渡辺努のレビュー一覧
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昨今、なにかと「物価」が話題だ。しかし、そもそも物価とは何なのか、どう決まるのか。デフレやインフレは具体的に何が悪いのか。分からないことだらけである。
そんな疑問を解消するため、本書を手に取った。
本書は、「物価は『蚊柱』である」という例え話から始まる。
商品一つ一つの値動きはバラバラだが、遠目に見るとひとつの塊としての動きが見えてくる。個別の動きには理由がつけられても、全体としての「物価」の動きを説明するのは非常に難しい。この「蚊柱」の比喩は、物価の掴みどころのなさを実によく表している。
本書を通じて理解できたのは、インフレ以上にデフレへの警戒が必要だという点だ。
デフレはインフレと比較して、中央銀行の介入によるコントロールが難しく、一度陥ると抜け出しにくい。デフレ下では企業が価格を決める力を失い、前向きな投資への活力も削がれてしまうのだ。
また、「景気は気から」の言葉通り、物価の動きは人々の「予想」から生まれるという点も重要だ。
人々の予想が定まらず不安定になると、誰もが中央銀行や政府の顔色を伺うようになり、その動揺がさらなる変動を招く悪循環に陥る。
グリーンスパンは「物価安定とは、人々が中央銀行の動向に興味を持たなくなった状態」だと言ったそうだが、まさにその通りだと思う。物価や社会の安定のためには、そこを目指すべきだろう。
では、どうすればデフレを回避し、物価を安定させられるのか。
それには国民全体が「緩やかに良くなっていく未来」を信じられることが不可欠だ。経済学者ではなく、政治家の役割は、政策を通じて明るい未来へのメッセージを共有し、人々に前向きな気持ちを持たせることにあるのではないかと強く感じた。
最後に、著者のスタンスが非常に印象的だった。
著者は、持論があくまで「仮説」であることを強調し、本書は教科書のようにすべてを網羅したわけではないと断っている。「人の意思決定」という不確実な要素が入る以上、経済学は自然科学のように完全な理論化が難しく、万人に共通する一つの答えを出すのは困難だ。
だからこそ、自分も政治や経済について語るときは、自戒を込めたい。社会は不確実であり、自分一人の視野など限られた小さなものに過ぎないという認識を、常に忘れずにいたいと思う。 -
Posted by ブクログ
日本の物価は30年上がらなかったという特異な状況がなぜ起こったのか?について、考察されており、大変参考になりました。
日本でデフレがこんなにも長くなったのは、みんなが物価は上がらない!と信じたからという根拠は、とても面白かったです。まさにそうだと思いました。
「近年、物の値段が上がり、生活が大変だー!」ということだけが強く言われますが、賃金上昇が伴えば、物価上昇等は悪いことではなく、正常な状態に戻っているんですよー!と書かれており、全くその通りだと思いました。
インフレになると現金の価値が下がるなど色々な変化があり、各自で対策は必要だと思いますが、経済が活性化していくことは、決して悪いことではないと思います。
現状維持の意識が高すぎ、変化を恐れると、景気が停滞するので、「安い日本のままがいい!」というのは、ちよっと違うかな思いました。
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渡邊努書籍3作目。『物価とは何か』の衝撃からもう著者の一般書は追っかける習慣となっている。
今回は今まさに直面している日本インフレ化を紐解く。
人生まるっとデフレで過ごしてきた私としては、今まで経験したことのない局面で期待と不安が入り混じる。そんな私に本書は今後の道筋と予測を丁寧に解説してくれる。
しかし、「97年労使密約」とか2002年「トヨタ・ショック」による賃金据え置きは今から振り返ると愚策であるが、当時は真っ当な議論だったのだろう。でも、もう少しインフレ基調に舵を切れなかったもんかねと訝しむ。
なぜ慢性デフレがここまで長期化したか。その理由も本書には書かれている。
一番心に刺さったキラーワードは慢性デフレ下における「ステルス賃上げ」。これ、社内でも幾人か見受けられるし何なら自分もどれだけ労働生産性高めても賃金一律だし、上手くさぼって業務こなてけばよいかってマインドに陥ることが多分にある。末路は競争力のない企業が横行する未来の無い社会。これが一番怖い。
過去の書籍と地続きになっているので未読の方はぜひ手に取って欲しい。(シリーズ物の小説な感じ)
