梶谷懐のレビュー一覧
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中国経済は行き詰まっている。住宅バブルは大量の未完成工事物件が、田舎の空を塞いだまま、工事もされずに鉄骨の柱も錆びついているという。一時期は中国のマンションは値上がりを続け、やがては地方にまでそのバブル的な景気が押し寄せるという楽観的な目測の元、庶民が住宅として住むには豪華すぎる物件の投資に、行き場のないお金が向けられていた。いつ頃だったか、巨大不動産企業の中国恒大集団の経営破綻がニュースで流れ、いよいよ中国初の世界恐慌が始まるのでは、と株価を見ながら緊張した事もあった。結果的には裁判による清算もこの2025年8月には完了した(香港証券市場での上場廃止は2025年8月25日)。然程、中国経済に
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専門的な内容が多く完全に理解したとは言い難いが、特定の思想に偏らない中立的な視点で今の中国経済が解説されていて勉強になる。自分では極力偏見を排してニュースを見るよう心がけているつもりだが、それでも古くて一方的な見方で中国を見ていたことに気付かされた。例えばEVの急速な普及はナンバー取得優遇などの政策要因が主だと思っていたが、単にガソリン車よりお得だから売れているだけというのに驚いた。昨年深圳の金持ち社長から「EVなんて不便で信頼できない車は絶対買わない」と聞いたが、そういう安物に俺は乗らないという事だったのか。
そして「殺到する経済」というフレーズも中国経済の特色をよく表現していて腹落ちした。 -
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無関心ではいられない中国経済の動向をネタに、経済学の様々な道具を紹介しつつ使ってみせる。経済学初学者のための良書だと思う。デット・デフレーション、リフレ政策、金融政策・通貨価値・対外資本取引のトリレンマ、資本の過剰蓄積、ユーロ圏の罠、ルイスの転換点、ゾンビ企業、深圳のエコシステム(産業生態系)、囚人のジレンマと報復・評判・分断、アリババの仲介システム、ハイエクの自生的秩序、等々の概念が具体的な事例に即して語られており勉強になった。また中国政府の様々な経済政策の変遷を、それぞれコンパクトにまとめて説明してくれているのもありがたい。中国経済にについてよりフラットな見方ができるようになった気がする。
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本書は昨年(2019年)の8月に刊行されてから、大変話題になり、かつ其の後起きたコロナ禍への中国の対応/管理手法の一つとして個人情報を国が使って監視したことから、さらに注目された本だ。
これについては否定的な視点はありつつも、実は昨今(特にコロナ禍以降)の日本においても、このような手法を肯定的に捉える風潮が強まり始めていることは、政治を司るもののみならず、国民の側にもメリットがあるわけであって、その点を、中国ではどのように捉えられているのか?ということを理解しなければ、この『幸福な監視社会・中国』というテーマを理解したことにはならない。むしろ、この点こそが『幸福な』と付く理由であり、中国に限 -
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日経の書評は★★★★★。媚びるわけではありませんが、私もそう思いました。
本書は近年の中国経済が直面しているいくつかの重要な課題について、「経済学の標準的な理論と、それを前提とした近年の実証研究の結果を踏まえながら」分析を行なっています。
例えば、中国の経済格差の問題については、まず中国国家統計局が発表したジニ係数の推移を紹介し、「2008年にピークを迎え、その後やや縮小に向かうというトレンドは正しい」と推論します。その背景として農家所得の上昇と、それに伴う、都市における非熟練労働者の減少をデータを示しながら明らかにしてゆきます。すなわち、事実認識を読者に提供したデータ、経済理論をベースに確 -
