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歴史上から姿を消した謎の民族ハザールに関する事典の形をとった前代未聞の物語集。キリスト教、イスラーム教、ユダヤ教の交錯する45項目は、通して読むもよし、関連項目の拾い読みもよし、たまたま開いた項目を一つ読むもよし、読者の意のまま。男女両版の違いはわずか10行。どちらの版を選ばれますか? 旧ユーゴスラヴィアNIN賞受賞。/解説=沼野充義※解説も男女両版に違いがあります。
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Posted by ブクログ
再読。一気読みするとミステリーとしての構造がはっきりと見え、初読時よりエンタメ小説らしく思えた。読み終えてからも各項目の読み直すのがまた楽しい。 前回はあまりに東欧について無知だったが、マイリンクの『ゴーレム』やストーカー『ドラキュラ』の想像力が生まれてくる風土を頭に入れて読み返せば、惜しげも無く詰...続きを読むめ込まれた奇譚の豊かさにクラクラする。アテーと鏡の話、人生の一日を閉じ込めた卵の話、天使と契約して聖画を描く悪魔の話、亀の甲羅に文字を彫ってやりとりする秘密の恋人たちの話など。特に妖婦エフロシニアに捧げたドラキュラオマージュの長詩は美しい。 また一気読みしてキリスト教(ギリシャ正教)、イスラーム、ユダヤ教、それぞれの資料の読み味の違いがよくわかった。キリスト教資料は幻想味が強く、物語として面白いものが多いが客観性に欠ける。イスラームの資料は神秘主義的な言い回しをするが、最後まで読んでからまた戻るとヒントの多い章。ユダヤ教の資料はカバラ主義的であると同時に歴史記述意識が高く、比較的客観的な目線で書かれていると思う。 史実ではハザールの王室はユダヤ教に改宗したとみなされている。本書では改宗の謎は謎のままだが、国が消滅し他者が見る夢のなかを転々として生きるハザール人は、セルビア人のパヴィチの手で、同じようにアイデンティティをめぐる争いに巻き込まれた人びとの抽象的なアイコンになったのではないかと思う。 辞典形式、広く言えばカタログ形式の小説は今じゃそう珍しくないけれど、やっぱり完成度でこの作品を凌ぐものには巡り会えそうにない。
これまでの読書体験とは一味違う新鮮な感動が味わえる。いくつものストーリーが複雑に絡み合っているので多方面から全体像を探る必要がある。これから読み返すたびに新たな発見がありそうで楽しみ。
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