井上のきあのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
私には このシリーズに
特別な思い入れがあるのかもしれない。
この小説の素材は
言ってしまえばオカルト。怪奇譚だ。
陰陽道にゆかりのある旧華族。
その子孫が次々に出会う
着物にまつわる怪異は
しかし少しも恐ろしくない。
むしろ切なくもの悲しい。
この世に残る 強い想いが形となり
現象となって 眼に映るのだとすれば
この物語には 美しい着物とともに
消え残り 誰かに知ってもらいたいと
彷徨う たくさんの想いが詰まっている。
それはこの世を去った人たちだけの
ものではない。
鹿乃や慧 良鷹の中の想いもまた
知るべき人に知ってもらいたいはず。
しかしそんな想いたちは
この優しい人たちの逡巡と葛藤の中
胸の奥深くに閉じ込められてしまっている。
想いを解き放つ…そのことに畏れを抱く
善き人たちの戸惑いが このシリーズから
匂い立つ。
ここに来て動き始めた慧の想い。
それをしまいこもうとする慧。
無邪気なままに 想いを言の葉に載せた鹿乃。
美しい神話や古伝承と
あざやかな色彩と図柄の着物たち。
そうして大和言葉の織りなす綾に彩られ。
遠野物語を 現代に再び
書き起こしたかのような
妖しさと懐かしみを湛える静謐の世界で
主人公たちの想いもまた
形を帯びてゆくようだ。
ほんの手の届く未来に 悲しみが待っている。
それを予感せずにはいられなかった今作。
その悲しみの涯に何が待つのかは
まだ 私には見えない。
でも 見届けたいと思っている。
糺ノ森近くに住まう主人公たちの
心が救われるその日を。 -
Posted by ブクログ
本の好みが似ているお友達に教えてもらって読みました。京都が舞台の、アンティーク着物にまつわる不思議を解くミステリです。着物が題材なだけあって、着物の着こなしが出て来るのはもちろん、詩や俳句も登場するので面白いです。茶道をかじっていたため少しは着物のことが分かりますが、分からない色や柄を調べて頭の中で思い描くのがとても楽しいです。主人公の鹿乃と下宿人の慧との関係も見どころです。歳が少し離れた男女の恋愛模様を見守るのが好きなので、続刊はそちらも楽しみに読みたいと思います。読み終わってカバーや挿絵(扉絵?)を見返すと、内容と繋がっていて面白いですね。
-
Posted by ブクログ
ネタバレどうせならゆっくり読みたいと思って置いていたら、今になってようやく読めました。
今回は野々宮家のルーツ(これがどの代も仲のいいことで。笑)と、複雑な慧の出生にまつわる話が全て出ます。慧が父親を許せないのと同じように、鹿乃は物心つく前に失った両親を改めて知った以上、慕うのを止められない。
そして慧も、ずっと大事にしてきた宝石をそのままにはできないことに気付いてしまった、というより問答無用で気付かされて、でもそれが大事だから一歩を踏み出せない。春野くんの牽制で慧が引いちゃうのか、鹿乃が曾祖母のようにぶつかっていくのか、気になります。
ていうかこの二人が纏まってくれないと、シスコンの良鷹君は嫁探しもできないような気がします。 -
Posted by ブクログ
今作はこれまでの中で一番浸れました。
それぞれの時代に それぞれの連れ合いを
想い合いながら その想いを交わすことなく
心ごと体ごとすれ違ってしまったご夫婦も
最期の時を迎えてようやく
その想いを着物や帯などに託した方も
どのお話も その時代時代の古都の風情と
明治から昭和までのモダニズムが融け合う
不思議な京都に包まれて 優しく狂おしく
胸に沁みわたりました。
もっと単純に私は この文庫本の表紙絵と
同じく 背景も人々も物語も風物もお料理も
全てを本当に本当に美しいと感じています。
かつては冷たさを感じていた京都に
仕事の関わりで触れ合うことが増えてから
私は京都に魅入られはじめたのです。
あーだいすき。この世界。