中勘助のレビュー一覧
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古い木箱から見つけた銀の匙をきっかけに、幼い頃の記憶が語られる。
子どものころの世界の見え方、考え方が、大人が思い出しながら話すそれとは違い、本当に子ども心に語られているよう。
前に読んだ『センス・オブ・ワンダー』に近い印象を持った。
子どものころには、子どもにしか感じられない世界がある。
周りのものに一々感動したり、悲しんだり、驚いたり。
大人になるにつれ、色々なものを知る中で、そうした感動は薄れていく。
私は息子と度々山登りをするが、いかに大人の私とは見ているものが違うかを実感する。
変わった形の枝、街では見かけない虫。
そうしたものに逐一足を止め、「パパ見て!」と呼ぶ。
大人であっても、 -
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「銀の匙」は、以前からいつかは読みたいと思っていた作品です。しかし、他に読みたい現代小説がたくさんあって、なかなか手にすることはありませんでした。ところが、教育学者の齋藤孝さんが書かれた本に、読むべき名著として「銀の匙」が推薦されていたことから、背中を押されたように、この度ようやくこの作品を手にして、時代や環境は違うけれど、自分の子供の頃を思い出すような優しい世界に浸ることが出来ました。
「銀の匙」は、岩波文庫、新潮文庫、角川文庫などから出版されていますが、調べたところ、本書は巻末ではなく同じページに注釈が書かれており、何より画家「安野光雅」さんの挿絵も描かれているということで、いちばん読み -
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120年前ほど前の東京で暮らしていた筆者が子供の頃に経験したことなどを日記風にまとめたもの。
やや癇癪持ちであった子供の頃の筆者と、その面倒を見てくれた伯母さんとのやり取りが主軸に据えられていて、筆者が成長して伯母さんが亡くなったあたりまでが書かれる。
当時の物事が子供目線でかつ細かに書かれていて、解像度が高く面白かった。
話に出てくる筆者の家は文京区の小日向辺りのにあったようだ。あの住宅しかない地域が自然に溢れていた時期に書かれていることもあり、少しギャップを感じた。
小高い台地の上にやたらでかい家が多く建っている印象だったのだが、当時の区画がそのまま今まで残っているのかもななども思った。 -
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病弱で祖母にかじりつきの中勘助の幼少期から青年までの自伝的エッセイということになるのかな。
本当に小さな頃からの話を事細かに、その時の自身の気持ちを主軸に書かれているんだが、それがすごいのなんの。
記憶をその時その時にわけて真空パックにでもしているのかというほどありありと書かれてらっしゃる。
ずっとただの日常の話なんだけど人間味というか生活感というか…それが溢れていてとても好きな1冊になりました。
解説にも書かれてたことになりますが、他の作家の影響がなく世界観が無二だそうで、なるほど新鮮に読めた気がしたのもあながち間違いではなかったかと思いました。
そういう事なのでもしかしたら好き嫌い -
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美しすぎる日本語。
主人公が子供の頃から大切にしている小箱。
(抜粋)
なにもとりたてて美しいのではないけれど、木の色合いがくすんで手ざわりの柔らかいこと、ふたをするとき ぱん とふっくらした音のすることなどのために今でもお気に入りのもののひとつになっている。なかには子安貝や、椿の実や小さいときの玩びであったこまごましたものがいっぱいつめてあるが、そのうちにひとつ珍しい形の銀の小匙のあることをかつて忘れたことはない。
主人公の宝物ばかりをしまった小箱の中にある“銀の匙“。そこから、小さい頃、病弱であった自分を母親代わりに大切に育ててくれた叔母さんの思い出、繊細な“私“が見てきたもの、 -
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2020.7.22
体が弱いことからこの時代にしては甘やかされて(実際にしょっちゅうお菓子やらおもちゃやらを買ってもらえているのでそれなりにお金がある家と思われる)育ったのに、そんなに傲慢にならず感受性豊かに育った主人公の話。
前半は子どものころ面倒を見てくれた伯母とのやりとりがほとんどだが、文体が流麗で景色がありありと浮かぶ。現代語訳ではないけれど昔すぎないのでよく読めば意味は十分わかる。当時の流行り物やかけあいもおもしろく笑ってしまうところも多々あり、原文だからこそ伝わるものもあると思った。
日清戦争あたりの描写や「兄」に代表される、画一的でダイバーシティを良しとしない、「戦時下の日本 -
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銀の匙は中勘助が書いた小説。中勘助の自伝的小説だそうだ。
明治43年に前編が執筆され後編は大正2年1913年に執筆された。
文章が美しく、当時をしらない自分にも郷愁を抱かせる描写がすばらしい。
東京の神田で生まれた主人公は、やがて緑豊かな小石川に引っ越す。
その土地でであった子どもたちとの交流や、自然描写、淡い恋心などが綴られていく。
病弱だった主人公が、世界を見る視点は、生き生きとしていて驚きや恐怖に満ちている。
小学校に上がってしばらくすると、主人公は勉強に追いつかず、苦労して遅れを取り戻す。
体が大きくなり、ガキ大将となる。
やがて近所に越してきたおけいちゃんという女の子と親しくなり