李龍徳のレビュー一覧
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初美の引力、圧倒的。ここまで明確に自分の思想を持つ人に対して、空虚さを抱えた人間ほど強く惹かれてしまう感じ、すごくよく分かる。
徳山も厭世主義のような側面を持っていたけど、初美ほどに徹底的に磨かれてはいなかった。徳山にとって初美との結婚は唯一の希望で、彼女と同化する手段でもあった。
でも初美が徳山の在日であるという背景を理由に結婚を断る。初美がどんな気持ちで、どんな意図で断ったのか、明確には描かれていないけど、私の解釈では、結婚して幸せになるというイマジネーションも、初美にとっては馬鹿馬鹿しいものだったのでは?と思った
徳山は彼女に同化しようとしたけど、その同化のための手段(=結婚)は彼女の思想(=厭世家)の立場によって否定される。つまり、結婚という儀式は、彼女と共にあることではなくて、彼女の思想に同化することを意味していて、結果的に拒絶される構図となっているの皮肉すぎる
私も、厭世主義の思想は若干あるけど、なぜかあの圧倒的な初美との同化に向かうというより、むしろ初美とは対極の形岡側の思想を志向するような謎の感覚が味わえた。
「深刻な事こそが常にリアルだなんて、思わないで。」
「人生を平穏に無事生き残っていくためには、吊り橋を渡っている時みたいに、あんまり下を見ない事。
前だけ向いて一歩一歩歩く事。そうしたら意外と遠くまで来ていた、なんて事がある。」
この辺の文章に心惹かれた。死んだら全てがクリアになるという予感、希望にはすごく共感する一方で初美の思想の徹底ぶりに思わず萎縮させられた。
圧倒的に振り切った物語に触れることで、むしろその対極へと向かうエネルギーが自分の中に生まれるというような貴重な読書体験。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ生命の本質はこの懐かしさにある、の前にまだずっと元気だった頃、の何気ない思い出が今の状況と交互に懐かしむように描かれているのも良い 死ぬ時は過去しかないし生命を1番感じることが出来るであろう死ぬ時に思い出す思い出がその人を形作るもので、何も無かった徳山にそれをくれたのも初美なんだと思った
私も自分が空っぽだから私が徳山の状況ならほんとにあのまま餓死するとか思ったけど意外と初美を置いて逃げるかもしれんとも思うし、でも私が全て失った時に初美からもう、そのあったかい寝床から出てこんでええ。って言われたらもうずっと悪いままダメになるとしても何としてでもそこにいるだろうな
何度も読み返してしまう作品です -
Posted by ブクログ
日本で極右政権が発足し、在日朝鮮人へのヘイトが悪化してヘイトクライムが横行するようになった、ある種のディストピアを描いた作品です。
こちら数年前に発行された本なのですが、今現実に外国人への憎悪を煽る人や、それに乗っかるように実社会で差別的な言動をする人が増えているので、この話を読んでいると「ああ、こういう人(集団)実際にいるよね…」「こういう風潮あるな…」と思い当たる節が多くあります。作中の所謂ネトウヨ的な外国人憎悪を募らせている人間たちの言動が、現実味あってなかなかキツい。「日本はこんなに差別蔓延してないよ」と笑い飛ばすことができず、苦い気持ちになります…。
フィクション作品でありながらも、リアルな社会問題の的を射てる部分も随所にあって、かなり耳が痛い話でした。
排外主義な人やそれを煽って野放しにしている国家を、物語を通して俯瞰して見せられるので、その状態が今の日本に似通っているぶん現実の差別問題にも自然と意識が向かう。物語の展開を楽しむような娯楽小説というよりも、「他民族を差別をする風潮や大衆を変えるためにはどうしたら良いのか」ということを考えさせられる社会派な作品。
読む人を選ぶような本ですが、個人的にとてもオススメです。
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“実態のない女”と”自分を見失った男”。
きっと、徳山は初美に惹かれていったのではない、嵌まって、沼っていったのだ。初美の発する鋭利な言葉たち一つ一つが彼女の夢であり、拠り所。徳山からすればそれは依存性のある薬。
結局みんな洗脳してされて。してる側もそれにかかって。そんな訳ないと思いたいがそうも思えず、。
人生に対するヘイト、社会に対するヘイト。それらを抹消するには社会ごと変えるしかない。が、そんなことは不可能。だからこその自死。打開策としての自死。漠然と自殺はダメだと叫ぶよりよっぽど説得力がある。
感想がこんなに言語化出来ない作品は久しぶりだが、この後味の悪さがこの作品の面白さだろう。
再読だが、しばらくは読まないでも記憶に残っているだろうインパクトはあった。 -
