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あなたと私のどちらかしか幸せになれないなら、私は私の幸せを選ぶ――謎の死を遂げた友人の妹に招かれ、軽井沢の別荘に集まった四人の男女。彼らが語りだす、それぞれの人生の選択とは。
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Posted by ブクログ
「悲劇のヒロインぶったり、そういうのって、ほんと恥ずかしいことなんだから」 「ヒロインって俺は男や」 「女々しい、って男にしか使わない形容詞なのよ」 「口を滑らせ続け、お互いの皮をむき、その中身が空洞であることを定期的に確認する。んでまたお互いが時間をかけて、空しい皮をまとう。暴いては装い、装って...続きを読むは暴く。その繰り返しが俺たち夫婦のあり方ちゃうんか?」 「こんだけの苦労をお互いして、惨めな思いも共有して、それが愛情に基づく行為じゃなかったんやとしたら、これはいったいなんやねんな」 「だからこそ、そこも似たもの夫婦ってやつかなあ。人格も才能も、生殖能力まで空っぽ。そこんとこに、俺だけのせいやなかったってところに、男のプライドとして安堵しているこんな情けなさを純吾、おまえにも味わわせたいわ」 「言葉や思想で相手に影響を与えようなんてそんなの、影響なんて所詮、いいも悪いも本人たちの受けたいようにしか受け取らないんだから。例えばあなたが姉や親から受けた言葉を悪い意味で後生大事にしてるとして、傷ついたとか言ってても結局はそれがあなたのアイデンティティの一部になってる。あなた自身がそれを選んでいつまでも、自家発電で傷ついたり怒ったりしてる。宿主のほうが操作されてんのよ。自由が不安だから幻のアイデンティティを育み、やがてそれに生き方まで定められて、今やもう完全に乗っ取られてる」 「これね、生きんてんのよ。生きてんの。すごくない? 私たちに比べてこの存在感、引きつける力、圧倒的よね、すごい屈辱じゃない?」 「まぁ、嫌いだよね。うん、嫌い。母性とか、なんなのよって。なんで父性とか夫婦愛とか、あるいは友情とか一般的な家族愛とか、信仰心とかナショナリズムとかは正しく廃れてきている現代なのに、性欲ですが傾向としては薄れてきてんのに、なんで母性だけはいまだにその地位が揺るがないの? いまだに神聖視されてんのよ。不当よ、ものすごく不当。どう答えてもあなたたちの責めからは、どうせ免らんないだから」 「今日のことが却って涼子ちゃんに重い枷となったんじゃないかって。私をやっつけるために、いや見事に私を打ち負かしたんだけどその代わりに、責任とか母性とか、心があるかないかとかの言葉を弄して、その呪いみたいなワードがやがて涼子ちゃん自身に刃を向けるようになるんじゃないかって。それが本当に心配」 「才能なんてあると思えばあるし、ないと思えばない。要は、継続できる気持ちがあるかどうか。でもその情熱も涸れちゃった」 「でも、その涼子に対して、気にしなくていいんだよって、ノノは確実に涼子のことを愛してたし、今も愛してるし、涼子に確かに愛されていたこともちゃんと理解している、大切な記憶の一部になってるって。」
群像小説として凄く好き。 個人的には智香&光介夫妻は嫌いだし、珠ちゃんの我が子を受け入れられない切なさが痛くて… でも読み物として凄くいい! ぷつんと終わる感じも
待望の李龍徳さんの新刊! 大学時代の陶芸サークルの後輩が自殺したという連絡を受けた光介と巴香の夫婦。純吾と珠希のカップル。 4人は自殺した後輩の妹・涼子から手紙をもらい、彼女たちの別荘へ呼ばれ軽井沢くんだりまで出かけてゆく。 記憶もあやふやなほど大して仲良くなかった後輩のはずだが、なぜ自分たちが呼ば...続きを読むれたのか? 涼子が言うには、姉の日記に4人のことが生き生きととても楽しそうに綴られていたというのだ。それが本当なのかこの目で確かめたかったと。 光介がつくったご馳走を並べた夕べの宴、そこで繰り広げられる腹の探り合いのような会話シーンが軽妙で不穏ですごく良かった。 