【感想・ネタバレ】銀の匙のレビュー

あらすじ

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安野光雅が描く、自らの幼少期の思い出と、少年の目でとらえた美しい世界。
漱石が絶賛した日本文学の不朽の名作が、心に残る情景とともによみがえる。

「本だけは子どものころの続きだった。はるかむかしのことになった今でも、
おもいだすのはきのうのことではなく、少年時代のことである。」――安野光雅

古い茶箪笥の抽匣から銀の匙を見つけたことから始まる、伯母の愛情に包まれて過ごした
幼少期の日々を綴った自伝的作品。
安野光雅によって情感豊かに描きだされた子どもの内面世界は、誰しもの心にある郷愁、
幼き日のさまざまな感情を思い起こさせる。

作:中 勘助
1885年、東京に生まれる。小説家、詩人。東京大学国文学科卒業。夏目漱石に師事。
漱石の推薦で『銀の匙』を『東京朝日新聞』に連載。主な著作に小説『提婆達多』『犬』、詩集に『琅玕』『飛鳥』などがある。

絵:安野光雅
1926年、島根県津和野町に生まれる。BIB金のリンゴ賞(チェコスロバキア)、国際アンデルセン賞などを受賞。
1988年紫綬褒章、2008年菊池寛賞、他を受賞。2012年、文化功労者に選ばれる。
主な著作に「『旅の絵本』シリーズ(全9巻)」(福音館書店)、『本を読む』(山川出版社)、
『小さな家のローラ』(小社刊)などがある。
2001年、津和野町に「安野光雅美術館」、2017年、京丹後市の和久傳ノ森に「森の中の家 安野光雅館」が開館。

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Posted by ブクログ

「銀の匙」は、以前からいつかは読みたいと思っていた作品です。しかし、他に読みたい現代小説がたくさんあって、なかなか手にすることはありませんでした。ところが、教育学者の齋藤孝さんが書かれた本に、読むべき名著として「銀の匙」が推薦されていたことから、背中を押されたように、この度ようやくこの作品を手にして、時代や環境は違うけれど、自分の子供の頃を思い出すような優しい世界に浸ることが出来ました。

「銀の匙」は、岩波文庫、新潮文庫、角川文庫などから出版されていますが、調べたところ、本書は巻末ではなく同じページに注釈が書かれており、何より画家「安野光雅」さんの挿絵も描かれているということで、いちばん読みやすいだろうと思い、これを選びました。

ちなみに、この「銀の匙」ですが、中勘助が執筆したのち夏目漱石に見せたところ絶賛され、夏目漱石の推薦で当時の東京朝日新聞に連載されたという経緯があるそうです。

さて、内容ですが、幼少期の作者自身の記憶とともに彼の目で見た世界を、ため息が出るほど美しい表現で描いた自伝的小説です。
幼少期から病弱だった作者に、何とか薬を飲ませるために使われた「銀の匙」、これに象徴される叔母の深い愛情に包まれた幼少期を回想し、家族や友達、周囲の人々との交流を通じて、独特な感性を持ちながら心豊かに成長していく様子が描かれています。

主人公の揺れる心の動きや美しい自然の描写がとても素晴らしく、何度も読み返したい文章が随所にありました。それらをここに抜粋して紹介したいところですが、多すぎて断念します。難しい言葉も時々出てくるので国語辞典を傍らに置き、美しい日本語で紡がれた文章をゆっくり時間をかけて、深〜く味わって欲しいまさに名作です。

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2025年05月23日

Posted by ブクログ

銀の匙は中勘助が書いた小説。中勘助の自伝的小説だそうだ。
明治43年に前編が執筆され後編は大正2年1913年に執筆された。
文章が美しく、当時をしらない自分にも郷愁を抱かせる描写がすばらしい。

東京の神田で生まれた主人公は、やがて緑豊かな小石川に引っ越す。
その土地でであった子どもたちとの交流や、自然描写、淡い恋心などが綴られていく。
病弱だった主人公が、世界を見る視点は、生き生きとしていて驚きや恐怖に満ちている。

小学校に上がってしばらくすると、主人公は勉強に追いつかず、苦労して遅れを取り戻す。
体が大きくなり、ガキ大将となる。
やがて近所に越してきたおけいちゃんという女の子と親しくなり、一緒に日々を過ごす。同級生からのやっかみや、ライバルの出現などもあるが、おけいちゃんは最後は主人公のもとに戻ってくる。
しかしおけいちゃんは父親が亡くなり、母親の郷里に戻ることになる。
おけいちゃんが暇乞いをしにきたとき、主人公は部屋にこもって挨拶をしない。このひねくれた気持ちは自分にもよくわかった。

