有島武郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ちょっとセンチメンタル過ぎると思ったが、静かな中にも力があり、美しい文章。大正時代の文学。この時代の文章に接するのは幸せだ。
『小さき者へ』
妻を病気で亡くした後、残された幼い子供たちへ語りかける手紙のようなもの。以下は、心に響いた文章の抜粋。
抜粋1
私が今ここで、過ぎ去ろうとする時代を嗤い憐れんでいるように、お前たちも私の古臭い心持ちを嗤い憐れむかもしれない。わたしはお前たちのためにそうあらんことを祈っている。お前たちは遠慮なく私を踏み台にして、高い遠い所に私を乗り越えて進まなければ間違っているのだ。
抜粋2
お前たちが一人前に育ったとき、わたしは死んでいるかもしれない。一生懸命働いているかもしれない。老衰して物の役に立たないようになっているかもしれない。然しいずれの場合にしろ、お前たちの助けなければならないものは私ではない。お前たちの若々しい力は、下り坂に向かおうとする私などに煩わされてはならない。斃れた親を喰い尽くして力を貯える獅子の子のように、力強く勇ましく私を振り捨てて人生に乗り出して行くがいい。
あと、抜粋はしないが、妻が自分の病気を結核だと知らされ、間もなく自分は亡くなると悟ったとき、病気を子供たちに、移さないためだけでなく、子供たちに残酷な死の姿を見せて子供たちの心に傷跡を残して、その一生を暗くすることを恐れて、子供たちに死んでも会わない決心をしたという箇所、葬式には女中を子供たちにつけて楽しく過ごされてやりたいと遺書に書いている箇所、その芯が強さが美しく、心に響いた。
『生れ出づる悩み』
カバー裏からのあらすじの抜粋
“君”という語りかけで、すぐれた画才を持ちながらも貧しさ故に漁夫として生きねばならず、烈しい労働と不屈な芸術意欲の間で逞しく生きる若者によせた限りない人間愛の書
著者はこの若者が16才くらいの時に初めて会った。突然訪ねて来て、著者に自分の絵を見せたのだ。技巧的には幼さはあるものの驚くべき才能が見られる絵を見て、著者は驚いた。だが、その少年は絵のほうに進みたいが、実家に帰って、家業の漁業を手伝わねばならない。いつか、素晴らしい絵を描いて見せにくると言い残して、その場を去る。
何年かして、その少年から油紙に何重にも包んだスケッチブックが送られてきて、著者はその成長を喜ぶ。「一度会わないか」と手紙を書くと、その時の少年は吹雪の中、訪ねてきた、すっかり逞しくなった姿、人間的な成長の著者はあの時の少年とは別人だと初め思った。
その木本という若者から、毎日休む間もなく、死に直面しながら、家族を支えるため漁師として働いているという話、海が荒れて漁に出られない日に、近くの山の景色などをスケッチすることに勤しんでいるという話、しかしそのことも周りからは理解されず、本来ならば漁に出られない日も、網を直すなど仕事は山ほどあり、家族にすまない気持ちがするということなどを夜通し聞いて、著者の想像も交えて、木本という若者の苦悩の日々を描いている。
以下は、木本が天気が怪しい中、漁に出て、嵐に会い、船が転覆した中、九死に一生を得た後の抜粋
抜粋3
君は漁夫たちと膝を並べて、同じ握り飯を口に運びながら、心だけはまるで異邦人のように隔たってこんなことを想い出す。なんという真剣なそして険しい漁夫の生活だろう。人間というものは生きるためには、厭でも死の近くまで行かなければならないのだ。謂わば捨て身になって、こっちから死に近づいて、死の油断を見澄まして、かっぱらいのように生の一片をひったくって逃げてこなければならないのだ。
モデルになった若者は木田金次郎という画家で、有島武郎の死後、決心して、画家となった。グーグルで調べてみると、この小説の中に描写されているのと同じような絵。北海道、岩内の木田金次郎美術館に行ってみたい。
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Posted by ブクログ
友人に勧めてもらって読みました。
