あらすじ
日本初の嫌韓女性総理が誕生し、ヘイトクライムが激化していくなか、立ち上がった一人の若者。彼と仲間が画策する禁断の「反攻」計画とは?第42回野間文芸新人賞受賞作。(解説:保坂和志)
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Posted by ブクログ
ー 他の国がもっとひどいからって、だからって日本の現状を見逃していいわけない。日本の現状だって、飼い馴らされて気づいてないかもしれないけど、いや、かなりのディストピアだから。何も明確なジェノサイドや強制収容所の再来だけがディストピアじゃない。ディストピアは今だ。要するに、やっぱり人類は歴史から学んだんだな。この、じわじわとした、言い訳と詭弁ばっかりの、誰も責任を取らなくていいような、 毒ガスではなくただ憎悪を募らせて空気を悪くし、マイノリティを窒息させるこの締め出し方こそ、奴らの学んだ新しいクレンジング方法だ。俺たちは騙されない。そこの知恵比べに負けはしないさ。 ー
これはすごい作品。エネルギーに引き込まれる。
反韓、反日、反共、といったイデオロギーはさておき、そういったイデオロギーの中で生きる人々の生々しい“生きる声”を描いた作品。
ヘイトクライムに参加する人も、アンチヘイトクライムに参加する人も、無関心な人も、そもそもそんなものの存在すら知らない人も、みんながこれを読めば世界が少しは優しくなれるかな。
マルローの『人間の条件』をもう一度読みたくなった。
Posted by ブクログ
感想を書きにくい本は初めてだなあ。日本で外国人排斥を訴える政党が躍進し、ついに嫌韓の首相が誕生して、法律や企業活動、言論が、ヘイト一色となる、というディストピア小説。その社会で朝鮮にルーツを持つ若者たちがどのように振る舞うかというストーリーなのだが、主人公が企むある行動が衝撃の結末を迎える。しかし、、、感想として何を書いても嘘っぽくなったり、正論を振りかざしているように見えてしまう。それを狙って書いたならば恐ろしい。
Posted by ブクログ
2020年に単行本として出版された小説。今、数週間前に書かれたもの?と錯覚するような冒頭。
愚劣極まりない結果で終わった2024年東京都知事選、クルド人ターゲットの差別攻撃にネトウヨのみならず野党も関与して酷い有様の日本、関東、東京。都知事は変わらず、関東大震災における朝鮮人虐殺にかかる式典へのメッセージをあえて送らない知事が再選され多くの抗議や疑問の声があがるもより多くの無関心や同意にかき消される、すでにディストピアなこの社会。
ユートピアを求めるほどの天真爛漫さはない、もちろんそんなつもりはないが、あまりにささやかすぎる韓国への帰国事業。日本が在日コリアンを追い払うために積極的に支援した北朝鮮への帰国運動やいまだに私には謎の滑稽行動であるよど号ハイジャックなどいろいろなことを想起させる。
ディストピア。知識人やメディアが煽動して扇動して先導して作る、大衆の雰囲気。太一がシンくんに言う、世界とは大衆のこと、世界の意志とは大衆の意志、最終の敵はいつだって大衆、それには絶対に勝てない。勝とうと思ってはだめだ、と。
そして太一よりも強い意志をもつ葵が言う通り、わたしも弱い、ずるい、大衆の一部だ。
流れを変えるための事件を身を挺して実行してなお、行動してもしなくても、私は大衆の一部であることを抗えない。
ユニークなキャラクターたち、とくにアメリカ育ちのシン君が面白くい。それぞれの登場人物を主人公に各章が書かれているが、それぞれのスピンオフというかその人生を深掘る小説が書かれたら面白そうだ。
今、ディストピア的な悪い流れに乗る世界においてもはや敬愛するバージニアウルフを梨花がコスモポリタンかいと揶揄したが、コスモポリタンにすらなれない世界性、I have no country I want no country と心から欲してもなお、自分はどこかに帰属する、させられている大衆の紛れもない一員であるのだ。
上記を書いたのは都知事選のあとのようだが、今、2025年10月、自民党総裁選で高市総裁となるついに日本もここまで落ちたかというタイミングで河出書房さんが本書をプロモーションしていて、世間では騒然?!となっていてこの作家さんの先見の凄さ、先端の感性、、、、
Posted by ブクログ
最後の10P分が余分かなと思ったが、個人の思惑を超えて社会は流動的に動くということを言いたかったのかな。差別問題はされる側とする側が表裏一体で、ほんの少しの揺らぎで攻守が変わってしまうのか。
Posted by ブクログ
大阪の亜笠不文律さんにて購入。
これまで読んだどの本よりも読むのがしんどく、ページをくる手が重くなかなか進まなかった。こんなところまでいってほしくない、行くはずがないと信じたいと思う気持ちと裏腹に、本文中に出てくるヘイトの言説には、ネットで見かけて、なるだけ目に入らないよう避けている類のものもあり、現実との直接的なリンクにさらに気が減いる。
前半は何か言葉遣いがサイズの合わない洋服のように収まりが悪い感じが拭えず、それが引っかかってなかなか入り込めなかったけれど、後半はそれがなくなり、重い気持ちはありつつ、だんだんと文章の勢いに乗りながら読み進めた。
最後の展開で、太一が妻葵に対して感じる抗えなさと、一方平気で反駁し抗えるソンミョンに対して太一が感心するところが興味深かった。
悍ましいシナリオ、自分の命も含め、人を人とも思わず自分の描く理論的な野心、目標のために人命を簡単に犠牲にする葵のありよう、その迫力に魅入られてしまう太一の心を考えると、目標や野心の正しさとは関係なく、大衆のため、世界のため、といった雑駁な、大きな単位でものを見ていると間違うのではないか、と思った。葵のヒットラーのような話術の引力にソンミョンが絡め取られず、本能的にこれは間違っている、こいつはヤバいやつだと感じることができた理由は何か。それは自分の感覚を基準に、安易に集団を信じない、精神的に1人で立っていることができる人間だったからなのかな、と思う。赤いロングコートをきているという人物造形は自分は自分という意識を相当しっかり持っている、ということを表しているのかなと思った。
Posted by ブクログ
かつてここに書かれていたことは未来のことだった。それが今まさに現実として目の前に広がっている。極右の総理、排外主義の蔓延。在日韓国人も例外ではなく、今後はより差別対象として迫害されていくだろう。書かれた当時においてのこの着眼点はすごい。
ただ、未来として置かれたこれらの設定が現実になった今読むと少し物足りなさも感じてしまう。狭い個人レベルの範囲内での解決に収まらず、広い視野で描かれたものも読んでみたい。
Posted by ブクログ
5年前に出版された小説ですが、現実が追い付きてきているのではないかと感じました。5年前だったらこの本は過去を書いた小説と読んだのでしょうが、2025年7月の今読むと、ここに書かれているのは現在我々が突き進んでいる日本の将来の姿なのかもしれないと思いました。登場する権力者たちの顔が思い浮かびます。とても読み難い文章で丁寧に読んだともいえないのですが、他国の人と比べても差別意識が強く、残酷で同調圧力に弱い日本人が今まさに犯そうとしている誤りの行きつく先かと怖くなりました。5年後にこのような国になっていないことを祈ります。