あらすじ
名作『夏の庭』の作家の新境地
少年の日、西の町で暮らす母と僕のアパートに「てこじい」がふらりと現れた。祖父の生涯と死、母の迷いと哀しみを瑞々しく描く
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Posted by ブクログ
思い掛けず良かった。
この著者について何も知らずに古本屋でなんとなく手に取ったのだけど。
簡潔で無駄が無いのにやわらかい、頭だか心だかにすっと入ってくる文章で、いつまでも読んでいたいと思えた。
情報ではなく空気そのものを読ませるような。
難しい言葉や表現を使っているわけでもなく淡々としているのにかっこいい。よごれた老人の話なのに。
こういうのを文体というのかな。
こんな文章を書けたらいいのに。
話し手の僕、僕の母、てこじい。
ほとんどこの三人だけのお話。
母とてこじいとの間の屈折した感情と、それを観察しながらゆっくりと何かを受け入れていく僕。
家族の間にある複雑な感情とかって、むりやり名前をつけて分析して定義してしまったらその瞬間につまらなく思えてしまうものだから、省略された言葉で行間に漂わせるくらいが一番心地良いのかもしれない。
最近、人生とか生き方とか、そういった事を考える出来事がおおかったから、余計におもしろかったのかな。
他の作品も読んでみたい。
Posted by ブクログ
母子家庭に唐突に割り込んできた祖父。母にとってどうしようもなく迷惑な父親である祖父との、短くも濃厚な3人暮らしの中で、それぞれの足りないものを、そうとは気付かないまま与え合っていたのだろう。
選りすぐりの言葉たちと音楽のような文体に、肉親を思いやる心情を織り込んだ、優しさに満ちた物語だった。
Posted by ブクログ
詩集のように大きな字で読みやすいと思ったら、この短編小説は一文一文がまるで詩であった。
(引用 1)
その頃僕たちが住んでいたのは、北九州のKという町だ。Kは製鉄が生んだお金で栄えた町で、人の気質や言葉は荒っぽかったが、町並みにはしっとりしたあたたかみがあった。まだ決定的にさびれてはいないのだけれど、ある時点で進むことをやめてしまった、そういうものだけが束の間持つことの出来るあたたかみだ。
(引用 2)
離婚から二年ほどの間に、母は僕を連れ、まるで西日を追いかけるように西へ西へと転々とする生活を続けた。(以下略)それはまさに、「風に吹かれる二枚の木の葉のような生活だった」はずだ…
てこじいというのは母親の父で、母親がほんの小さい頃は北海道で荒っぽい力仕事を人に頼らず色々とこなしてきたが、終戦後、東京に出てからは、家のお金を度々持出し、何日も家を開け、無頼の限りを尽くしてきた人だった。
僕と母が暮らす、西日の当たる1Kのアパートに、ある日ふらっと、てこじいが現れたとき、浮浪者のような姿だった。てこじいはその部屋の隅っこのタンスの前で、昼も夜もずっとうずくまっていた。
母親のてこじいに対する態度は複雑で、いつも怒っているようで、掃除機をわざとぶつけるなど、ぞんざいな接し方をしていた。
けれど、たまには、てこじいの好きな蛸をおかずに加えたり、健康に気遣ったおかずを沢山食べさせようとしたり、よく面倒も見ていた。
その頃、母親は会社の上司と不倫関係にあり、お腹の子供のことで、泣きながら夜中にてこじいに相談もした。やっぱり、心の支えであったのだ。「諦めろ」とてこじいは諭すが、その後、母親を元気づけるために、余命幾ばくもない体で、何キロも離れた海までバケツ2杯もアカガイを取りに行って、一人歩いて帰り、母親と僕に刺し身として振る舞った。
間もなく、てこじいは入院するのだが、母親は目を釣り上げながら、最後まで、毎日、シジミ汁を作って、てこじいの見舞いに行く。そんな母にはまだてこじいが必要だ、と子供心に悟った僕はてこじいの耳元で「死んじゃ駄目だよ」と言う。
てこじいが家に来てから母は変わった。僕と二人で暮していた時には、メソメソ泣いたり、「いつか、お金が貯まったら南の島を買って二人で暮らそう」などという、現実逃避の夢ばかり語っていたが、てこじいが来て、世話をするようになってからは、現実的な問題解決をするようになった。そして、僕も知らなかったてこじいの昔話や母親とのエピソードを聞いて、自分と血のつながった人たちの人生に興味を持った。
てこじいが亡くなった後、母親は東京に戻る決心をする、太陽が沈んでいく町で、わだかまりのあった自分の父親と悔いのない最後を過ごしたあとで、前向きに東の町へ戻ったということであろう。
ネタバレすぎるくらい筋を書いてしまったが、話の筋よりも、文章が美しく、とっぷりと浸っていたくなりますので、是非ご一読を!
