【感想・ネタバレ】サラゴサ手稿 上のレビュー

あらすじ

サラゴサ包囲戦中、無人の館でエスパーニャ語の手稿を発見したフランス軍士官がその後捕虜となる。彼の持つ手稿が自分の先祖の物語だと知った敵の隊長は喜び、その物語を彼にフランス語に訳し聞かせた。それを書き取ったものが本書だという。真正完全版で削除された逸話を多く収録し、物語の配列も異なる、異本の工藤幸雄訳。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

前年、岩波文庫から出ているのを読んだ。
その解説において、「サラゴサ手稿」には複数の異なるヴァージョンが存在している、とされていた。
この工藤幸雄による邦訳は、その「異なるヴァージョン」のひとつ、ということになる。

岩波文庫版の方の記憶はそれほど鮮明ではなく、また細かく比較して読むような手間を(今のところ)かけられていないが、違っているな、という点はいくつかあった。たとえば、この創元ライブラリ版で少し登場した「さまよえるユダヤ人」やそれにまつわる部分はまるっきり覚えがなく、同じ箇所を見比べてみるとたしかに、岩波文庫版からは、その部分がまるっと抜け落ちていた。
あるいは、数学者ってこんな早くから登場してたっけ? と思い岩波文庫版を見てみると、そちらでは下巻あたりでようやく、といったところで、物語の順序にも違いがある。
とまあそんな具合に、内容として異なる部分がちょいちょいある。

内容の違いだけでなく、訳文の違いもまた、岩波文庫版を読んだ人にとっては楽しめる部分だと思う。こちらは、もともと世界幻想文学全集(だったっけ?)に出た抄訳から始まっているからか、全体的に、外連味がある文体となっている。冒頭の部分なんか、まるっきり別物で、いい雰囲気を出している。

とはいえ、より広い読者を対象とした読みやすさでいえば、岩波文庫版に分がある。
「異本である」という点を抜きにしてもちゃんと棲み分けはできそうな感じだし、両方とも読んで飽き飽きするものでもないだろう。

0
2024年06月25日

「小説」ランキング