寺尾紗穂のレビュー一覧
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彼女の言葉が頭の中で反芻する。
「日が沈みゆく空を仰ぐ時。過ぎ去った今日を思う。それから昨日を思う。会えない人を思う。なぜいないのかと思う。なぜ出会ったのかと思う。浮き上がる疑問符を残り場はやさしく照らす。」
「文学や芸術とは、『社会の役に立たないから』という硬直した考え方を前に、しなやかに返答し続けるもの。」
淡々と語りかけているが、彼女の歩んできた人生の深さを垣間見れる。答えのない問いに対し考え続け、ひとつひとつに向き合う姿勢が魅力的だ。楽曲を聴いてから本書を知ったが、曲がつくられた背景なども詳細に記憶しており、丁寧に過ごされてきた人生の有意義さに感服した。 -
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2年前に「南洋と私」を読み、とても良かったので、今回この本を読むのはとても楽しみだった。
"国境を越えて友情をはぐくまなければ、戦争の本当の愚かさなどわからないのかもしれない。味方が死んだ、家族が死んだ、あの国に攻撃された、そうした次元で戦争をとらえる限り、戦争は人によっては「必要悪」であり、あるいは二度と降りかかってほしくない天災のようなものにとどまってしまうのではないか。国籍や民族という違いを超えて人と人が信頼しあえたとき、初めて人は戦争について「私たちは何をしているのか」という、根本的な問いに辿り着けるのではないか。" 146ページ
"他者との会話の -
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私は知らない
現代ビジネスの連載で、寺尾紗穂さんはコラムの執筆を続けていた。
原発で働いている人のことを私は知らない。
そうした知らない人を踏みにじって、私たちは電気を使っている。
土方さんの仕事の闇は、原発に限ったことではない。
下請け構造が多層化している分野においては、どこも労働者の待遇はひどいのかもしれない。
そうした危険を理解しながらも、働かざるをえない人がいる。
貧しさ、人間関係、生まれ、家庭環境、さまざまな背景とその人の仕事は結び付けられ、縛られている。
巨大なエネルギーをもった動力を得るために、失われているものは何か。
本著は失われたもの、失われつつあ -
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「気を衒うことなくとてもシンプルなのに、ものすごい力強さと美しさを持っている」
というのは、文章だけでなく歌や演奏、作詞作曲に至るまで、寺尾紗穂さんの表現活動全てに共通する特徴だと思いますが、どの分野においても高いレベルで具現化されていることに、ただただ圧倒されます。
本書は内容も素晴らしいですが、帯にあるいとうせいこうさんの「丁寧に書くことは 丁寧に生きること。」という言葉に心を掴まれました。
本書の中のどこか一場面を指しているわけでもないのですが、本書のどこを読んでも奥底でこの言葉が共鳴するようで、こんなに短い一文で的確にこの本の本質を表現できることにとても驚かされました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「好きだな、この人」と思った。
直接、会ったことはない。
この人の作った音楽を聴いたことはない。
仕事をしている領域は、たぶん、重なっていない。
日常生活の中でキャッチしている物事も、自分とはかなり違うのだろうと思う。
しかし、寺尾沙穂さんが著書「彗星の孤独」に書かれていることを読んでいて、
寺尾さんが感じていること、価値の置き方に魅かれた。
本書の中に、次のような記載がある。
『何かをアウトプットする時、
まわりの評価や世間の常識の中でものを考え、
そこからはみ出さない範疇で選択したり、
答えを出すことに私たちはすっかり慣らされている。
そのほうが楽だからだ。
まるでその術をうまく知っ -
Posted by ブクログ
前に読んだ「南洋と私」「あのころのパラオをさがして」が好きすぎて、このエッセイ集をワクワクしすぎてすぐに読み始められなかった。読み始めると少し読んでは考え、少し読んでは考えで、なかなか進めなかった。
お子さんを3人育てながら、たくさんの人に会い、旅をし、歌い、書いて、すごい人だと改めて思った。
"「社会の役に立たないからなくてもいい」「レベルが低くて中途半端だから価値がない」。こういう硬直した考え方を前に、しなやかに返答し続けるものが、芸術であり文学ではないかとも思う。" 50ページ
"何かに固執したとたん、それは古び始めるのだ。なぜなら現実は常に複雑