文学作品は全て、それ以前の作品からの影響をどこかに残す。特に古典では、先人の言葉を用いることで自己表現を豊かにしたり先人への敬意を表したりすることが当たり前に行われ、それが教養そのものでもあった。本書はその古典における言葉やストーリーの「共有性」に着目し、時代を超えて複数の作品を貫く一本の軸、その連続性を明らかにし、古典の新たな魅力を引き出そうとする。これまで個々の作品の魅力を解説する入門書は多かったが、本書は『徒然草』『源氏物語』『伊勢物語』『平家物語』など作品の内部にある、人口に膾炙した表現やストーリー構造そのものにスポットを当て敷衍した立場から古文の魅力を伝えようとする新しい古典入門書である。
正直に言うと、「内容」という観点ではどう考えても現代小説の方が面白いに決まっている。古文の個々の作品の内容的魅力を見出すのには限界があるのではないか。おそらく本当に古文の魅力を引き出すためには別のアプローチが必要だし、内容以外のところに古文の深みがあるのだと思う。それを本書は明文化してくれた。ある一つの作品の一部の表現やストーリーを取り上げ、その影響が明らかに見られる作品部分を読む。そしてそれを時間軸に従い追っていけば、必ずや我々の生きる現代の文学へと繋がるはずだ。これにより「面白い現代小説と対極にあるつまらない古文」という認識を、「面白い現代小説の出発点である古文」という認識に変えることができるのではないか。
古文を教える教師の頭には、全ての文学は繋がっているという認識が漠然とはある。しかしそれを満足に伝えられている教師がいるか疑問だ。示せたとしても、扱う古文教材から一足とびに現代小説への影響を示すのが関の山ではないだろうか。しかしそれでは飛躍がありすぎ、ただの偶然の一致、もしくは同じジャンルに属すという認識に留まってしまう。それでは意味がない。完璧ではなくとも、子や孫などへの命の繋がりを示す血縁図のように、少しずつ時代を追った「文学縁図」が描けると、古文の新たな魅力、しかも古典作品の本質に少し迫った魅力が生徒に伝わるのではないだろうか。
古文教育の新たな、有効な切り口を提示してくれる貴重な一冊である。