李龍徳のレビュー一覧
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「悲劇のヒロインぶったり、そういうのって、ほんと恥ずかしいことなんだから」
「ヒロインって俺は男や」
「女々しい、って男にしか使わない形容詞なのよ」
「口を滑らせ続け、お互いの皮をむき、その中身が空洞であることを定期的に確認する。んでまたお互いが時間をかけて、空しい皮をまとう。暴いては装い、装っては暴く。その繰り返しが俺たち夫婦のあり方ちゃうんか?」
「こんだけの苦労をお互いして、惨めな思いも共有して、それが愛情に基づく行為じゃなかったんやとしたら、これはいったいなんやねんな」
「だからこそ、そこも似たもの夫婦ってやつかなあ。人格も才能も、生殖能力まで空っぽ。そこんとこに、俺だけのせいや -
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ネタバレ李龍徳氏の作品は、敢えて人間関係を瓦解させるような言葉が飛び交う。著者の作品は、これまで単行本として三冊発行されているが、意識的に相手を打ちのめす、呪詛ともいえる暴言が必ず吐かれる。
著者の作品の肝は、その会話劇にあることが多いのだが、当たり障りもない自然で穏当な場面から、あることがきっかけに、徐々に不穏な空気が漂ってくる。人は情報をさらけ出しながら生きている生き物なので、それが外見にすでに立ち現れたり、自分の口からつい漏らしてしまったりする。会話が白熱していくと、次第に男女らは険悪なムードになっていく。もうそこから、嫌な予感というものがひしひしと感じさせられて、まさにその瞬間、相手を傷つけ -
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"そこに人間の悪意を陳列したいんですよ"
初美がすごく魅力的で、でも危うくて、案の定その魅力と危うさにズブズブになっていく。尖った知性にも色気がある。ブラックホールのような女だと思った。
でも初美が何か間違っているのかと言われれば、お節介以外に言えることがない。
初美は悪女なのかというとそれも違うと思う、まっすぐ、私が思いもよらない方向を向いていて、どんなに声を尽くしても振り向かない。そんな人が自分にだけ好意を向けてくれていたら。破滅に向かうのも無理はないなと思った。
私はこういう純文学が好きなんだ!と思って読んでいた、けど結末に向かうにつれじわじわと全ての嫌な予感 -
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アルバイト先の人に勧められて読んだ一冊。
あらすじも読まず、タイトルだけを見て「ハッピーエンド系の小説かな」と軽い気持ちで読み始めたけれど、まさかの鬱系小説で衝撃を受けた。
主人公・徳山が抱える悩みは、誰もが少なからず持っているような普遍的なものやと思う。
その悩みに寄り添い、包み込むように接する初美の包容力は、時に優しさを超えて相手を縛るものになる。
徳山はその優しさから抜け出せず、いつしか破滅の道を進んでいってる。
初美は「現代版悪女」と言われることもあるけど、まさにその通りやと感じた。
これまで映画や小説で描かれてきた典型的な悪女とは一線を画してて、その存在感は本当に衝撃的やった。
とに -
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ネタバレ
初美とおなじく、キャバ嬢をしていました。夜の世界に疲れて一旦あがっている今、以前気になって買っていたこの本を本棚から発見し、なんとなく読んでみました。
まず、夜の世界は基本的に社会の闇で溢れています。というか世界の闇が全て集まる場所が夜の世界といっても本気で過言ではありません。夜の世界で学べることと失うことを天秤にかけると圧倒的に失うことの重量が重いです。(キャバクラは特に)
そんな中で生きてきた19歳の初美が、社会には闇しかない、生きていく価値はないと感じるのは自然なことのようにも思いました。
だってまだ19歳なのだから。
大学も中退して、社会をまともに見ぬままに夜の世界に飛び込ん -
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ネタバレこんなタイトルを選んでいる時分で文句言えないんだが2冊連続でなかなかネガティブに振り切った作品読んでしまって心が疲弊
とはいえ、最初こそ独特の言い回しに読みづらさを感じるも読めば読むほど引き込まれて、この文体こそがミミの持つものなんじゃないかと思わされた
藤倉にお金のありかを聞くことはできない、と徳山が独りごちてたのを最初は「意外とそういう義理堅いところもあるもんなんだな」と思っていたが、きっと確認してしまったらミミがそうであることが自ずとわかるわけで、それが怖かっただけなんだろうな
予備校の先輩にキレたのも、(先輩自身がとんでもないというのもあるけど)自分の拠り所としている存在を汚そうと -
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負のエネルギーの強さに圧倒されました。
死のほうへひっぱる強さ、孤独へ押しやる強さ、そしてそれって楽なんですきっと。
初美が何を考えているのかいまいちわからないんですけど、わたしは実験してるのかなって、徳山って動物園の動物とかとおなじなのかなって思いました。徳山からしたら大好きな初美と死に向かっていって、思考力も弱まっていってて、それって羨ましいなって思っちゃいました。(たぶんこの本の影響受けてるわたし)
生きていてもクソなことばっかりで歴史ってグロくて人間って気持ち悪いってことを改めて文字で読めて良かったです。
わたしはこの本好きでした、自殺願望はないけど一緒に死ねる人がいるっていいなと思い -
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ネタバレ想像していた話と全然違った。
形岡からのメールと、初美の返信が印象的だった。明るい気持ちになりかけたところで、どん底に突き落とすような落差があった。
初美の言うことは正論で、厳しすぎるくらいの現実を突きつけてくる。それが流暢に関西弁でスラスラと出てくるから、つい快さをおぼえてしまう。断定しているのも良い。でもその主張の行く先は死しかないのだ。
たとえ醜い世界の中でも生きることを選択するかどうか。死ぬことは簡単なことと言い切る初美の説明に、思わず涙が出てきた。もしこんな安寧が死の先にあるとしたら、生きるのがつらい人は行ってしまうだろうと思った。
手を引く力の強い初美と、その手を取っしまう徳山。初 -
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高校生の時に集団レイプの加害者になった男が、突然に罪の意識に目覚める話。
結婚する直前に目覚めて、自分の罪を告白することで婚約者や家族が傷つく様を見ると「そんな今更告白せんでも…」とか思う(現実のニュースを見て、とかだったらそんな感想出てこないと思うけど、小説だと思ってしまう)
具体的な行いの内容は書かれているものの、あまり生々しくない。読みやすくはあるが、読んでいて、いまいち語り手である主人公が「レイプした人」という実感を持てない。
シリアス過ぎない場面も結構あり、元同僚の女や、主犯だった政治家の男、その男が紹介したお坊さん…といった面々とのやりとりはなかなか面白い。
詰めの甘いところはある