しかし本書が著者現時点の最高到達点であるはずで、このエッセンスを感じるだけでも価値は高い。現在自分がまさに体験している経済動向のなぜ?を紐解きたいという方は、本書からでも!私は次回作が待ち遠しい。 -
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コロナ禍-2022年ごろまでの経済趨勢をを分析する。
過去のことであるが故に、肌感覚で感じていた日本の物価高と賃金据え置きという現象の理由が、解き明かされた。
当時のインフレは供給不足にあり、この問題に直接対策する術を中央銀行は持ってないという事実に衝撃。あくまで、需要調整を目的とした政策金利の上下なんだな。
名著と名高い『物価とはなにか』でも述べていたインフレの根本原因は、国民のインフレ予想という主張も改めて学ぶ。経済って血の通ってない機会的な操作に終始すると思ってたら、人間の感情に左右されるんだという意外性は、驚きである。
あとは今回も文章の構成が秀逸。名探偵が「謎」を解き明かすため犯人ににじり寄っていく姿が脳裏に浮かび、新書ではあるがミステリーを読んでるかのような高揚感。適宜大切なポイントは繰り返し解説してくれてて、読者に寄り添う姿勢にも感激する。もはやシリーズ小説を読むような心持ちで最新作の『物価を考える』に取り掛かろう。
黒幕はいったい誰なのか?いつか謎は解き明かされるのか?ワクワク。 -
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前著で「ノルム」という用語が登場しましたが、それは渡辺先生が海外の研究者への説明に苦労してひねり出した用語であることが本書で明かされました。
「ノルム」は、特定の界隈でバズワードのようになっており、私も経済現象を「ノルム」でうまく説明できると思っていたのですが、はしごを外された思いです(苦笑)。
本書の終盤では、日銀券(現金ですね)に付利し、場合によってはマイナス金利をつけることによって、デフレ・インフレをコントロールするアイディアが語られます。
現金の名目的な価値は変動しない、というのは、それこそ「ノルム」のようになっていると思いますので、実現までのハードルは高いと思いますが、「ノルム」も不変ではありませんので、いつかは実現するのかもしれません。
その実現の鍵は、CBDB(中央銀行デジタル通貨)であり、本書でもCBDBに一定の資産的裏付けを持たせることが想定されていますが、暗号資産(仮想通貨)のように価値が乱高下することがないのかどうか、一抹の不安を覚えるところです。 -
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「物価とは何か」をゆる言語学ラジオで紹介していたところから、本書にたどり着いた。
現在の物価上昇の背景、日本特有の賃金・物価事情についてかなりテンポ良く知ることができた。
物価が上がれば金融引き締め、教科書的な理解でこれまで生きてきたが、物価上昇には需要ベースと供給ベースとがあり、今回は供給ベース(それも、要素として3つ、消費者(労働者)、企業、サプライチェーンの変容に起因)が原因となっているというのは、大変興味深く、驚きはあったものの理解は実態に合っており、スラスラと読み進められた。
日本の労働市場、物価に関しては、エネルギーを筆頭に上昇していて、物価凍結の壁は破られている?かと思う。賃上げも進んではいるが、今は転職により賃金を上げようとする流れがきているように思う。(転職、本人はいいが、転職は本人と転職元の生産性を一時的に下げる弊害があると思っており、この流れは一旦どこかで歯止めをかける必要があるのては…)
少なくとも物価と賃金が横ばいという常識は崩壊しつつあることがこれからの日本経済にどういう影響をもたらすのか、注目したい。 -
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ネタバレ物価は、蚊ばしらである。世の中に何十万と存在する個別の商品それぞれが、一匹一匹の蚊に相当する。インフレを起こす仕組みとして、まず物価がX%の率で上がると皆が予想し、その予想を踏まえて企業や店舗が値札を書き換える、その結果実際にその率Xで物価が上がる、というメカニズムが考えられる。国民に働きかける中央銀行の行為の98%はトークである。人々の予測に働きかけるわけである。貨幣量を増やすと一時的に失業率は減少するが、しばらくすると貨幣量の増加をインフレ予想に織り込むことが完了し、失業率の押し下げ効果がなくなり、失業率は元の水準にもどる。
