梶谷懐のレビュー一覧
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梶谷懐(1970年~/現代中国経済論を専門とする経済学者/神戸大学大学院経済学研究科教授)と、高口康太(1976年~/中国の社会、ネット事情などに精通するライター、翻訳者、リサーチャー)による共著。
私は仕事柄、何人かの中国人の友人を持っているが、彼らとの連絡にはLINEは使えず、Wechatを使用しているし、中国に出張した際に(専用のアプリがなければ)GoogleもFacebookも使えないことは経験しており、中国の情報・通信統制には以前より関心を持っていたが、今般の新型コロナウイルス感染が中国・武漢で確認された当初、街頭でTVのインタビューを受けた若い中国人女性が「中国では、人びとの行動を -
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ある時期を境に中国、特に上海や深圳といった経済都市の犯罪は減少し中国人のマナーが劇的によくなった(たぶん今や日本人のマナーのほうが悪い)。テクノロジー&経済大国となった中国を「独裁国家」で紋切りしてしまうことに前々から違和感を感じていた。その理由が監視社会の「光」に焦点を当てた本書でクリアになった。
強力な一党体制と圧倒的な内需型経済を有す超巨大実験場の中華人民共和国は、アリババやテンセントが先導したIT革命によって一気に超先進国に躍り出た。リバタリアン・パターナリズムに基づくアルゴリズム的公共性は計画経済の進化系といえよう。そして功利主義のもと、『1984』的ディストピアではない、国民が幸 -
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以前、中国に行ったとき、空港からホテルに向かったタクシーの中に財布を忘れてしまったことがあった。ホテルの人に伝えたところ、すぐにビデオをチェックすると言って確認をしてもらった。結局夜なのでナンバーが見えなかったということだったのだけれども。その後、警察に行ったとき、当たり前のようにテレビのモニタで空港の様子を見て探そうとしていた。結局、見つからなかったが、ビデオで見られているということが全く当然のことと認知されていることに少し驚いた。
この本で書かれているように、現実世界では監視カメラやWeChat payやAlipayなどのスーパーアプリを通して行動を把握され、もちろんインターネットでもそ -
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キャッシュレスが進んでいるとか、監視カメラがすごいとか、アネクドータルにはいろいろ聞く中国で進行する「監視国家」化の実像(もともとギグエコノミー的な働き方の人が多かったとか、意外とソフトな形をとる検閲とか)をわかりやすく伝える。それだけではなく、その動きをマクロな歴史や社会観の中に位置づけようとするなかなか野心的な新書。功利主義だなんて言葉、高校生の頃に倫理の授業で勉強して以来かも。中国で起きていることが他の国々とも無縁ではないことを語る一方で、中国の独自性も整理してくれる。
あとウイグルのケースは正真正銘のディストピアで、その危険性は無視できない。
ふとした思いつき。。。。
見ようによっ -
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ネタバレ「こういう本は今の日本では売れないだろうなぁ・・」と「こういう本が出版される間はまだ大丈夫かなぁ・・・」というのが、本書を読み進める時に感じた最初の感想だった。
世の中に数多ある中国すげー本でもなければ、中国はもうすぐ破滅する的な本とも違う、中国で現在進行形の事象と、その現象を進めることが可能になる(ルールや主体ではない)原理を読み解こうという本書は決して多くのターゲットに刺さるものではないだろう。著者の一人である高口さんが担当されている部分では中国の最新事例を楽しむ読む人間はそれなりにいるだろうが、そういった人たちが梶谷先生の部分を噛み締めて読むというのは、あまり想像が出来ない。
難しいし、 -
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世界で最もデジタルテクノロジーのトライ&エラーを高速で繰り返し、それを経済成長の根底に据えることに成功している中国。昨今の”中国イノベーション論”に代表されるように、日本を始めとする先進国は中国に学ぶべき、という一面的な論説も多々見かけるようになってきた。
一方で視線を大都市からウイグルに向ければ、そこには中国共産党による政治弾圧が行われ、デジタルテクノロジーが弾圧を容易にしているという暗部があるのも事実である。そしてその暗部は徐々に香港へと向けられようとしている。
こうした二面性のある中国をどのように理解すればよいのか。本書では中国を長年研究してきた経済学者と、中国で今起こっているデジタ -
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全体感として、正論としての経済学から見た足下の中国経済の解釈である。各章のテーマがほどよい分量でまとめられていて読みやすい。
中国経済に関心を持って見ている人にとって、特別に新しい発見はないかもしれない。それでも整理はなるところが評価できる。
参考文献も非常にわかりやすくまとめられており、それぞれのテーマに対してもう一歩も二歩も理解を深めていく窓口としての役割も果たしている。
ここから先に進むとすれば、本書の内容について、中国に住む中国人の研究者であればどのように書くのか、そんなものがあれば比較研究を通して、本書が議論するところへの正解に近づけるかもしれない。中国の書店でそんな一冊を探 -
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すげー面白そうなタイトル。
目次を見ても、
取り上げられる経済学者はケネー、アダム・スミス、リカード、マルクス、パレート、クズネッツ。
一応経済学部卒の私は知ってなきゃいけない古典経済学の学者たち、
そしてフリードマンやピケティの名前も出てくる。
自分の問題意識からして、この400ページの分厚い本、何とか食い下がれるかと思ったが、、、
手も足も出なかった。
せいぜいわかったのは、
古典経済学者の人たちは、階級による格差はあまり気にしてない、ってことか。
階級は前提。経済学者はみな恵まれた立場にいるのだ。
でもそれだけじゃねえ、、、
まあ私の持論は、、、
所得格差は実力だけじゃなく運によ -
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筆者が描く、主に民間による個人信用データを活用した社会秩序維持・拡大による「幸福」の向上は、中国の経済成長が順調だった時代には当てはまるのだろう。
筆者は「天理」だか「徳」だかという現代中国に生き残っているかどうかもわからない概念に依存し、ある意味性善説に則り功利主義が全体最適に帰結するかのように説くが、コロナ禍の上海での人権弾圧や筆者も指摘するウイグル族に対する民族浄化、昨今の不動産バブル崩壊に端を発する経済停滞、政府による「国進民退」という民業圧迫、突発的無差別殺人などの社会不安に直面し、観光客が本邦で無作法に我が物顔で振る舞う彼の国に対して、筆者たちは何を書くのだろうか。