Posted by ブクログ
42歳大学教授の、少年時代の回想録。
離婚してからの2年間、まるで西日を追いかけるように西へ西へと点々と移動し、ようやく辿りついた北九州の町。
母息子二人きりの、西日の照りつける寂れたアパートでの慎ましい暮らしの中に、突然として祖父が転がりこんで来た。
いきなり浮浪者のような身なりで現れたかと思うと、部屋の片隅でじっとうずくまる"てこじい"の一挙手一投足に10歳の少年の目は釘付けになり、いつしか"てこじい"中心の生活となる。
「夜、爪を切ると、親の死に目に会えない」という迷信を息子に教えながら、父・"てこじい"の目の前で深夜ゆっくりと見せつけるように爪を切る娘。
父に対して冷淡かつ邪険に扱うことしかできない娘の不器用さ。
父の前では弱音を吐けず、つい意地を張ってしまう…この娘の行動にはちょっと共感した。
3世代で過ごす時間は静かに淡々と過ぎ、"死"のにおいがつきまとうのに、何故かどうしようなく生々しい"生"を感じずにいられない。
特に娘の最後の覚悟に泣けた。
母であり娘であること…その狭間で揺れ動く"母"を見て、少年はいつしか"母"と対等の大人になれたのだと思った。
読後のざわざわした余韻が未だに続いている。
湯本さんの作品を読むと、何故かいつもそうなる。
Posted by ブクログ
芥川賞候補作。僕のアパートに「てこじい」という母の父が突然現れて居つく。母はてこじいに冷たい態度だし、てこじいもほとんど話もせずただ居るだけだった。てこじいの秘密もだが、母の秘密、母の秘密ためにてこじいのとった行動。とにかくこれで良かったのだと、読み終わって涙がでる最後でした。
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記憶の引き出しが突然開いて、ずっと忘れていた思い出がよみがえることがある。この本はそんな引き出しの鍵かもしれない。
引き出しの中には嬉しかったことや楽しかったことがあったり、それよりちょっとだけ多く、悲しかったことや辛かったことが入ってたりする。
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てこじいも母も僕も生きるのに不器用で、お互いを思いやるのに、素直になれなくて。登場人物の心情が十分に伝わってきました。ココロ豊かになれる一冊。
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時間軸が回想をゆらゆらしているかのようなのに自然に入ってくるし文章も心地よい。てこじいになんで?と思いつつ僕の穏やかな心を読んでいる気持ちになる
Posted by ブクログ
2015.4/24 『夏の庭』と同様、老人と少年が織りなす物語。でもそれが突然転がり込んできた今はやつれた放蕩者の祖父っていうのが...言葉は多くないのにリアルで読み進めてまう。祖父の関係にハラハラする少年や、恨みつらみを抱えながら放り出せない母親の気持ちが手に取るように分かる。静かに涙した。
Posted by ブクログ
母とてこじいの確執が淡々と、そしてしっとりと語られます。
てこじいを邪険に扱いながらも、どこかに子としての優しい心遣いを見せる母。そしてだんまりを決めつつも、母のために行動に出るてこじい。
心情が直接語られる訳では有りません。10歳の僕の目を通して描かれる母とてこじいの矛盾した行動が、二人の精神の揺れのようなものを描き出して行きます。このあたりの描き方はとても上手さを感じさせます。
湯本さんは初めてです。2冊目のつもりだったのですが、梨木香歩さんと混乱してたようです。「夏の庭」と「裏庭」そのあたりが混乱の原因かも知れません。この作品はなかなか気に入ったのですが、他の人の書評を見る限り「夏の庭」の方が代表作のようですね。これもそのうち読んでみましょう。
Posted by ブクログ
家族の為を思うけど、不器用な父親と娘と孫の物語。
