湯本香樹実のレビュー一覧
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ファンタジーであり不条理であり寓話でありロードムービーでありコメディでありハートウォーミングものでありホラーでもある。
浅野忠信はもとから魂の抜けているような顔。なのにチャーミングという。
ばっちりの演技。(空も風も痛いという凄まじい台詞は、そこらへんの役者には言えないだろう。)
深津絵里は静かに悲しみを持続しているような顔。
だからこそ笑顔や笑い声が嬉しい。
怒った手つきで白玉団子を作るとか、いい。
なにやかやと手仕事をする所作も素敵だ。
蒼井優の自信たっぷりのしたたか悪女。
ほか、小松政夫をはじめとして「いいツラ構え」のおっさんたち。
旅は4つに分割できると思うが、「自分の死に気づかない人」と生者のそれぞれの在り方を見届けることで、自分たち夫婦の在り方も決着をつけようと決意する。
死者の未練、生者の執着、それぞれがお互いを引き止めたり引っ張ったりする。
この均衡不均衡は、生者死者だけでなく夫婦の関係性でもあるのだ。
死後でも「愛の確認」をしなければならないとは。(恨みの幽霊は存在しない。)
そして普段の生活では自分に見せてくれなかった「別の顔」を見て、理解を深めていく。
生死の境界や通り道は、黒ではなく白や霧や湯気のイメージ。
全編仰々しいとともに美しく幸福なオーケストラ。
これも清節と思えてしまえるくらいには盲目的信者である。
しかし、ここまで不穏なのに幸せな感動に浸れるのは、もう清でしかありえないのではないか。
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と、映画版で書いた。
抒情的な怖さを醸し出す設定や小道具や人物や背景やは清の工夫なのだろうとてっきり思っていたが、
実は原作をかなり忠実になぞっていた。
ということは「湯本香樹実の黒沢清性」。変な表現だが。
「死者は断絶している、生者が断絶しているように。死者は繋がっている、生者と。生者が死者と繋がっているように」
という台詞なんて、「回路」に出てきてもおかしくない。
死者が自分の死に気づいていなかったり、生者に交じっていたりするところも。
むしろ映画のほうが、ピアノ勝手に触らないで! や、今度結婚するんです、ふふふ不敵な笑み、や、殴り合い、などなど、エモーショナルな場面が多くなっているほど。
つまり原作は相当に淡々としている。それでいての叙情だから、良作なのだ。
また小説で気づいたのは、決して夫婦の話に限定していない、むしろ親と子という軸が盛り込まれた作品なのだということ。
あとは全編を通じて水の気配。これは小説ならではの巧みな技巧だ。 -
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3年前に失踪した夫が突然帰って来る。
「これでもいそいだんだ」
「ずっと歩いてこなくちゃならなかったから」
「俺の体は、とうに海の底で蟹に喰われてしまったんだよ」
死後、瑞樹のもとに帰って来るまでの旅路を遡る旅。
それはどこかと現実の狭間。
生きている人と、そうではなくなった人が生活している。
夫がどうしてそうなったのか、何が起きたのかなどは一切明かされない。ただ二人はいつか別れが来ることを知っており、それに怯えながら旅をする。
生前の夫があまりにクズで、二人の間に愛があったなんて到底思えないけれど、死んでから旅をしたいと思った相手は瑞樹なんだろうな(いや待て!複数の浮気相手ともそれぞれに旅をしてるかもしれぬ!)
話は終始、静謐で美しい。
ラストの素晴らしさに湯本文学を見る。 -
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父を亡くした小学一年生の女の子が、ポプラの木のあるアパートに引っ越し、大家のおばあさんとの交流で成長していく
日々不安に過ごしてた女の子はおばあさんの秘密を知り⋯という話
沢山の人が手紙を預けてたことに少し驚いた
手紙を預けた人たちは手紙を書くことで折り合いをつけていく
そうして失ってしまったものへの"思い"、辛さをを吐き出して生きていく
主人公もそのひとりで、子供ながらに感じとっていた不安を手紙を書くことで昇華していってたんだと思う
お役目だと言うおばあさんも、達観していてふてぶてしくて清々しい
高学年になる頃には引っ越してしまったけれど、おばあさんと過ごした時間はかけがえのない時間で、主人公の女の子の「心の支え」になっていたことが心に沁みた
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3年失踪していた夫が突然帰ってきたらどんな気分だろうか。
私なら初めは帰ってきてくれた嬉しさがあり、落ち着いて来ると怒りが湧いてくるだろう。
主人公の瑞希は、待ち焦がれた夫優介の突然の帰りを受け入れるが、、、
瑞希の立場に立って読み進めて行くうちに、自分もあてもない旅をしているような感覚になっていった。
この旅は瑞希にとっての心の慰めである。
瑞希の人生の終わりはまだ先にあり、優介への執着と決別するための旅なのだろう。
物語は始終陰鬱ではあるが根底には瑞希の心の再生が見え隠えする。
読後感は生と死の間を行き来する表現に深みがあって、悪くない。 -
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私がおばあちゃんになるまで大好きだと言い続けるであろう「夏の庭」の湯本香樹実さん作品。
最近秋めいてきたので、よし!とページを開く。
夫を失ったばかりで虚ろな母と7歳の主人公の、ポプラ荘でのおばあさんや住人との交流。
「おばあさんがあの世に行く時に郵便してもらう」為に書き溜めた亡くなった父への手紙。
静かで、物哀しい雰囲気が漂うけど(秋という季節がそう思わせるのかも)、とても穏やかで優しい気持ちになる。不思議とすっと心が落ち着くような。好きだなぁ。