美しい文章を読みたい時にうってつけの本です。作者がかつて住んでいた北海道の情景は、さながら風景画を鑑賞するような感慨深さがあります。
また、当時の時代背景をもってしても、作者の女性や弱き者に対する優しさが読んでいて心地いいです。一見独りよがりなようで、そうでない話の内容からも、彼の人としての魅力が溢れんばかりに表現されています。
非常に著名な方であるのに、恥ずかしながら私は今まで知らなかったのですが、その人生の山谷にも引き込まれました。本作のような繊細さと周りへの尊敬を忘れない作者が、最後は不倫相手と心中してしまうというそのギャップにも目を向けざるをえません。有島武郎という人物についても、本書に書かれていますので、彼の繊細さ溢れるお話を読みつつ、大胆にも感じるその人生を考えながら読むことをお勧めします。 -
Posted by ブクログ
有島武郎文学忌 星座忌
雑誌『白樺』(1910年4月-1923年8月)の同人。白樺派で博愛主義と言われています。が、たしか「らんたん」作中で 案外嫌われていた記憶があります。
「小さき者へ」
1918年(大正7年) 雑誌『新潮』
1917年妻を結核で失った著者が、幼い子らへ残した手記。
男の子が三人おり 長男さんが1911年生まれなので 6歳、5歳、2歳くらいのお子さんを残した母親はどんなにか心配でしたでしょうか。
この手記では、息子たちの将来を案じながら、父として誠実であろうとする言葉が綴られています。それなのに 有島は、わずか5年後の1923年、女性との情死を選びます。
子供たちへの愛情に嘘はなかったと思います。けれど、それでもまだ幼い息子たちを残して死を選んだ行動は、どうしても理解しがたい。
初めて読んだのは、まだインターネットも普及していない時代で この作品と有島の人生を結びつける情報は少なく 良いお父さんねーと思ってました。
自分の理想と現実の乖離に苦しんだとしても、
ご兄弟に子供を丸投げの情死は 作品さえも霞んでしまうような気もします。
「生まれ出る悩み」
1918年新聞連載小説。
長いこと自分の本棚にあったけれど、こちらは、内容をほとんど覚えていなかった。
絵描きになりたかったが、家庭の事情から漁師として生きる男。
当時の日本では、階級や資産によって、自分の望む生き方を選ぶこと自体が難しかった。
「生活に苦しむ民衆」の有島の創造の文学と思っていたけど、さすがネット情報社会
この青年に実在モデル、後に画家となる木田金次郎がいたことを知りました。
それでもなお、どこか白樺派らしい“上流階級的善意”を感じてしまうのは、こちらの意地悪な読みなのでしょうか。
有島自身もまた、支配階級に属する自分へ苦悩し、農場解放などの行動を取っています。
けれど、その苦悩から自由にはなれなかったようです。
真面目だったのか。
苦労知らずだったのか。
理想と現実の間で、常に悩み続けていたのですかね。
柚木麻子さんが 講演会でちらっと 有島武郎の名前を出したけど やっぱり嫌いなんじゃないかと思った。違ったらごめんなさいね。 -
Posted by ブクログ
この作品は 有島武郎さんの創作童話にあたる
主人公の僕は
幼い頃から絵を描くことが大好きだった
級友のジルが持っている上質な絵の具で
描いてみたくなり
衝動にかられて ジルの絵の具を盗んでしまう…
しかしすぐに…
大好きな先生に盗んだことがバレてしまい…
じわじわと 盗んだことへの恥ずかしさや
後悔が襲ってきて
大好きな先生の前で 泣き続けてしまう…
あのとき絵の具を盗まなかったら…
あのとき盗んだことが露呈しなかったら…
後悔の波が押し寄せる僕に
先生は優しく許してくれて
一房の葡萄を分けてくれる
盗んだ事実を叱るのではなく
どうして盗んだのか…
どうして絵の具が欲しかったのか…
その思いとしっかり向き合うように
先生は優しく僕に語りかけてくれた
あぁ…読むと
日常で波たった気持ちが落ち着いていく…
決して叱らずとも
優しい語りや
葡萄を分け与える温かい手の感触だけで
子ども達は十分
罪の意識や自分のあり方と向き合うことが
できるのだと教えてくれる
とても素敵な作品でした!!