日本は物価が上がらない状態がかれこれ30年続いている。人々のインフレ予想が世の中を動かすことから、インフレ予想ができない層が増えているのは日本病の原因の一つだ。同じように企業もインフレ予想ができなくなっている。デフレが社会に定着すると、少しの値上げでも顧客が逃げてしまうのではと企業は恐れ、原価が上昇しても企業は価格に転嫁できないという状況が生まれる。それは企業の新商品開発への意欲を奪い、行き着く先はコストカットだ。物価下落自身はさほど大きな問題ではなく、企業が価格支配力を喪失し、それが経済の活力をそぐことこそが重大な問題だ。 -
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2016年以降の国債の実質価格の急上昇がデフレ脱却できなかった大きな理由の一つ。
なぜ国債価格の急上昇が起こったのか。
①物価の上昇が止まってしまったため。
②国債の名目価格が上昇したため。
なぜこの二つが起きたのか
2016年はマイナス金利政策を始めた。
国債金利がマイナスになるということは、政府に利得が発生し、その利得によって財政収支が改善することで国債の魅力が高まる。
その結果、国債から商品への需要シフトがとまり、資金が再び国債へと向かうようになったため、国債実質価格が急上昇した。
ではどうすればよかったのか。
シムズいわく日銀のマイナス金利は間違っていない。
マイナス金利によって発生する政府への所得移転を帳消しにする新たな財政支出や減税を実施し、財政収支の改善を止めるべきというのが彼の処方箋。
なぜインフレ率は0%ではなく2%を目指すのか。
①名目賃金の低下を受け入れるのに労働者が難色を示す、そのために名目賃金が下がりにくいから。(名目賃金の下方硬直性)
②名目金利がゼロより下には下がりにくいから。(金利のゼロ下限)
日本の価格の上昇率がゼロ近辺のもの(価格据え置きの品目)は1970〜1980年代にかけて高い時で約2割。1990年代の前半もまだ2割。
その後、1990年末から約5割近くの品目で価格据え置きが始まった。
賃上げの据え置きもこの頃から。
日本版デフレスパイラルさ1990年後半から。
その当時は日本の賃金がドル建てでみて世界1.2を争うほど高くなっていた。
このままでは輸出産業が中国企業に太刀打ちできなくなってしまうとの懸念から賃金の据え置きが必須との流れになった。
「総需要」=モノやサービスの「買い手」の意思決定を反映して決まるもの
「総供給」=「売り手」の意思決定を反映して決まるもの
テイラールール=中央銀行の政策金利は、経済が落ち着くべき地点(定常状態)に落ち着いている時には、自然利子率と中央銀行が目標とするインフレ率の和になる。
予測では政策金利は2027年の年末には2%に到達するとのこと。
中央銀行がマネーを増加させたときは(金融緩和した)マネー増加に伴って需要が増えるので、生産量はただちに上昇し7四半期後にピークをつける。
対してインフレ率の反応は緩慢で12四半期後にピークをつけ、20四半期ごに元の水準に戻る。つまりインフレ率の反応は3年程度で概ね終了し、5年経つと完全に終了する。
日銀の政策金利は1999年から足元までゼロ%ないしその近傍であり、人々が予想していた(インフレ予想0%)自然利子率を上回っており、それが原因で需要不足が長期にわたって続いた可能性がある。
また2022年春以降のインフレ率上昇の局面では、政策金利がゼロ近傍で据え置かれる中でインフレ予想が顕著に上昇したので、実質利子率がマイナスになった。一方、自然利子率はさほど変化しなかったのてま、実質利子率が高すぎるという状況が解消された。そのためインフレ率が上昇した。
日本のデフレ脱却のシナリオは、異次元緩和による円安を通じた輸出企業の収益好転。その収益増が賃上げにより家計に回ることがが期待されていたが、トリクルダウンは十分に起きず、消費が低迷しデフレ脱却できなかった。
対してシムズが考えている富効果チャネルは企業ではなく、家計に最初にお金を渡し、消費を喚起し(物価の上昇を起こし)デフレ脱却を図る作戦。
(物価の上昇による国債価格の実質価値の目減によって財政当局の負担は軽くなる)
マネーの中立性=貨幣量は物価水準にのみ影響し、長期的には実質GDPに影響を及ぼさない。
デフレは企業の価格支配力を失わせる。
名目GDP=一国全体の支出の金額を測る指標
実質GDP=「数量」を測る指標
GDPデフレーター=「価格」を測る指標
名目GDP=実質GDP×GDPデフレーター