千秋に強迫性障害の症状が出た時(はっきりと書いていないけれど)、比喩表現に身に覚えがあり過ぎて、幼い自分と重ね合わせてしまった。
私も「家族に何かがあったらどうしよう、悪いことが起きたらどうしよう」という緊張から始まったような気がする。
焼き芋の場面好きだなぁ。焚き火の煙の匂いを思い出した。もう少し寒くなってから読んでも良かったかもしれない。
ああ、もうすぐ大好きな秋本番だな。
夏は「夏の庭」、秋は「ポプラの秋」。季節の節々で湯本香樹実さんを読み返したくなるんだろうな。 -
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読後に心が暖かくなる物語。
心に深い傷を負った母娘の、再生の物語だ。特に娘の。
だから、当てもなく乗った電車で当てもなく降りた駅で、あのアパートに辿り着いたんだと思う。
深い傷を負った人間は、SOSのような何かを発しているのかもしれない。それは無意識のレベルで何かに共鳴して、何かに助けられる。
救済のなにかは、甘い言葉でもおためごかしの親切でもない。時には厳しいことだったりする。
その場しのぎでなんかではない、何か。
おばあさんはどんな人生を送ってきたのだろう。物語では深く語られることはなかったけれど。気になる。
きっと、人と人との出会いや繋がりを大切にしてきた人なんじゃないかと思う。一見大切にしているようには見えないけれど、その実大切にしてるんだ。それを相手も分かっている。
おばあさんが亡くなったとき、大勢の人々が集う。
わたしがもし今死んでも、集まる人はいないだろう。知らせてほしい友達もいないから。
そんな生き方をしている自分を、あらためて恥じた。 -
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ネタバレ
ようやく再会できた最愛のひとは、果たして私の知ってるあのひとなのか。
水の中をゆらゆら揺れるふたりの関係。姿が掴めない夫の輪郭のなさ。
そこに戸惑いつつも、新たに関係をつむぐふたり。きっと、夫と妻の立場が逆だったらこうはいかないだろう。瑞稀の愛と芯の強さ。
大切な人を亡くした人なら、誰しも幾度となくもう一度会えたら、と思うだろう。夫と旅をする彼女は、羨ましくも映る。
そして、タイトルの秀逸さ。「岸辺の旅」
岸辺は、水と陸地の境にある場所。物語は、その分け隔てられた存在であるふたりが「岸辺」のようにその境が揺れながらでも隔てられていることが印象的。
ひとつに、生と死という隔たり。
瑞稀があちら側にいってしまうのではないか。それが彼女の望むことだと思う。それでも、いくら死の淵に行きかけても彼女は必ず生きる。
これからも生きていくんだということに、著者は読者へ試練であり、希望を与えているように感じた。この終わり方で良かったと思いたい。
さらに、夫婦という存在の隔たり。夫婦という決して血はつながらないのに、最も近しい存在のふたり。
隔たりと強調しつつも、この作品で生と死は親しい。死は忌み嫌うものではなく、もしかしたら本当に死者も生きている人みたいに過ごしているのかもしれないなと思わせる。
あと、出てくる食べ物が非常にリアル。美味しそう。生と死をテーマにした話なのに緩やかで、ファンタジー要素が強いのにリアリティを感じるのは登場する食べ物のおかげだろう。どんな状況にあっても、死者も生者も腹は減る、その愛おしさ。しらたま、鍋、餃子、ロールケーキ、、たべたい。
時間をかけて読んだ。 -
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ネタバレ朝ドラの深津絵里が17歳の役を!すごい!となり深津絵里を検索したときに映画『岸辺の旅』のことを知った。原作が小説だったので読んでみることにした。
最初からなかなか掴みどころがないふわふわとした話だと感じた。死んだと思って3年間探し続けた夫が急に目の前に現れた時、そのときの二人の会話からああ、この夫は死んだんだろうなとは何となくわかる。そのあとすぐにふっと消えてしまうのだろうと思ったら、なかなかどうして、ずっとそばにいる。普通にご飯も食べているようだし、主人公以外の人にも見えているようだ。
いわゆる幽霊なの?なんなのこの存在は?と思いながら、いつ消えるのか、いつ消えるのかと思いながら読むけどなかなか消えないので、あれ、これはこのままいくのか?と淡い希望も持つ。
このままずっとそばにいてくれたらいいのにな、と思うけど、そうはいかなさそうだということはきっと主人公にも初めから分かっている。分かっているからこそ、夫のことをしっかり見つめていよう、この手からすり抜けないように掴んでいようとする姿が切ない。
ちょっと中だるみしそうかな…と思った時に、夫には実は浮気相手がおりその人と会って話をするシーンはまた物語に惹きつけられるきっかけになった。夫がいなくなった時に見つけてしまった浮気相手からの手紙が、怒りというよりは夫を探そうという気持ちを応援するお守りのような存在になっていて、そのある意味不謹慎な内容が夫を失踪や死から遠ざけていると感じられて救われていたんだろうなという辺りには、人間の複雑な心のありようを感じた。
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短編小説ではないが、短い小説だった。
私は、ネタバレなど、絶対言いたくない類の人間だ。
少なくともそれくらいの、デリカシーはあるつもりだ。
だから、ネタバレは言わない。
ただ、黙って最後まで読めばわかる、と言いたい。
父親を亡くした少女と、大家のおばあさんの関係が、
交通事故で、9歳の時に父を失くした私と、私の祖母を思い出させた。
祖母は、とても優しくて、大家のおばあさんのような、性格ではなかったが、
年寄りというのは、優しくて、包容力があり、子供を和ませるものだ。
私は、一癖あろうとも、自分が年を取った時に、子供に親しまれる老人でありたい。
読み終えた後も、ポパイのようなおばあさんの顔が、クシャっとなるのが
頭の中に映像を結ぶような気がした。