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ネタバレ悪意に対して悪意で返すのは、徳山は後悔していたけど少し爽快だった。逆に自分に向けられた善意に対して悪意で返しているところは読んでて心が痛かった。例えその善意が気持ちよくなるためだけの偽善だと思えたとしても、本人にはその意識はなくて本当に純粋な善意で心配してくれてる(と思う多分)のに、それに対する返事は本当に読むのが辛かった。救いがないんじゃなくて救われようとしてない。初美に会う前の徳山なら建前でも「ありがとう」と返していたと思う。完全に染まってしまっている。自分に初美を投影してシニカルなことしか言わなくなった頃から、入学金のこととか関係なく破滅しか待っていなかったと思う。初美の価値観は魅力的な部分もあるし、間違ってはいないと思うけど、どう転んでも終わってしまいそうな気がする、、、
ただ、後の人生に絶望しかない中で、眠るように苦しまずに死ねることは羨ましい。 -
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アルバイト先の人に勧められて読んだ一冊。
あらすじも読まず、タイトルだけを見て「ハッピーエンド系の小説かな」と軽い気持ちで読み始めたけれど、まさかの鬱系小説で衝撃を受けた。
主人公・徳山が抱える悩みは、誰もが少なからず持っているような普遍的なものやと思う。
その悩みに寄り添い、包み込むように接する初美の包容力は、時に優しさを超えて相手を縛るものになる。
徳山はその優しさから抜け出せず、いつしか破滅の道を進んでいってる。
初美は「現代版悪女」と言われることもあるけど、まさにその通りやと感じた。
これまで映画や小説で描かれてきた典型的な悪女とは一線を画してて、その存在感は本当に衝撃的やった。
とにかく、この小説は“えぐい”。
読み終えたあともしばらく余韻が残るような、そんな一冊やった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ2020年に単行本として出版された小説。今、数週間前に書かれたもの?と錯覚するような冒頭。
愚劣極まりない結果で終わった2024年東京都知事選、クルド人ターゲットの差別攻撃にネトウヨのみならず野党も関与して酷い有様の日本、関東、東京。都知事は変わらず、関東大震災における朝鮮人虐殺にかかる式典へのメッセージをあえて送らない知事が再選され多くの抗議や疑問の声があがるもより多くの無関心や同意にかき消される、すでにディストピアなこの社会。
ユートピアを求めるほどの天真爛漫さはない、もちろんそんなつもりはないが、あまりにささやかすぎる韓国への帰国事業。日本が在日コリアンを追い払うために積極的に支援した北朝鮮への帰国運動やいまだに私には謎の滑稽行動であるよど号ハイジャックなどいろいろなことを想起させる。
ディストピア。知識人やメディアが煽動して扇動して先導して作る、大衆の雰囲気。太一がシンくんに言う、世界とは大衆のこと、世界の意志とは大衆の意志、最終の敵はいつだって大衆、それには絶対に勝てない。勝とうと思ってはだめだ、と。
そして太一よりも強い意志をもつ葵が言う通り、わたしも弱い、ずるい、大衆の一部だ。
流れを変えるための事件を身を挺して実行してなお、行動してもしなくても、私は大衆の一部であることを抗えない。
ユニークなキャラクターたち、とくにアメリカ育ちのシン君が面白くい。それぞれの登場人物を主人公に各章が書かれているが、それぞれのスピンオフというかその人生を深掘る小説が書かれたら面白そうだ。
今、ディストピア的な悪い流れに乗る世界においてもはや敬愛するバージニアウルフを梨花がコスモポリタンかいと揶揄したが、コスモポリタンにすらなれない世界性、I have no country I want no country と心から欲してもなお、自分はどこかに帰属する、させられている大衆の紛れもない一員であるのだ。
上記を書いたのは都知事選のあとのようだが、今、2025年10月、自民党総裁選で高市総裁となるついに日本もここまで落ちたかというタイミングで河出書房さんが本書をプロモーションしていて、世間では騒然?!となっていてこの作家さんの先見の凄さ、先端の感性、、、、
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Posted by ブクログ
ー 他の国がもっとひどいからって、だからって日本の現状を見逃していいわけない。日本の現状だって、飼い馴らされて気づいてないかもしれないけど、いや、かなりのディストピアだから。何も明確なジェノサイドや強制収容所の再来だけがディストピアじゃない。ディストピアは今だ。要するに、やっぱり人類は歴史から学んだんだな。この、じわじわとした、言い訳と詭弁ばっかりの、誰も責任を取らなくていいような、 毒ガスではなくただ憎悪を募らせて空気を悪くし、マイノリティを窒息させるこの締め出し方こそ、奴らの学んだ新しいクレンジング方法だ。俺たちは騙されない。そこの知恵比べに負けはしないさ。 ー
これはすごい作品。エネルギーに引き込まれる。
反韓、反日、反共、といったイデオロギーはさておき、そういったイデオロギーの中で生きる人々の生々しい“生きる声”を描いた作品。
ヘイトクライムに参加する人も、アンチヘイトクライムに参加する人も、無関心な人も、そもそもそんなものの存在すら知らない人も、みんながこれを読めば世界が少しは優しくなれるかな。
マルローの『人間の条件』をもう一度読みたくなった。