湯本香樹実のレビュー一覧
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もうじき7歳の私は父を亡くし、母と小さなアパートに移る。そこには近寄り難い大家のおばあさんがいた。おばあさんは死ぬ時に預かっている手紙を死の国へと旅立った人に届けるという。私は父に手紙を書くことにした。
大人になった私が、当時のことを回想する形で書かれているため、アパートでの生活やおばあさんとのやり取りも、幼い心で感じたことと、その奥にあったできごとが並列して描かれています。とっつきにくく感じたおばあさんと心を通じあわせたこと、夫を亡くした母の心、母親の再婚に心を揺らす少年。みんなそれぞれに自分の道を行き、私とすれ違っていく。そして亡き父に手紙を書くことで、喪失から再生される私の心。おばあさ -
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3年失踪していた夫が突然帰ってきたらどんな気分だろうか。
私なら初めは帰ってきてくれた嬉しさがあり、落ち着いて来ると怒りが湧いてくるだろう。
主人公の瑞希は、待ち焦がれた夫優介の突然の帰りを受け入れるが、、、
瑞希の立場に立って読み進めて行くうちに、自分もあてもない旅をしているような感覚になっていった。
この旅は瑞希にとっての心の慰めである。
瑞希の人生の終わりはまだ先にあり、優介への執着と決別するための旅なのだろう。
物語は始終陰鬱ではあるが根底には瑞希の心の再生が見え隠えする。
読後感は生と死の間を行き来する表現に深みがあって、悪くない。 -
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私がおばあちゃんになるまで大好きだと言い続けるであろう「夏の庭」の湯本香樹実さん作品。
最近秋めいてきたので、よし!とページを開く。
夫を失ったばかりで虚ろな母と7歳の主人公の、ポプラ荘でのおばあさんや住人との交流。
「おばあさんがあの世に行く時に郵便してもらう」為に書き溜めた亡くなった父への手紙。
静かで、物哀しい雰囲気が漂うけど(秋という季節がそう思わせるのかも)、とても穏やかで優しい気持ちになる。不思議とすっと心が落ち着くような。好きだなぁ。
千秋に強迫性障害の症状が出た時(はっきりと書いていないけれど)、比喩表現に身に覚えがあり過ぎて、幼い自分と重ね合わせてしまった。
私も「家 -
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読後に心が暖かくなる物語。
心に深い傷を負った母娘の、再生の物語だ。特に娘の。
だから、当てもなく乗った電車で当てもなく降りた駅で、あのアパートに辿り着いたんだと思う。
深い傷を負った人間は、SOSのような何かを発しているのかもしれない。それは無意識のレベルで何かに共鳴して、何かに助けられる。
救済のなにかは、甘い言葉でもおためごかしの親切でもない。時には厳しいことだったりする。
その場しのぎでなんかではない、何か。
おばあさんはどんな人生を送ってきたのだろう。物語では深く語られることはなかったけれど。気になる。
きっと、人と人との出会いや繋がりを大切にしてきた人なんじゃないかと思う。一 -
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ネタバレ
ようやく再会できた最愛のひとは、果たして私の知ってるあのひとなのか。
水の中をゆらゆら揺れるふたりの関係。姿が掴めない夫の輪郭のなさ。
そこに戸惑いつつも、新たに関係をつむぐふたり。きっと、夫と妻の立場が逆だったらこうはいかないだろう。瑞稀の愛と芯の強さ。
大切な人を亡くした人なら、誰しも幾度となくもう一度会えたら、と思うだろう。夫と旅をする彼女は、羨ましくも映る。
そして、タイトルの秀逸さ。「岸辺の旅」
岸辺は、水と陸地の境にある場所。物語は、その分け隔てられた存在であるふたりが「岸辺」のようにその境が揺れながらでも隔てられていることが印象的。
ひとつに、生と死という隔たり。
瑞稀 -
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ネタバレ朝ドラの深津絵里が17歳の役を!すごい!となり深津絵里を検索したときに映画『岸辺の旅』のことを知った。原作が小説だったので読んでみることにした。
最初からなかなか掴みどころがないふわふわとした話だと感じた。死んだと思って3年間探し続けた夫が急に目の前に現れた時、そのときの二人の会話からああ、この夫は死んだんだろうなとは何となくわかる。そのあとすぐにふっと消えてしまうのだろうと思ったら、なかなかどうして、ずっとそばにいる。普通にご飯も食べているようだし、主人公以外の人にも見えているようだ。
いわゆる幽霊なの?なんなのこの存在は?と思いながら、いつ消えるのか、いつ消えるのかと思いながら読むけどな -
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短編小説ではないが、短い小説だった。
私は、ネタバレなど、絶対言いたくない類の人間だ。
少なくともそれくらいの、デリカシーはあるつもりだ。
だから、ネタバレは言わない。
ただ、黙って最後まで読めばわかる、と言いたい。
父親を亡くした少女と、大家のおばあさんの関係が、
交通事故で、9歳の時に父を失くした私と、私の祖母を思い出させた。
祖母は、とても優しくて、大家のおばあさんのような、性格ではなかったが、
年寄りというのは、優しくて、包容力があり、子供を和ませるものだ。
私は、一癖あろうとも、自分が年を取った時に、子供に親しまれる老人でありたい。
読み終えた後も、ポパイのようなおばあさんの顔が、ク