あらすじ
翻訳者はみんな変っていて、それに貧乏だった――。直木賞受賞作『遠いアメリカ』と同時期を背景に、出版界の片隅でたくましく生きる個性豊かな面々を、憧れに満ちた青年のまなざしからとらえた自伝的連作集。巻末にエッセイ「二十代の終わりごろ」他一篇を付す。〈解説〉青山 南
【目次】
翻訳の名人/若葉町の夕/線路ぎわの住人/四月の雨/初夏のババロワ/黒眼鏡の先生/喫茶店の老人/新しい友人/夜明けの道/引越し/夏の一日
*
〔エッセイ〕昔のアパート/二十代の終わりごろ
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
「片隅の人々」常盤新平。
●1950年代、東京。アメリカ語の翻訳家、それもミステリー、ハードボイルドの翻訳家を志す、狭い狭い、出版業界の「片隅の人々」の人間模様。連作短編。
●貫く主人公は「私」で、高度成長とともに少しづつステップアップ。
●文章がうまい。すごくうまい。地味にうまい。
●描写の向こうに気負わない自分史。それが小津安二郎風味の青春物語に、昭和30年代〜の戦後史にもなっています。
●不安、恍惚、コンプレックス、恋人との暮らし、生活と夢。。。
これはある年齢以上の男性読者のためのものなんだろうなあ。その割り切りが素晴らしい。
Posted by ブクログ
アーウィン・ショーを訳していた人といった程度しか知らなかった常盤新平さんであるが、本書に登場してくる翻訳者の面々に関心があったことから手に取ってみた。
本書は小説であるから、実話そのままではないだろうが、登場する翻訳家も実名は出ていないが1960年前後の早川書房周辺の人たちだし、翻訳した作品の大体の記述もあるので、多分あの人がモデルかなあと推測するのは、とても楽しい。
翻訳家を目指してはいるが、まだまだ先の見えない若者だった作者の前に登場する師匠や先輩、同輩の人たちはほぼ変な人たちであるが、ほのぼのするものから不思議なもの、しんみりするものと、様々なエピソードが描かれる。
また、本当に翻訳家として一本立ちして、愛する家族と生活していけるか、揺れ動く真情には共感させられる。
アメリカ文化、文学が眩しかった時代。アメリカの小説に出てくるハンバーガーがいかなるものか話し合うエピソード、著者と恋人との借家に関する記述、翻訳料に関するやり取りなど読むと、当時がまだまだ貧しい時代だったこと、でも何とかなるさという希望が持てた時代でもあったことが伝わってくる。