東郷えりかのレビュー一覧
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疫病、人口問題、遺伝的変異、アルコール・カフェイン・薬物、長子相続、認知バイアスなどが及ぼした世界の歴史で終始一貫して長期に見られた傾向の結果や波及効果について探求した本。著者は宇宙生物学が専門だが科学を通して見た歴史書という感じ。特に風土病・感染症の観点からの植民地に関する分析が秀逸。
BEING HUMAN: HOW OUR BIOLOGY SHAPED WORLD HISTORY
【目次】
はじめに
第1章 文明をつくるソフトウェア
第2章 家族
第3章 エンデミック――風土病
第4章 エピデミック――流行病
第5章 人口統計
第6章 気分を変える
第7章 コーディング・エラー
第8章 認知バイアス
おわりに -
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人間の身体的な側面(遺伝子、病気に対する抵抗、人口増加・減少の原因、薬物、認知バイアス等々)に焦点を合わせた『銃・病原菌・鉄』とも言うべき著作で、ものすごい説得力がある。『銃・病原菌・鉄』がまだまだ文明というものを脳内の機能が発揮されたものと過大解釈してんじゃねーのという印象を読み手にもたらすというか、世界史の見方を根本的なところから修正する必要あるんじゃという印象を持った。陸地がつながってるあいだにアフリカからユーラシアに出てきたサルの一部が、家畜と農耕とで人口を増やし、病気も増やしたけど免疫も得た。海がまたつながって遮断されたアフリカとアメリカ大陸では、家畜由来の病気とは無縁だった。ヨーロッパ人が南北アメリカ大陸にもたらした天然痘が原住民を根絶やしにしたので、らくらくとアメリカ大陸を征服できた。一方で、アフリカはマラリアと黄熱病によってヨーロッパ人を拒んでいたが、それゆえに現地をヨーロッパ化しようという考え方にならず、象牙と金と奴隷を奪いつづける収奪的な現地支配がすすめられた。19世紀以降、キニーネの生産が追いつくようになって一気に内地にまで征服が及ぶようになった。みたいな「なるほどー」というほかない一連の考察が得られて、めっちゃおもしろい。いや、断片的にはそういうこと知ってたけど、ひとつながりになる面白さがあるでしょー。人類史を俯瞰するストーリーテリングが巧みな、スリリングな1冊。
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Posted by ブクログ
国境をほとんど意識しないで生活している島国、日本。そんな我々日本人こそ、この本を読むべきだと感じた。ルポルタージュの形式で前史、古代、中世の国境の在り方を前半では記述している。後半にはウィルスのパンデミックや気候変動で、人間が引いた線が崩れていく様を知らせてくれる。人が引いた国境は強い国には無いに等しいもので、現在もロシア、中国、イスラエルなどは同じ態度を貫いている。しかし、最後の2章で伝えている、ツバルのように海に沈みかけている国や、砂漠化が急速にすすむサヘル地域からの環境難民、コロナでの国境封鎖。どれをとっても高い壁を絶対神のように作ることを対策と考える大国の指導者は、それを引き起こしたのは基を辿ればあなた方のエゴにあることに立ち返り、本当の地球号を救う道筋を選んでほしい。
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ネタバレ
医学について
・もっとも基本的な感染対策は、手洗いとうがい。
飲料水が排泄物で汚染されないように対応すること。
・腸管感染症に対する治療の基本は、水分補給。
塩大さじ1杯+砂糖大さじ3杯→1リットルの水でかき混ぜる。
・単純な顕微鏡:透明なガラスを温めて引き延ばす→細いひも状にする→熱い炎でこの先端を溶かし、垂れさせる→
ガラスの滴は落ちる間に冷え、球形の極小のガラスビーズに→金属の薄片か、厚紙の真ん中に穴→