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中国の経済統計は信頼できない、中国人もそう言う。例えば経済成長率が工業統計と一致しないとか、省の統計の合計と一致しないとか。しかしどこに誤差があるかと言う地道な検証が進んでいる。李克強指数や様々な代替指数でGDP成長率を推定しようとする様々な試みが行われたが、国家レベルでは恒常的な水増しが行われたとまでは言えない。2014〜15年については課題評価されていた可能性が高いが、2016年は代替指数がGDP成長率よりも高い値を示した。GDP統計の誤差の最大の原因がサービス部門の統計に漏れがあることで、例えばヤミ経済が含まれていない。実質GDPを求める場合にもデフレーターの計算で中間財価格の反映に関す
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中国の人口統計が不正で、実は14億もいないのではという説がある。真偽は不明だが、統計がいい加減だという事はあり得そうだ。国力を低く見せたくないため、対外的に正直な数字を出さないという事はあり得そうだし、共産党内部の評価や忖度での操作もなくはないだろう。一昔前は、一人っ子政策のために戸籍に登録されない黒孩子の存在があり、人口はもっと多いはずとも言われたが。
ピークアウトする中国。「ピーク」=成長の頂点をいつ迎えたのか。そしてその後の「ピークアウト」=成長の限界と衰退兆候をどのように確認・証明できるのか。
中国は、2022年から人口減少へ。労働力人口も減り続ける。また、中国は長年にわたって農村 -
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現代中国を特に経済状況の変遷から俯瞰する良書。
基本的に中央政府は財政健全策を取っており、景気刺激策を地方財政に過度に依存した結果、不動産価格高騰を招き、不動産好況時は経済成長の原動力となったものの、不動産不況下では経済停滞や地方財政破綻を生んでいる。
巨大な国内市場を背景にした優位な自国市場効果により(巷間囁かれる不正な補助金支給は実は限定的)EV、太陽光パネル、リチウムイオン電池は世界的に圧倒的なシェアを誇るが、裏を返せば「供給能力の過剰と消費需要の不足」という中国経済の宿痾の象徴ともいえ、その解決策として打ち出した一帯一路も奏功せず、同国経済は踊り場を迎えている。
客観的には国内需 -
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コロナ禍に行った追加的財政支出は総額7710億ドル、GDPの約4.8%に相当する。
日本では8440億ドル(対GDP比16.7%)、米国は5兆3280億ドル(同25.5%)と他国と比べてかなり控えめなものだった。
中国では政府の財政政策は消費を下支えするには不十分だった。金融政策は積極的に緩和を続けたものの、財政政策が消極的だったため、行き場を失った資金は不動産市場へ向かい、一時的な不動産価急上昇へとつながった。
不動産危機の引き金になったのは「三つのレッドライン」と呼ばれる債務削減義務が原因。
習近平政権が2014年に新型都市化政策と呼ばれる新政策を打ち出した。
それは、農民が都市住民とな -
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伊藤計劃『ハーモニー』を読みながら思い出したので、改めて手に取る。中国におけるテクノロジーを用いた「監視社会化」の進展は、『1984』的な権威主義的全体性というよりは、ハックスリーの『すばらしき新世界』のイメージで捉える方が適切であり、主にデータを譲渡することと利便性の向上とのバーターが意識されているという意味で、データ資本主義とAI/ITを用いた統治をめぐる世界史的な同時性の文脈で理解すべき、という議論が展開されている。中国の事例を理解する上では、市民的公共性という問題意識の稀薄さという論点だけでなく、統治者に「徳」を求める儒教的な価値観の回帰という契機が重要だという記述も。
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ネタバレ今中国では、アリババ、テンセント、ファーウェイといったIT企業が目覚ましい発展を遂げる一方で、中国政府は監視カメラの設置やIT企業に対する統制によって監視国家を形成しているようにみえる。デジタル社会の到来は、非常に大きな利便性をもたらす一方で監視社会を作り出している。そして中国の人々は、それを忌避するのではなく、むしろ歓迎しているのではないか?それは決して民主化が遅れているといった中国固有の問題ではなく、人類共通の課題なのではないか。筆者の問題提起はここにある。
香港への弾圧や台湾への強行姿勢、ウィグル族の強制収用などから、中国は権威主義的で民主化されていない国、というイメージが強い。そのため