この3人の関係性だからこそ成り立つ物語だと思う。
ひどい父親と思いつつも、いい思い出を思い出したり
娘だって心から憎んでいるわけじゃないけど、
納得いかないもどかしい思い。
その間を埋める孫の存在がとてもよかったです。
卑屈にならず、いい子でほっとしました。
Posted by ブクログ
湯本作品2作目。この人は老人と子どもの交流を書くのが本当にうまい。作品中常に「死」の気配が漂っているのになぜか重くならないのはこの人の手腕だろう。もっと湯本作品を読もうと思う。2011/418
Posted by ブクログ
人物描写、風景描写が上手い。うならせられる。色々書きたいが、ありきたりすぎる言葉だが、この作品は「文学」だと思う。
“てこじい”の強烈なキャラクター。芯のあるキャラクターだ。こゆい。
親子、老人と子ども。その両方の有り様と可能性を静かな文体で語りかけてくれる。
Posted by ブクログ
薄明るい西日に照らされた
幻影のような思い出語り。
まだ敗戦国だということを
引きずっていた時代の男と
その家族の話。
風来坊は
他人なら魅力的だけど
家族は大変だなあと。
死にむかっていくてこじい自身より
母幸子の
父親の死をうけいれるための
時間をもうすこしくれと
願うところ、
母がみせた
死をうけいれていく変化。
鮮やかでした。
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なめらかにまっすぐには向き合えない、てこじいと母。
それを見つめる僕。
せつなさやいらだちを抱えながらも、深いところでつながっている家族。
トゲトゲしいはずの場面でも、そこには寂しさやきつくなりきれない優しさが漂い、
やわらかで静かな気持ちで読み終えることができました。
Posted by ブクログ
「西日の町」湯本香樹実
児童「のための」文学 とはくくれない、児童「をモチーフとした」文学でしょうか。イメージカラーはオフホワイト。
湯本さんの文章は、読むときりりと締められる感覚があってそれでいて包容力のある雰囲気が好きです。
良い意味でとても女性的な作品です。その分若干「僕」という一人称視点に違和感を感じてしまったのも事実。中性的な主人公である気がします。
それと、何故かてこじいのキャラクターがそれほど印象深くない。
ちょっと考えてもよく分からないのですが、うまく作品のなかにとけ込んで役割を担っている、と思っていいのかな。
渾身の作品!とは全く感じさせないタッチが読む側にも脱力して頭に文章を流しこめる。BGMのような感じですね。
正直なところ帯の惹句は的はずれだと思いますが(笑)(4)
Posted by ブクログ
他人には言えない事柄を人は抱えて生きているということが実感される作品。それは決して家族であっても、友人で会っても打ち明けられないものがある。
しかし、家族の場合はいざという時にはそうした微妙な関係性が瓦解して寄り添うことができるようになることもある。本作はそうした家族の心の揺れを捉えている。
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北九州に暮らす僕と母と祖父の複雑な心情を描く。
現在と過去を行ったり来たりする語りを聞きながら、不器用な家族の交流になんとも言えない気持ちになる。
愛も憎しみも矛盾していない。
亡き人を思う、という話だ。
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母と二人、西日の当たるアパートに現れた『てこじい』。もどかしいぐらいの親子の愛をかんじました。夏の庭同様、老人と子供の話を書くのが上手です。てこじいがベッドの上で看病疲れで眠ってる娘の頭に、手を添えている場面に、てこじいの娘に対する思いが全て込められていると思いました。静かな『生』と『死』みたいな作品でした。
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面白かった。
