中勘助のレビュー一覧
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明治時代の東京の下町を舞台に、病弱な少年の成長していく日常を描いた自伝的作品。
夏目漱石が「きれいだ、描写が細かく、独創がある」と称した、まさにそのままの作品。ほんとうに優しい文体で、少年の心情の表現が細かく為されている。数人の同年代の女子との交流が、章の区切りのような役割を果たしていて、それぞれの対応によって少年の成長が実感できる。近代文学界のほっこり小説。
「お恵ちゃんは誰が自分をいたわってくれるかさえ知らずくやしそうに泣きじゃくりして人のするままになってたが、ようよう涙を止めて だれかしら というように袖のかげから顔を見合わせたときにさもうれしそうににっこり笑った。長いまつ毛がぬれて -
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大人になっても捨てられない銀の匙
虚弱な赤ん坊だった彼は
それを用いて漢方薬を飲まされていた
母から聞いたその頃のエピソードをとっかかりに
幸福な少年時代が回想される
虚弱だったもんで伯母さんに甘やかされており
乱暴な男の子たちのことは憎んでいた
それで、よその遊び相手といえば専ら女の子であった
しかし成長するにつれ
虚弱なままでは女の子にも相手されないということに気づく
それでだんだん活発な子供へと自分を変えていった
他の男の子と喧嘩もできるようになった
ところが時は流れて奇妙なことに
いつしか女性とまともに喋ることもできない若者となっていた
そんな皮肉でこの話は終わる -
Posted by ブクログ
前篇が1911(明治44)年、後篇が1913(大正2)年の作。
当時夏目漱石がいたく賞賛した作品とのこと。確かに子どもの心、子どもの世界をよくとらえており、自分とは全く違う環境・違う経験のプロセスにいるのに、読んでいるとどこか懐かしい感じに囚われるのは、やはり「子ども」の普遍を掴んでいるからだろう。大人から見れば「ほほえましい」のかもしれないが、子どもは子どもで真剣に悩んだりしているものである。しかしその頃世界はまだ自分とつながっていて、全体はふんわりと包まれているような優しさだ。そんな幼年時代の、守られている幸福。
後篇でかつて長いこと可愛がってくれた叔母さんが亡くなるところが、悲しい -
Posted by ブクログ
なるほど、長らく読み継がれてきた本だとの思いを新たにした。
初版が大正元年(1912年)だ。
前編と後編に分かれていて前編が幼時から小学低学年、後編が高学年から17歳までの思い出といってしまうと平凡。
病弱な神経の過敏なひとりの男の子が成長していく姿。
銀の匙で薬をひと匙、ひと匙ふくませるような文を通して語りかける子供の世界。
幼子の物語、世界であっても、ある普遍性を秘めている。
中勘助の独特の目でみたところのあまりにも、あまりのも鋭くとぎすまされた人生観がある。
昔(40年前)読んだ時は、遊びつかれた宵の月の美しさ、虫の声、など地の文にすける自然に心奪われた。しかし、今読み返してみる -
Posted by ブクログ
1935年、およそ100年くらい前に岩波文庫から出版された本です。どこでこの本の情報を手に入れたのか?もう定かではありませんが、1930年代のこの国の原風景をとても細やかに描写していて当時の日本の文化や空気に触れられた気がしました。
ちょっと繊細で弱虫な少年の幼少期の成長譚なんですが、読むほどに情景が浮かんでは消えて、泣き虫少年の胸の内に湧き出す喜怒哀楽がとても芳醇な描写や表現で綴られていて日本語自体の響きの柔らかさ、語彙の豊かさを感じます。
本作のように主人公が日常で感じる悲喜こもごもの心理描写を詳細に描いた物語って、読んでいてカズオイシグロ先生の「私を離さないで」を思い出しました。物語では