この穴に球形のレンズを乗せたものを作る→それを試料の上にかざす。
・難産の時に赤ん坊を取りだす、手術によらない方法:産科鉗子を産道まで差し入れる→
胎児の頭蓋骨をしっかり注意深くつかむ→頭の位置を直すか、静かに赤ん坊を引っ張りだす。
・即席の保育器:シールドビームやヘッドライト、ドアチャイム、小型扇風機、バッテリーで出来る。
・聴診器は、体の内部の音を明らかにする。心拍音の異常や肺の病気(ゼイゼイ、パチパチ、プクプク)、
腸の閉塞部(無音)、胎児のかすかな心音までわかる。
・真空ポンプ+二枚の金属板+高圧電流→電子+エックス線。
エックス線は、体の内部の状況を見せてくれる。使用者は、鉛の衝立の後ろで保護される必要あり。
・人体には、構造上で動物とは重要な相違点がある。
・疾患は、全身に及ぶ問題よりも、特定の臓器の問題によってしばしば起きている。
・鎮痛効果:柳の樹皮、トウガラシ、ミント、ケシ。
・消毒剤、消炎剤:ラベンダー。
・抗マラリア薬:キナの木の樹皮。
・臨床試験を成功させるには、被験者を無作為にグループ分けして偏りを無くすこと、
そしてニ重盲検法を利用すること。
・手術をする際の前提条件:正しい解剖学的知識、無菌状態、麻酔。
・無菌状態:ヨウ素、70%エタノール、高温殺菌した手術室。
・麻酔:笑気ガス、ジエチルエーテル。
・医学の再発展の過程では、秩序だった緻密な研究を省く近道は無いだろう。
人間の苦しみを緩和するためには、動物実験のような望ましくないことも実践しなければならないだろう。
・抗生物質ペニシリン。
・必要な科学を理解していても、大破局後の文明は一定レベルの高度さを再び確保しなければ、
社会一般に影響を及ぼすほど、充分な抗生物質を生産できるようにはならないだろう。
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Posted by ブクログ
前職でずっとネパールに関わっていて、ネパールではインド料理と思われるものをよく食べた。メニューを見ただけではよく分からないものも多々あったが、唐辛子が苦手な自分でもそれなりに楽しめる食事が多かったことを懐かしく思い出す。
タイトルは「インドカレー」となっているが、紹介されている料理はインドカレーというより、「読み手がインド料理だと思っている各種料理諸々」である。なんせ中盤ではみんな大好きチャイ(チヤ)まで出てくる。
著者が冒頭に限らず本書全体を通じて述べているのが、「インド人が食べるものは出身地、宗教、共同体、カースト、貧富に左右される」ということ。それはつまり、画一的な「インド料理」なんてものはどこにもない、ということである。当たり前のようで見落としがちなこの点を、著者は様々な料理を紹介しながら丁寧に指摘していく。
本書が面白いのは、料理の発展がムガル帝国の支配やポルトガル人の関与、イギリス人の東インド貿易とイギリス式食文化のインドへの導入などと不可分であるため、料理を紹介しつつもインドを中心とした南アジアの歴史の詳説にもなっているという点。そのため、それなりに長く南アジアに関わっていた自分でも知らなかった知識が随所にちりばめられており、非常に面白い。
例えば今では宗教を示す「ヒンドゥー」という言葉に関し、元は「インダス川の東のヒンドゥスターンから来た人」という意味しかなかったところ、ムガル人が宗教的な意味合いとして「イスラームに改宗していないインド人」とし、行為や習慣の正当性を表現するためにヒンドゥーという語を普及させたという点。
あるいは、「カレー」という言葉はヨーロッパ人がインドの食文化に押し付けた概念であり、インド人が固有の名称で呼んでいた多種多様な香辛料の効いた料理を「カレー」の一言でまとめてしまったという点。
ケチャップの原型は中国から東インド会社によりインドに持ち込まれ、19世紀まではトマトではなくキノコから作られていたという点。
インドに配属されていたイギリス人総督がインドでの食生活を懐かしみ、イギリスの食料品店に作らせた辛すぎるソースが月日を経て熟成し、ウスターソースとして世に出るようになったという点。
