李龍徳のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ー 他の国がもっとひどいからって、だからって日本の現状を見逃していいわけない。日本の現状だって、飼い馴らされて気づいてないかもしれないけど、いや、かなりのディストピアだから。何も明確なジェノサイドや強制収容所の再来だけがディストピアじゃない。ディストピアは今だ。要するに、やっぱり人類は歴史から学んだんだな。この、じわじわとした、言い訳と詭弁ばっかりの、誰も責任を取らなくていいような、 毒ガスではなくただ憎悪を募らせて空気を悪くし、マイノリティを窒息させるこの締め出し方こそ、奴らの学んだ新しいクレンジング方法だ。俺たちは騙されない。そこの知恵比べに負けはしないさ。 ー
これはすごい作品。エネルギーに引き込まれる。
反韓、反日、反共、といったイデオロギーはさておき、そういったイデオロギーの中で生きる人々の生々しい“生きる声”を描いた作品。
ヘイトクライムに参加する人も、アンチヘイトクライムに参加する人も、無関心な人も、そもそもそんなものの存在すら知らない人も、みんながこれを読めば世界が少しは優しくなれるかな。
マルローの『人間の条件』をもう一度読みたくなった。 -
Posted by ブクログ
「悲劇のヒロインぶったり、そういうのって、ほんと恥ずかしいことなんだから」
「ヒロインって俺は男や」
「女々しい、って男にしか使わない形容詞なのよ」
「口を滑らせ続け、お互いの皮をむき、その中身が空洞であることを定期的に確認する。んでまたお互いが時間をかけて、空しい皮をまとう。暴いては装い、装っては暴く。その繰り返しが俺たち夫婦のあり方ちゃうんか?」
「こんだけの苦労をお互いして、惨めな思いも共有して、それが愛情に基づく行為じゃなかったんやとしたら、これはいったいなんやねんな」
「だからこそ、そこも似たもの夫婦ってやつかなあ。人格も才能も、生殖能力まで空っぽ。そこんとこに、俺だけのせいやなかったってところに、男のプライドとして安堵しているこんな情けなさを純吾、おまえにも味わわせたいわ」
「言葉や思想で相手に影響を与えようなんてそんなの、影響なんて所詮、いいも悪いも本人たちの受けたいようにしか受け取らないんだから。例えばあなたが姉や親から受けた言葉を悪い意味で後生大事にしてるとして、傷ついたとか言ってても結局はそれがあなたのアイデンティティの一部になってる。あなた自身がそれを選んでいつまでも、自家発電で傷ついたり怒ったりしてる。宿主のほうが操作されてんのよ。自由が不安だから幻のアイデンティティを育み、やがてそれに生き方まで定められて、今やもう完全に乗っ取られてる」
「これね、生きんてんのよ。生きてんの。すごくない? 私たちに比べてこの存在感、引きつける力、圧倒的よね、すごい屈辱じゃない?」
「まぁ、嫌いだよね。うん、嫌い。母性とか、なんなのよって。なんで父性とか夫婦愛とか、あるいは友情とか一般的な家族愛とか、信仰心とかナショナリズムとかは正しく廃れてきている現代なのに、性欲ですが傾向としては薄れてきてんのに、なんで母性だけはいまだにその地位が揺るがないの? いまだに神聖視されてんのよ。不当よ、ものすごく不当。どう答えてもあなたたちの責めからは、どうせ免らんないだから」
「今日のことが却って涼子ちゃんに重い枷となったんじゃないかって。私をやっつけるために、いや見事に私を打ち負かしたんだけどその代わりに、責任とか母性とか、心があるかないかとかの言葉を弄して、その呪いみたいなワードがやがて涼子ちゃん自身に刃を向けるようになるんじゃないかって。それが本当に心配」
「才能なんてあると思えばあるし、ないと思えばない。要は、継続できる気持ちがあるかどうか。でもその情熱も涸れちゃった」
