あらすじ
なかなか開かなかった茶箪笥の抽匣(ひきだし)からみつけた銀の匙。伯母さんの無限の愛情に包まれて過ごした日々。少年時代の思い出を中勘助(1885-1965)が自伝風に綴ったこの作品には、子ども自身の感情世界が、子どもが感じ体験したままに素直に描き出されている。漱石が未曾有の秀作として絶賛した名作。改版。(解説=和辻哲郎)
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古い木箱から見つけた銀の匙をきっかけに、幼い頃の記憶が語られる。
子どものころの世界の見え方、考え方が、大人が思い出しながら話すそれとは違い、本当に子ども心に語られているよう。
前に読んだ『センス・オブ・ワンダー』に近い印象を持った。
子どものころには、子どもにしか感じられない世界がある。
周りのものに一々感動したり、悲しんだり、驚いたり。
大人になるにつれ、色々なものを知る中で、そうした感動は薄れていく。
私は息子と度々山登りをするが、いかに大人の私とは見ているものが違うかを実感する。
変わった形の枝、街では見かけない虫。
そうしたものに逐一足を止め、「パパ見て!」と呼ぶ。
大人であっても、そんな驚きや感動に満ちたこの世界の一端を、見逃さないように生きていきたいと思う一冊だった。
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読んでいる間、幸福な時間でした。
春夏秋冬の一場面を映し出す、芸術的な日本語。
息を飲む表現の数々に酔いしれました。
静かな空間、想像力と集中力を用意して読む本。
小説というより芸術作品、映像、絵画を見る感覚に近い。
唯一無二の日本文学、一番好きな本のひとつ。
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記憶力の化け物か感受性の化け物かその両方っていう本。
27歳の成人がこれだけ細かい描写で子供の心情を語れるというのが凄まじい。
p. 153あはれな人よ。なにかの縁あつて地獄の道づれとなつたこの人を 兄さん と呼ぶやうに、子供の憧憬が空をめぐる冷たい石を お星さん と呼ぶのがそんなに悪いことであつたらうか。
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読み始めると読み耽ってしまう幼少期の細かく綺麗な心理描写。
いま咲くばかり薫をふくんでふくらんでる牡丹の蕾がこそぐるほどの蝶の羽風にさえほころびるように、ふたりの友情はやがてうちとけてむつびあうようになった。
私はまた唱歌が大好きだった。これも兄のいる時には歌うことを許されなかったのでその留守のまをぬすんでは、ことに晴れた夜など澄みわたる月の面をじっと見つめながら静な静な歌をうたうといつか涙が瞼にたまって月からちかちかと後光がさしはじめる。
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子供の頃の思い出を子供そのままの瑞々しい感性で綴った私小説。病弱な幼少時代の前編と就学後の後編からなるが、いずれも人見知りで感受性豊かな筆者の体験は何処か懐かしい。毎年読み返すたびに「すべてのものはみな若く楽しくいきいきとして、憎むべきものはひとつもない。」そんな風景が当たり前であった過去を思い出し、大人になって失ったものの大きさを振り返る。
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2020.7.22
体が弱いことからこの時代にしては甘やかされて(実際にしょっちゅうお菓子やらおもちゃやらを買ってもらえているのでそれなりにお金がある家と思われる)育ったのに、そんなに傲慢にならず感受性豊かに育った主人公の話。
前半は子どものころ面倒を見てくれた伯母とのやりとりがほとんどだが、文体が流麗で景色がありありと浮かぶ。現代語訳ではないけれど昔すぎないのでよく読めば意味は十分わかる。当時の流行り物やかけあいもおもしろく笑ってしまうところも多々あり、原文だからこそ伝わるものもあると思った。
日清戦争あたりの描写や「兄」に代表される、画一的でダイバーシティを良しとしない、「戦時下の日本」のような日常にたいして、男なのに星を見たりきれいな貝を拾ったり仏教的な慈しみに関心を示してしまう主人公。生まれた時代が遅すぎたか(平安時代だったら良かったのに)、または早すぎたか(2015年以降なら良かったのに)と思った。
とくに「あらすじ」はないけれど、読むとはまってしまいほろりとする、不思議な作品だった。