こういったエピソードを読むだけでも、インドという国の複雑さやインドがイギリスをはじめとしたヨーロッパ諸国に与えた影響の大きさを知ることができて楽しい。
一番驚いたのは、ネパール人もインド人も大好きで、どんな僻地の村に行ってもある「チャイ(チヤ)」を飲む習慣が、インドには20世紀初頭までなかったということ。イギリスが紅茶をインドで消費させようという目論見を持ち、第一次世界大戦頃からインド全土で大々的な紅茶キャンペーンを打ち、消費文化を根づかせていったということが8章で詳しく書かれており、非常に興味深く読めた。
自分たちの都合で紅茶文化を根づかせたと書くと、植民地主義の匂いが非常に強くなるが、著者は紅茶がもたらした共同体間の関係の改善を指摘している。原産が中国の紅茶は「外来食材」であり、「アーユルヴェーダの分類外」であるため、「アーユルヴェーダの考えに基づく浄/不浄の概念に煩わされない飲料」で、「異なるカーストや共同体の出身者が一緒に楽しめる飲料であった」としていて、ここはなるほどな、と思わされる。確かにネパールでチヤを飲む時、そこにカーストの違いやネパール人とインド人、日本人といった区分けは存在しない。みんなフラットにチヤを楽しみ、話をし、別れていく風景をいつも見てきた。
ヨーロッパが進出、侵略したことで滅んだものもあり、苦しんだり殺されたり翻弄されたりした人がいたことは事実。一方で、そうした外部からの刺激と、外部から導入されたものを取り入れ、インド風にアレンジして職を発展させていったインドやイギリスやポルトガル、オランダの先人たちのおかげで、今の食文化が発展したというのも事実。
カレーだけでなく奥深いインドの食文化そのものを知ることのできる良書。これが文庫で出ているのだから有難い。 -
Posted by ブクログ
この本は、人間の身体的特徴がどのように文明の発展に影響を与えてきたかを探る壮大な著作。次のそれぞれ独立した8章からなり、どの章もとても面白く読むことができた。
第1章 文明を作るソフトウエア
第2章 家族
第3章 エンデミックー風土病
第4章 エピデミックー流行病
第5章 人口統計
第6章 気分を変える
第7章 コーディング・エラー
第8章 認知バイアス
著者のルイス・ダートネルは、英国ウエストミンスター大学教授で宇宙生物学が専門。だが、この本は宇宙生物学の本ではない。どうしてこのような幅広い分野で洞察力を発揮できるのだろうか不思議でならない。
ヒトの体と人類の歴史を作ってきた関係の例として、第7章では、ヒトがビタミンCを合成することができないことが、マフィアの誕生につながったとして、以下の説明がなされている。
地球上のほぼすべての動物は、通常は肝臓でビタミンCを合成することができる。しかし、ヒトやその他の類人猿はこの生化学的な能力を失った。大航海時代、船乗りを壊血病が襲う。ビタミンCを摂取できないためだ。レモン果汁の配給により壊血病を克服する。レモンは柑橘類の栽培に適していた暑い気候のシチリア島でつくられた。18世紀、イギリス海軍が大量にレモンを調達したことにより、レモンの相場が急騰、莫大な資金が流れこんだことにより、マフィアが誕生した。
なかなか興味深い考察だ。
ヒトの身体的特徴以外でも、心理メカニズムとして、人間には群衆行動をとろうとする強い傾向がある。
これを進化という点から見ると、危険の多い自然では、たとえ最善の行動方針だと確信していない場合でも、単独で対処する危険を冒すより、ほかの人たち全員についていく方がおそらく安全なのだ。自分が正しいと感じるときでも、集団のなかで目立つことを嫌がる。これは素早い判断を下すための手段となり、何もかもを自分でゼロから決めた場合にかかる時間や認知労力を節約してくれる。
自分の身近によくあるこの傾向。現代における人間心理は、かつての狩猟採集時代の頃と全く変わっていないことに驚きを隠せない。
第7章からもう一つ。
1度の遺伝子変化が歴史を変えた例として取り上げられているのがロシア革命。
一体どういうことなのか?
