常盤新平のレビュー一覧
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1935年に書かれ、1970年と1988年に出版されてはいずれも廃版となっては、三度の光を浴びて復刊したのが本書である。しかしこれもまた再版とはならず現在は廃版の状態である。「廃版」とタイトルにある「廃馬」に重なるイメージがあるのだが、本も馬も人もいつかは廃棄される運命にあり、撃たれる運命にあるのかもしれない。
先日読んだばかりの『屍衣にポケットはない』で独特な感性とタフでぶれない軸を持った作家ホレス・マッコイの名を知り、二つの世界大戦の合間に展開するアメリカという社会の、大戦間ならではの独特な歪みをさらに検証することができるのが本書であると言っていいだろう。
『屍衣にポケットはない -
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作家、翻訳家の常盤新平さんの、70代に入ってからのエッセイ集。
「銀座」のタイトルと、表紙絵に惹かれて手に取った。
銀座は、歴史と懐かしさを感じさせる大人の街で、私にとっては雲の上のようなイメージ。
今はどうなっているか知らないけれど。
一日おきにパンとお粥の朝食、入浴洗髪髭剃、猫に餌をやるところから始まるのだが、多彩な読書と交友の記録に、なんだか全然飽きない。
銀座三越の地下二階「ジョアン」で甘食を買い、浦安のおばあちゃんが握る寿司屋に行く。
『ニューヨーカー』を毎週愛読(洋書は高いなあ…)
読むことと食べることの他に楽しみがない、とやや年寄りの繰り言めいた記述も多いが、「コレステロールが -
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新年早々、オッペンハイマーの作品で失敗したので次は絶対に
はずしたくなかった。なので、本書である。常盤新平氏は私の
好きな作家であり、翻訳者である。
既に休刊となった雑誌「ダ・カーポ」に3年半に渡って連載された
日記風エッセイである。うん、当たりである。
70代前半の常盤氏の日常は非常に活動的だ。タイトルにある銀座
ばかりではなく、神保町や新宿、平井や浦安へまで足を運んでいる。
それがほとんど電車なのだ。理由:電車の中で本が読めるから。
そうなのだ。電車の中ってちょっとした書斎なんだよな。家にいる
より読書がはかどるんだもの。
行きつけの煙草屋で煙草を買って、行きつけの喫茶店(カフェ -
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「山口瞳は,大人の男としての教科書だ」
そういう風に思う.
どうも,こういった人を好むのは,「おじんくさい」とか「年をごまかしているのでは」なんて言われるきっかけになってしまいそうだけれども,良いものは良い.
丁度,山口瞳が亡くなった1995年は,日本がとても大変な年だった.年明け早々,神戸で大きな地震があり,そして東京では3月に地下鉄サリン事件が起こった.そんな中,山口瞳は亡くなった.
大好きなアンクルトリスと江分利満氏が重なって,そしてなおかつそこに山口瞳がかぶって,何か一つ時代が終わってしまったような気がした.20歳そこそこの若造でさえ何か感じる物があった.
それから,山口瞳の著作を一通 -
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ネタバレニクソン大統領を最終的に辞任に追い込んだウォーターゲート事件を報道したジャーナリスト、ホブ・ウッドワードとバーンスタインが自らその顛末を語ったのが本書だ。ロバート・レッドフォードによって映画化もされている。
ジャーナリズムとしては記念碑的な事件を扱った本作は、ウォーターゲート事件というものの顛末を分かりやすく読もうとすると大きく期待を裏切られる。本作はむしろ彼らがウォーターゲート事件をきっかけとして、ニクソン大統領の陰謀を明らかにするまでの苦闘を描いているのであり、とにかく登場人物も多く出てくるし、描写もかなり行ったり来たりする。
正直に言って当時のアメリカに住んでいれば理解できたかもしれ -
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映画『ひとりぼっちの青春』の原作。1935年にアメリカの作家ホレス・マッコイによって書かれた、マラソン・ダンス大会を題材にした小説。
マラソン・ダンス大会とは、最後まで踊っていた男女ペアが優勝する、ダンスの耐久コンテストのこと。1時間50分踊っては10分間の休憩の繰り返しで、その10分間に睡眠や食事、風呂に入ったりと必要なことを済ませるという、なんともクレイジーなコンテスト。小説はフィクションでも、こんな狂騒的な催しが実際に行われていたのは驚きでした。
あらすじ:
ときは、大恐慌後の不況下のアメリカ。映画監督を目指すロバートが、エキストラで生計を立てる女優志望のグロリアと街で偶然出会います -
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ネタバレマスコミ、特にテレビについての不信感が個人的に強いです。バラエティは面白く見れるのですが、報道という観点からすると、ポジションテークを明示しない報道姿勢が私にはとても狡猾に感じるのです。とりわけ政治問題に対する報道はそうです。どういう立場での報道なのか、旗幟鮮明にせよ、さもなくば立場が分からない、問いたくなります。
さらに時代は一応総つぶやき社会へ。誤字脱字にあふれたネットニュース(人の事言えないけど)、個人の伝聞(ポスト)が即確からしく語られる昨今、何が信じられるニュースソースなのかよくわからくなってきました。むしろ気概のある個人の発信情報の方が時として信頼できる可能性も増してきました。口 -
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アーウィン・ショーを訳していた人といった程度しか知らなかった常盤新平さんであるが、本書に登場してくる翻訳者の面々に関心があったことから手に取ってみた。
本書は小説であるから、実話そのままではないだろうが、登場する翻訳家も実名は出ていないが1960年前後の早川書房周辺の人たちだし、翻訳した作品の大体の記述もあるので、多分あの人がモデルかなあと推測するのは、とても楽しい。
翻訳家を目指してはいるが、まだまだ先の見えない若者だった作者の前に登場する師匠や先輩、同輩の人たちはほぼ変な人たちであるが、ほのぼのするものから不思議なもの、しんみりするものと、様々なエピソードが描かれる。
また、本 -
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常磐新平『銀座旅日記』(2011)を読む。
文庫オリジナル。飄々とした文章がいい。
いまはなくなってしまった新橋Tony's Barのカウンターで
ひとりグラスを傾ける常磐を見かけたことがある。
本書の文体は常磐が敬愛する山口瞳や、
文中に何度か出てくる池波正太郎の日記をほうふつとさせるが
本人は百も承知で書いているのだろう。
読書と散歩と飲食が好きな老人の繰り言は
どこか憎めぬ味わいがある。
人がどう老いて、どう死んでいけばいいのか。
僕にはとうてい答えなど分からぬが、
つい参考にしてみたくなる一冊だ。
2003年2月から2006年8月まで
『ダカーポ』(マガジンハウス)連載