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著者の自伝的なお話だそうです。最初の方は少し退屈しましたが、だんだん面白くなってきました。いじめられっ子だったのが少しいい調子になった時には「あるある」と思いました。読んでいくうちに夏目漱石の「坊っちゃん」が好きな人は好きなのかなと思っていたら、巻末の解説で夏目漱石から絶賛された、とあり驚きました。
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著者が幼少の頃の思い出が書き綴られている。本書はストーリー性、哀愁、教訓といったものを期待して読むものではなく、美しいものを鑑賞するように読むべきものである。
解説でも書かれているように、本書に描かれているのは著者が幼少の頃の視点の記憶でもなく、大人が想像した少年の視点でもない、少年の視点そのものである。子供がもつ目一杯に開かれた感受性が捉えた花鳥風月の描写が美しい。主人公の繊細な気質が相俟った子供の内面の描写も美しい。
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大人になっても捨てられない銀の匙
虚弱な赤ん坊だった彼は
それを用いて漢方薬を飲まされていた
母から聞いたその頃のエピソードをとっかかりに
幸福な少年時代が回想される
虚弱だったもんで伯母さんに甘やかされており
乱暴な男の子たちのことは憎んでいた
それで、よその遊び相手といえば専ら女の子であった
しかし成長するにつれ
虚弱なままでは女の子にも相手されないということに気づく
それでだんだん活発な子供へと自分を変えていった
他の男の子と喧嘩もできるようになった
ところが時は流れて奇妙なことに
いつしか女性とまともに喋ることもできない若者となっていた
そんな皮肉でこの話は終わる
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前篇が1911(明治44)年、後篇が1913(大正2)年の作。
当時夏目漱石がいたく賞賛した作品とのこと。確かに子どもの心、子どもの世界をよくとらえており、自分とは全く違う環境・違う経験のプロセスにいるのに、読んでいるとどこか懐かしい感じに囚われるのは、やはり「子ども」の普遍を掴んでいるからだろう。大人から見れば「ほほえましい」のかもしれないが、子どもは子どもで真剣に悩んだりしているものである。しかしその頃世界はまだ自分とつながっていて、全体はふんわりと包まれているような優しさだ。そんな幼年時代の、守られている幸福。
後篇でかつて長いこと可愛がってくれた叔母さんが亡くなるところが、悲しい。
文体はとても滋味があって良い。
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導入で引き出しの中の銀の匙、というアイテムから子供時代の回想に入っていって、あとはもうひたすらに、子供時代が描かれていく。
描かれている時代に懷かしさを感じる、というわけではないのだけれど、
あぁ、こんな事に喜んでいたな、とか、ああ、こんな感じだったかもしれないな、と、自分の子供の時分にも思いを馳せる。
この鮮やかさはどこにいってしまったんだろうか。ノスタルジー。開けば出会える子供時代。
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伯母と私の物語。前編は伯母の主人公への優しさが溢れる。病気がちだったこともあり、自分の中に閉じこもりがちだった私を、上手く子供社会になじめるようにしたり、ぐずる主人公をあやす伯母の優しさがギュッと迫る。
後編は、伯母の元から離れて、別の人達と関わりをもつけれど伯母の影響がある
もう一度読みたいです
Posted by ブクログ
子どもの公文国語に銀の匙が出題されていたことがきっかけで読んだ。橋本武先生が灘中で3年かけて教えたことは有名なエピソードであるが、それだけ深みのある作品なのだろう。幼少期の男の子の成長物語が明治の子供達の状況と合わせて丁寧に描写されている。美しく郷愁を誘う文体。主人公の男の子は、少し泣きすぎで、喝を入れるお兄さんの気持ちもわかる。伯母さんの最後は可哀想に思った。
Posted by ブクログ
私は平成生まれで、当然この物語で
描かれている時代については無知である。
しかし、懐かしい。
描かれる人々、風景、モノ、会話、その全てに
懐かしさを感じた。
おそらく、強く日本を感じるのであろうと
思われる。
自伝的な内容で、主人公の幼少から青年期までが
描かれている。
自分に重ね合わせながら、淡い心象描写や
美しい文体に惚れ惚れとする。
力強さはないが、日本文学の良いところ
がありありと感じられる、素晴らしい本だと思う。
読むべき。
