初美は普通の家庭に生まれたことがコンプレックスと言った。
貧乏と裕福、片親など、将来バネになるような、目的意識を強めてくれるような、要素があまり無かった。
だから、初美の心は基本的に空っぽで、そこに世界中の歴史を元に、人間の醜さ、卑しさ、愚かな姿が入っていった。
何百年経っても人間の本質は変わらない
...続きを読むということを理解した初美は、全てを諦め、絶望しているんだと思う。
さらには、社会に出ても、キャバクラという、酒、男女、金という人間の欲が溢れ出る環境、醜さ、愚かさもてんこ盛りの場所に身を置いてしまった。そのために、知識だけでなく、経験からも人間に絶望したんだと思う。
そんな初美からすると、徳山にも諦めと絶望が滲み出ていたんだと思う。
マルチ商法の勧誘があった時、初美がなぜあれだけ好奇心旺盛に乗っかり、行きたがったのか、謎だった。
今にして思えば、マルチ商法がどんな内容で実態がどうであるかは、知識として知っていたと思う。しかし、気になったのは、マルチ商法自体ではなく、そんなことをしている醜く、愚かな人間たちの方だと思う。より自分を絶望させてくれる何かが欲しかったのかもしれない、そして、そんな人間たちが何をどう考えて生きているのかに単純な興味が湧いていたのではと思う。
最初はマルチ商法の人間たちも、自分たちを大きく見せることに必死で、何重にも綺麗事という名の装甲を付けた言葉を放っていた。しかし、初美の真っ直ぐすぎる脅迫にも近い追求によって、次第にその装甲は剥がれていき、最終的に剥き出しの本音を引き出した。その結果、予想通り、くだらない理由や目的が出てきた、そこには人間の欲だけが並んだ。
クルーザーを貸切って、有名人と酒を飲みながら、セックスをしたり、欲の塊のような理由に初美は内心満足だったと思う。さらなる、人間への絶望を与えてくれたのだから。
他にも、バイト先の女性の先輩に対しても、徳山のメールを介して、初美は似たようなことをした。こちらに関しては、一方的なぶん殴りだったとは思うが。
この先輩は欲が溢れていたというタイプでは無い。むしろ、人間というものに期待や希望を持ちすぎており、初美とは真逆と言ってもいい存在だったのかもしれない。
当初、徳山はこの先輩を良く思っていたが、初美と出会い、ある種この悪女によって、真逆の道、希望に寄った心を、抗うすべもないほどに魅力的な初美によって、絶望側へ引っ張りこまれてしまった。
人は大抵、人の言動からその裏を読み、悲観的になる方が多いが、この先輩は事実として悲観的であるにもかかわらず、それに気づかず最大限希望的に人間を捉えていた。
これは、この女が人間を自分の見たいようにしか見ていないためである。人は確かに、誰しもが相手を自分の中の理想と比べて、見たいようにしか見ないが、この女はそれがあまりに強すぎる、世渡りが下手というか、現実が見えていないというか、善良すぎるんだと思う。だからこそ、初美から見れば、イライラしただろうし、気持ち悪いと感じたんだと思う。
その気持ちを全て徳山のメールを介して、最大級の言葉で、最大級の皮肉を込めて、ぶつけたくなったんだろうと思う。
初美は人間に絶望し、人間の欲というものが本当に嫌いだった、だからこそ、自分から欲というものをできる限り削ぎ落としていった、性欲、食欲、自己顕示欲など、全てを削いでいき、最終的には死にたくなった。ねぇ、死にましょうよ。という印象的な言葉へと繋がっていったんだと思う。