後半は、男らしさを求める兄とのやりとりや、戦争で盛り上がる同級生や学校の先生への反発、ひとり休暇をすごしにいった静養地での美しい女性との出会いなどが語られる。
この女性とは少ない交流の中で主人公に強烈な印象を与えたらしく、これ以上ない美しさをもって描写される。そして、彼女が京都に戻る暇乞いをしにきたとき、主人公はまたも天の邪鬼になり、聞こえなかったふりをする。

彼は恋をした女性の暇乞いには応えないのだ。
それは、おそらくは暇乞いを受けてしまうとその別れを認めることになるからではないだろうか。

美しいものを丁寧な言葉で表現する。それを書き連ねたことで美しい小説が完成した。

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2020年05月22日

Posted by ブクログ

子供の頃の記憶って、案外何気ないことほど覚えてたりする。でもいくら記憶はあっても、それをこの本のようにあの頃のみずみずしさのまま物語として伝えるのは難しいと思う。
おぶられたときの背中の温かさ、その背中から下ろされたときの不安、友達と別れる時に、寂しいのに意地を張ってしまうことも…
人が皆持っている"原体験"みたいなものが宝物のように詰まってたな。
個人的には主人公とお蕙ちゃんのお別れのシーンが一番印象的だった。
幼稚園の頃に引っ越しちゃった友達、どうしてるかな。主人公と一緒にあの頃の気持ちを追体験した気分でした。

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2023年06月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

そもそもこの小説に興味を持ったのは、ある私立難関校で教材として使用されており、3年間で1冊を読むという名物授業があるというのを知ったからだった。
3年間で読むような本とはどんなものなのだろうという興味があった。

購入したのはもうはるか昔のことで、それからまったく読む気にならず、ずっと積読状態だったが、ふと読んでみようという気が起こり購入から約10年経ってやっと手に取った。
なお、私が読んだのは本当は角川文庫から出ているものなのだが、検索したところ電子書籍版しかヒットしなかったので、仕方なくこちらに感想を書く。

何せ大正時代に書かれたものであるから、言葉も今とは異なっており、非常に読みづらいというのが第一印象であった。
また、著者の好みなのか漢字を用いず、「私の書斎のいろいろながらくたものなどいれた本箱の~」(冒頭)などとひらがなで書いてあるのも、どこで単語が切れるのかわかりにくい。
190ページほどの短い小説であるが、読み終わるのに1日半ほどかかった。

特に起伏もなく、淡々と日常が描かれており、起承転結のある小説というより日記やエッセイに近いかもしれない。
四季や時節の行事について触れられていることが多いので、枕草子を思い出した(枕草子を全編読んだわけではないので、あくまでイメージです)。

そんなわけで描写や言葉遣いに興味がある人以外にはつまらない内容ではないかと思う。ただ、時々はっとするような表現が出てくることがあり、そういった部分については夏目漱石の「きれいだ、描写が細く、独創がある」という称賛もわかる気がする。

そういった表現の中で特筆すべきは、お蕙ちゃんと月明かりに腕をかざして、蝋石のように見えるのを楽しんでいるシーンであるかと思う。
描写の表現も美しいし、窓辺で男女の子どもが二人、月明かりに肌を晒している姿が想像できる。
それから一番最後、訪ねてきた友人の姉と夕食をともにする際の、食べものの描写がとても良い。
全体的に描写は細かく丁寧であるが、もっとこういう食べ物に関する描写を読みたいと思った。
並んでいるものはご馳走ではないけれど、色、質感、味が容易に想像できる描写の素晴らしさで、とても魅力的に感じられた。

また、主人公とその兄との会話でも好きなところがある。
星を眺めていたところ、兄に何をしていたのか問われ、「お星さまをみてたんです」と答えたところ、兄に「ばか。星っていえ」とどなられてしまう。
この後の「あわれな人よ。なにかの縁あって地獄の道づれとなったこの人を にいさん と呼ぶように、子供の憧憬が空をめぐる冷たい石を お星さん と呼ぶのがそんなに悪いことであったろうか。」(p.140)という一文が美しく、とても良い。

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2021年02月05日

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