てこじいに対し周囲の大人が、愛憎入り混じった態度をとるのに対し、孫である少年の客観的でニュートラルな語り口で描かれている。
最後の数ページは、なんとも言えない、感慨深い。
こういったことを感じ取って、成長していってほしい。
Posted by ブクログ
定期的に読みたくなる、ほんわかしたような、でも突き刺して来るような、なんとも表現しがたいジャンルの作品。普段は思い出さない(僕は思い出しまくっているが)自分の素になっている思いに繋がるからかも。
後書きの佐藤渓の詩もかなり気になる。
Posted by ブクログ
ロクデナシの祖父が転がり込んできて、母と自分との三人暮らしに。恨みと愛情を同時に味わいながら静かに最後のときを迎える母と祖父。しんとした味わいのある話でした。盛り上がりはなかったけど。
我が父もかれこれ30年会ってない。このまま会わなくて良い気もするし、会っても今ならば許せるような気がする。人間色々間違いもあるよなと思えるようになりました。
Posted by ブクログ
著者の一貫したテーマ化と思われる子供と老人と死が子供の目を通して静かに描かれている。
親は子を守り、子は親を頼って生きていくという図式が、ある時期から混沌となり最後には逆転する。悲しいけれど見方によれば当然やってくるそんな運命をどのように受け止めるかはそれぞれの考え方とそれまでの人生の歩き方による。
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西日の町での「てこじい」と母との思い出。大人になった僕が振り返る。
てこじいと母親のやり取りは決して愉快なことではないが、心にしんみりと来る。西日という言葉がピッタリくる。
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生徒に借りた。児童文学??
情景豊かとはこのこと。
主人公の子供の頃を居酒屋とかで聞かせてもらってる感じ。
てこじいもきっと一生懸命生きたんだろうなぁ。
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斜陽の停滞した町。歩みを止めた時間のその終焉。息を潜めた子供時代。
終わってもなお続くもの、終わってやっと始まるもの。おしまいの時。
見届けたから歩き出せた。
舞台が北九州市のKで、Kを知ってると風景の空気が生々しく胸に突き刺さるけど、知らないとどう読めるのだろうか。
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『夏の庭』であまりにも有名な湯本香樹美氏の作品。娘がくれた本。
現在は医者となった主人公が、十歳の頃、母と、母の父であるてこじいと過ごした日々を回想する物語。
回想場面が中心で、そこは描写、物語の運びともうまいのだが、現在の場面ではやや不十分な感じが残った。
勤務医として単身赴任しているのだが、大学で教え子に母の面影を見たりする場面では、教え子との今後の展開を感じさせるが、何も書かれず、尻切れとんぼだったりする。
文庫版あとがきでは、なだいなだ氏が絶賛しているのだが、そうも思えず、なんだか腑に落ちない。
うまいことはうまいんだけど…。中途半端に古い感じがした。
『夏の庭』を輩出している人だけに、後世にまで評価される作品を書くのは難しいことなんだと、つくづく思った。
Posted by ブクログ
夏の庭、ポプラの秋に続き読みました。でも最初の2冊ほどのインパクトはありませんでした。前の2作品は登場人物にそれぞれキャラクターがありましたが、今回は「てこじい」という主人公の祖父にしかキャラクターがたっていなくて、うーんと思いながらたんたんと読みました。物語の行き先も少しだけ解かりづらかった。前2作品は少年少女も読んで理解できるかもしれないけど、これは大人の物語かもしれません。行間を読むという感じ。期待が大きかっただけに、ちょっとがっかりでした。