Posted by ブクログ
1度途中で挫折したけど
なんだか急に読みたくなって再読した。
伯母にずっとくっついていた事や、いくじがない性格が自分と似ていて共感する部分が多かった。
駄菓子を売っているじじばばが近所にいたり、
初めて学校に行く日の事を思い出し子供心を取り戻したような気持ちに。
ずっと手元に置いていたい一冊になった。
Posted by ブクログ
1935年、およそ100年くらい前に岩波文庫から出版された本です。どこでこの本の情報を手に入れたのか?もう定かではありませんが、1930年代のこの国の原風景をとても細やかに描写していて当時の日本の文化や空気に触れられた気がしました。
ちょっと繊細で弱虫な少年の幼少期の成長譚なんですが、読むほどに情景が浮かんでは消えて、泣き虫少年の胸の内に湧き出す喜怒哀楽がとても芳醇な描写や表現で綴られていて日本語自体の響きの柔らかさ、語彙の豊かさを感じます。
本作のように主人公が日常で感じる悲喜こもごもの心理描写を詳細に描いた物語って、読んでいてカズオイシグロ先生の「私を離さないで」を思い出しました。物語ではなく、少年期の日常エピソード集って作りです。読んでいて面白さもありますが、なんか「ほわっ」となる読後感です。
Posted by ブクログ
これは自伝なのか小説なのか。
多分小説だな。
美しい言葉選びに昔ながらの情景を容易に想像できる。子供の純粋な心情を、格好つけることなく有りのままに綴る。夏目漱石も褒めたらしいですね。
少し癖に育ったように感じる主人公であるが、出会い別れを通して逞しく育っていく未来も感じる。
ケイちゃんが可愛らしかった。
Posted by ブクログ
"灘高で1年間かけて読み費やす授業"
このフレーズだけにとらわれて読みました。
昔と呼べる時代の話で、背景・文化・言葉など現代とは大きく違うものの、少年の核なる心がしっかりと存在するままでの心情的変化と成長は、懐かしくも心苦しくもあった。
この作品を題材に1年間学ぶというのを素晴らしいと感じた。
Posted by ブクログ
誰もが持っている記憶の中の少年時代を、美しい文章で蘇らせてくれる一冊。何度か読み返しているが、その度に、ある種の清涼感を心に与えてくれる。
銀の匙によって呼び起こされる情景は、波の音や、炎の揺らめきのような、気持ちを落ち着かせてくれる不思議な力を持っているように感じた。
Posted by ブクログ
風景描写がすごい。後編の十四の冒頭「地上の花を暖い夢につつんでとろとろとほほえましめる銀色の陽炎のなかにその夢の国の女王のごとく花にはここかしこに牡丹がさく」なんか、難しい単語は使ってないのにどうしたらこんなうつくしい文章が書けるんだ…
ただ四三のお蕙さんと仲直りした場面の
「長いまつ毛が濡れて大きな眼が美しく染まっていた。そののち二人の友情は、いま咲くばかり薫をふくんでふくらんでる牡丹の蕾がこそぐるほどの蝶の羽風にさえほころびるように、ふたりの友情はやがてうちとけてむつびあうようになった」
とか、終盤の友達のお姉さんが出てくるとことか、女性が関わる場面の文章が他より甘い(?)気がして分かりやすいなあ〜〜なんて思ったり
Posted by ブクログ
やっとこさ読む事が出来た。
某進学校では3年間でこの本一冊を読む授業があったとか。
とにかく日本語の表現が独特。
嫌みのない表現と言えばいいのだろうか。
物語自体はどこか物悲しさを感じさせるラストではあるが、育ての親である叔母の優しさを事細かに、思い出すように描いている。
Posted by ブクログ
主人公と叔母の話
国語の教科書にのってそうな、綺麗な表現ってかんじ。ひらがなっていいなってなる。
内容はあんまり面白くなかったかなぁ、。
恋実らずずっと泣いてたしな
Posted by ブクログ
書斎の引き出しに昔からしまってある一つの小箱。子安貝や椿の実・・・こまごましたものがいっぱい詰めてあるが、そのうちに一つの珍しい形の銀の匙のあることを、かつて忘たことはない。
病弱で臆病だった幼少期から、多感な青年に成長する日常を、細やかに描写した自伝的小説。
創作ではあるのだろうが、かなり著者の人生が投影されている小説なのだろう。
とくに起伏もなく、この主人公、特に幼少期はぐずぐずと泣いてばかりだし、時代的なこともあるかもしれないが、青年期の女性への態度も自意識が高すぎて、どうも好きになれない。
でも、情景描写はとても微細で、特に『お恵ちゃん』との件などは面白く読めた。
Posted by ブクログ
灘校で中学3年間をかけて『銀の匙』1冊を読みこむという授業
ということで読んだのだが正直よく分からなかった私には
きれいな日本語ということだろうなのだろうけど
昔の日本の風景ということ以外入ってこなかった