「でも、その涼子に対して、気にしなくていいんだよって、ノノは確実に涼子のことを愛してたし、今も愛してるし、涼子に確かに愛されていたこともちゃんと理解している、大切な記憶の一部になってるって。」
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Posted by ブクログ
ネタバレ李龍徳氏の作品は、敢えて人間関係を瓦解させるような言葉が飛び交う。著者の作品は、これまで単行本として三冊発行されているが、意識的に相手を打ちのめす、呪詛ともいえる暴言が必ず吐かれる。
著者の作品の肝は、その会話劇にあることが多いのだが、当たり障りもない自然で穏当な場面から、あることがきっかけに、徐々に不穏な空気が漂ってくる。人は情報をさらけ出しながら生きている生き物なので、それが外見にすでに立ち現れたり、自分の口からつい漏らしてしまったりする。会話が白熱していくと、次第に男女らは険悪なムードになっていく。もうそこから、嫌な予感というものがひしひしと感じさせられて、まさにその瞬間、相手を傷つける一言を口にしてしまう。本来、そこまで言ってしまっていいのかと躊躇するような言葉は、諸刃の剣で、言われた相手も言った本人もいろんな意味で傷つく。しかし、言ってしまった直後に、お互い計算なんてできない。言われた相手は、とても看過できない言葉に、人格を貶められて、尊厳を踏みにじられて、理性では憤りを諫めることが難しく、売り言葉に買い言葉、相手を罵倒する怨嗟の言葉の応酬がひたすら続く。とても見逃すことができない、心の核を貫く本質的な暴言には、平常の理性的な振る舞いはできずに、ただただ感情的にがなり立て、自分自身の理性をコントロールできなくなってしまう。果たして徹底的に化けの皮を剥がしあったその先に、幸せな結末が待っているのか? 否、徹底的に殴り合うことで分かり合えるのは、少年漫画の登場人物くらいで、相手を傷つける目的の悪意たっぷりの罵り合いの先には、別離しかない。 -
Posted by ブクログ
"そこに人間の悪意を陳列したいんですよ"
初美がすごく魅力的で、でも危うくて、案の定その魅力と危うさにズブズブになっていく。尖った知性にも色気がある。ブラックホールのような女だと思った。
でも初美が何か間違っているのかと言われれば、お節介以外に言えることがない。
初美は悪女なのかというとそれも違うと思う、まっすぐ、私が思いもよらない方向を向いていて、どんなに声を尽くしても振り向かない。そんな人が自分にだけ好意を向けてくれていたら。破滅に向かうのも無理はないなと思った。
私はこういう純文学が好きなんだ!と思って読んでいた、けど結末に向かうにつれじわじわと全ての嫌な予感のピースが嵌っていくように静かに2人きりの世界へ沈んでいく姿をどうしても自分のものさしでしか測れずにもどかしい。2人にとってはこれは破滅ではない、のかなあ。
世界は取るに足らないことばかり。人間なんていつだって人を軽んじうる醜悪な存在。それには同意できるところはあるけど、ここまで突きぬけてしまうきっかけは一体なんだったんだろう。 -
Posted by ブクログ
高校生の時に集団レイプの加害者になった男が、突然に罪の意識に目覚める話。
結婚する直前に目覚めて、自分の罪を告白することで婚約者や家族が傷つく様を見ると「そんな今更告白せんでも…」とか思う(現実のニュースを見て、とかだったらそんな感想出てこないと思うけど、小説だと思ってしまう)
具体的な行いの内容は書かれているものの、あまり生々しくない。読みやすくはあるが、読んでいて、いまいち語り手である主人公が「レイプした人」という実感を持てない。
シリアス過ぎない場面も結構あり、元同僚の女や、主犯だった政治家の男、その男が紹介したお坊さん…といった面々とのやりとりはなかなか面白い。
詰めの甘いところはあるものの、読めてよかった。