まずは、歴史的事実。
ロマノフ朝最後の皇帝ニコライ2世の皇后アレクサンドラは第5子として待望の男子アレクセイを産むが、この皇太子アレクセイは遺伝による血友病であった。不思議な能力を持ったラスプーチンはアレクセイの血友病の治癒のため宮廷に招かれ、皇后アレクサンドラの厚い信頼を勝ち得る。宮廷に足繫く出入りするラスプーチンはニコライ2世にもロシアの政治にも大きな影響を与える。
そしてやがてロシア革命へと繋がるのだが、問題はアレクセイの血友病。これがなければ、ラスプーチンはいなかっただろうということ。
つまり、アレクセイの遺伝子変化がなく、血友病でなければ、ロシア革命はなかったかも?とまでは言わないにしても歴史が大きく変わった可能性は否定できない。
第4章エピデミックより
14世紀ヨーロッパを襲った黒死病。これは人類を襲った最も深刻な人口統計上の大惨事であった。あまりにも多数の死者が出たため、社会の不平等が是正された可能性があると説く。つまり、労働力が希少になれば、実質賃金は上がり、富裕層と貧困層の格差が縮む。黒死病のあとにはこうした事態が生じたという。黒死病以前のヨーロッパは人口過密状態で、黒死病がこの手詰まり状態を打破したというのだ。
数年前に地球上に猛威を振るったコロナ。これも黒死病と同じく、地球上の人口過密状態を自然の力が是正しようとしているのか?そんなたわいもないことを連想してしまう。
ここまで書いてきて気づいたが、この本は歴史の本?そうなんです。歴史の本なのです。 -
Posted by ブクログ
もしも文明が滅んだとして、そのあと、現在の科学文明を最速で復興させるのにはどのような知識があればいいか?
核戦争とかで全面的に滅ぶのではなく、感染症などで、ほとんどの人類が死に絶え、インフラなどは機能しなくなったものの、建物などは取り残されているという仮定で、そこから上記の問に対して、必要な知識を分野をわけて書いていくという思考実験的な本である。
何となく、自分がそんな文明の滅んだあとの生き残りとして、この本を読んでいるところを想定しながら読んでいたけれど、
実際そのような目にあうことは、ほとんど有り得ないと思うが(そんなことはあって欲しくない)、
でも、この本はそういった場面での実用性よりも、むしろ、生活していて意識されすらしない私たちの生活を支えてくれている科学の存在を教えてくれる。
中には中学校くらいで理科で習った記憶がかすかに残っているような内容もあるのだけれど、その時には知りもしなかったが、実はこの世界を支える重要な要素だったことを再発見するような体験を何度もさせてくれる本だった。
大人になって読んでも楽しめるが、子供が読めばどう感じるだろうか。感想を聞いてみたい。 -
Posted by ブクログ
高校までの科学で理科で習うような用語がたくさん出て来て、あぁ教育ってやっぱ大事だよなぁと懐かしかった。(ハーバーボッシュ法とか笑)
一つ気になるのは誰がこの再興の役割を担うのかということ。この本は世界に1人取り残されたことを想定しているのか、、、そうなると製鉄とかは多分できないだろう。
世界が滅ぶとして、あなたは何を残しておくかという問いはなかなか難しい。
それぐらいに今の世界はもので溢れているのが当たり前。
リチャードファインマンの言葉が印象的だった。こういうのが本質を捉えている気がする。
「私の考えでは、それは原始仮説、すなわち、すべての物質は原子からできていて、永久に動き回る小さい粒子は、いくらか離れているときは互いに引き合うが、無理やり押し付けられると反発するというものだ」
この言葉だけが滅んだ世界に唯一残ってるとして、ほんとに世界を再建できるのかとか考えると面白い
Dr.stoneとアイアムレジェンド見なければ、、、