一触触発のような緊迫感と、どこか間の抜けたテンポ。 李龍徳さんは本当に人間と人間の本音の応酬を書くのがうまいなぁと思う。痒い所に手が届く会話劇だ。 ストーリーはその数年後、さらにまたその数年後とすすんでいく。 涼子にとことん責められ詰められる珠希の生き方を、私は肯定することも否定することもできない。 【人生はやり直せる。生きていくしかないのだから、私は、私自身をどうしてでも幸せにする。たとえそれが子供を捨てることであっても。まだ間に合う。生き直せる。私にはそれができる。】 珠希のこの心の底からの叫びに、私は返す言葉がみつからない。
四人、五人か。五人全員の行動がなんだか軽薄で、苛立たせられたのはさすが李さんかなと思いながら読みました。中盤からは会話の応酬によって、嫌悪を示し、攻撃しながらも敵意は出し切らない、みたいな煮え切らなさが、またもやもやします。生ぬるい言葉だから、相手までに届かずに、結局は自分自身を傷つけているような気...続きを読むがしました。愛の結果としての生命の扱い方ですが、愛をうつくしいものとしてでなく、限りなく現実的に残酷に描写してあると思います。 ほんとうに、李さんの作品は、こう、心にずん、とくるものがありますね。
李龍徳氏の作品は、敢えて人間関係を瓦解させるような言葉が飛び交う。著者の作品は、これまで単行本として三冊発行されているが、意識的に相手を打ちのめす、呪詛ともいえる暴言が必ず吐かれる。 著者の作品の肝は、その会話劇にあることが多いのだが、当たり障りもない自然で穏当な場面から、あることがきっかけに、徐...続きを読む々に不穏な空気が漂ってくる。人は情報をさらけ出しながら生きている生き物なので、それが外見にすでに立ち現れたり、自分の口からつい漏らしてしまったりする。会話が白熱していくと、次第に男女らは険悪なムードになっていく。もうそこから、嫌な予感というものがひしひしと感じさせられて、まさにその瞬間、相手を傷つける一言を口にしてしまう。本来、そこまで言ってしまっていいのかと躊躇するような言葉は、諸刃の剣で、言われた相手も言った本人もいろんな意味で傷つく。しかし、言ってしまった直後に、お互い計算なんてできない。言われた相手は、とても看過できない言葉に、人格を貶められて、尊厳を踏みにじられて、理性では憤りを諫めることが難しく、売り言葉に買い言葉、相手を罵倒する怨嗟の言葉の応酬がひたすら続く。とても見逃すことができない、心の核を貫く本質的な暴言には、平常の理性的な振る舞いはできずに、ただただ感情的にがなり立て、自分自身の理性をコントロールできなくなってしまう。果たして徹底的に化けの皮を剥がしあったその先に、幸せな結末が待っているのか? 否、徹底的に殴り合うことで分かり合えるのは、少年漫画の登場人物くらいで、相手を傷つける目的の悪意たっぷりの罵り合いの先には、別離しかない。
意表を突かれました。 タイトルに惹かれ読みましたが、思いもよらない 物語・・・心中小説と書かれていますが、 ストーリーというより、人物を追うような小説。 登場人物がリアルで、本当に存在しているのだと 思ってしまうし、実際そんな人間を、人間の様を 描いている小説なのだと思う。 いいとか、悪いとか...続きを読むでもなく 面白いとか共感でもなく なんとも言えないバランスを保ちながら 進む登場人物の人生。 小説をもっと読みたくさせる作家さんだと思いました。
2組のカップルと1人の女の出会いとその後。そもそも出会いからして唐突なシチュエーションであり、その後の波乱を微かに予感させつつも、想像のつかない方向へと物語が急速に展開していく。果たして、これは小説なのか。しかし、そこには心地よいスピード感と、予期せぬ動き、そして、誰もが納得する普遍的な感情が込めら...続きを読むれている。破綻しているようで破綻せず、不思議な魅力を放っている。
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