔の存在が素敵。
まえがき、付属文書、あとがきで全体像を -
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歴史上実在した民族ハザールに関する事典——の体裁をとった、奇想天外な小説。どこから読み始めても、途中で読み終えても、何語に翻訳されても成立するというポストモダン的な構成。
各項目はキリスト教/イスラーム/ユダヤ教の三つの観点から解説されているが、相互に補完するようでなぜか食い違う内容。奇人変人どもによる奇談珍談の数々を読み進めるうちに、夢と現実/虚構と史実といった区別だけでなく、前後・上下・左右といった方向感覚までも惑わされるよう。あらゆる決まり事や価値観など相対的、こだわるなんて馬鹿らしいぞ——作者のいたずらっぽく笑う顔が思い浮かぶ。小説でとことん遊んでいるようだ。 -
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7-10世紀にコーカサス地方に実在したハザール国についての、架空の事典という形式を取ったいわば事典小説。
ハザール国の国教を巡って争ったキリスト教、イスラム教、ユダヤ教それぞれの事典が掲載されており、各々の視点で、9世紀の国教を巡る論争、17世紀の事典成立のエピソード、20世紀のハザール研究について記す。
どの説が真実かはもちろん藪の中状態、さらにハザールの古の教えが夢と深い関わりがある設定のため、文章が良く言えば幻想的、言い方を変えれば非論理的なので何がなんだかわからなくなってくる。
しかし、事典の各項目が幻想的/非論理的で様々な物事を扱っているため、現代美術の美術展に迷い込んだような -
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いやー、脳みそ疲れたー。(※鴨注:心地よい疲れヽ( ´ー`)ノ)
「架空の書籍を対象とした書評集」という、何をどうしたらそんな発想が出るのかというぐらいメッタメタにメタな作品なわけですが、ボルヘスが先鞭を付けているそうですね。文学の世界は奥深いよ・・・。
架空の書籍の構成を考え、さらにそれを評価する筋道も立てる必要があるという、面倒くさいこと極まりない構造をしていますが、虚心坦懐に読むとこれがなかなか面白い。特に、前半の小説パートは、こんな本が本当にあったら是非読んでみたい!と思わせる、エキサイティングで冒険的な作品が並んでいます。「親衛隊少将ルイ十六世」と「ビーイング株式会社」は、鴨も是非 -
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文庫化されて飛びついた、
架空の本の書評群という体裁のメタフィクション短編集
『完全な真空』(1971年)。
順序が逆で、後から刊行されていた《実在しない未来の本の序文集》
『虚数』(1973年)を先に読んだので、
多分ついていけるだろうと思って(笑)。
収録は全16題。
■完全な真空
ワルシャワで出版された
スタニスワフ・レム著『完全な真空』の書評
(という触れ込みの文章)。
■ロビンソン物語
パリで出版された
マルセル・コスカ著『ロビンソン物語』の書評
(という触れ込みの文章)。
■ギガメシュ
ロンドンで出版された
パトリック・ハナハン著『ギガメシュ』の書評
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