黒井千次のレビュー一覧
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ネタバレ主人公は大学生で、家庭教師先の人妻に心惹かれる(というかほとんど欲情という感じ)。それは、高校時代におそらく大恋愛の結果別れてしまった恋人への喪失感ゆえの反動と言えなくもない。また、時勢は日本の再軍備に反対する学生運動が活発な頃で、主人公は学生運動に身を置かねば「ならない」と思っているのだが、どうしても思い切った行動が取れず、「安全な」後方支援的な活動にとどまっている。父親が検事であり国家権力側の人間であることから、父親への反発心もある一方で、万一逮捕された時の父親が失職するかもしれないという可能性への恐れもある。また、それ以外の要素として主人公は小説を書こうと同人誌活動も行なっているものの、そちらもやはりどっちつかずの印象が否めない。
政治的活動に関心があり、文学的野心で何か成し遂げてやろうという気持ちもある。父親への反発から父とは別の方向に進みたい。一方で踏み出しきれず、家庭教師先の人妻へのことで頭がいっぱいになっている。後半はさらに、別れたはずの元恋人も戻り、肉体的な関係にもなるところで物語は終わる。
このような迷いや人間的な弱さは、おそらく誰もが学生時代に感じるところであり、特に東大生として何かやらなければという筋違いの使命感のようなものは、個人的にも共感できるところが多かった。政治的にも文学的活動にも身が入らず、結局のところ女のことで頭がいっぱいなのである。
しかも、再軍備反対にも理論的というより、徴兵制になり自身の身が危ういという危機感が根底にあるようで、あくまで個人的な動機が中心なのではないかと思った。
もちろんそうした不徹底さこそが大学生なるものであるという点で面白かったのだが、小説としては女性関係に筆を割きすぎではないだろうか。また、人妻も元恋人もやや物分かりが良すぎるようにも思う。あくまで主人公の内面においての苦悩の様子が詳しく書かれていたが、特に父や、元恋人と論争したりする場面はあまりなかった。前作に当たる小説にそれが描かれているのかもしれないが。
しかしいずれにせよ、自分自身の学生時代を振り返ってみると、それでもこの小説の主人公の方が、十分に政治的文学的に活動を行なっている。時代背景だろうか。いや単に、自分が情けないだけだろう。 -
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ネタバレ私は、来年は60代では一番年寄りになりますが、70になれば70代では一番わかくなります。そんな風に考えると面白いかもしれません(^-^) サミュエル・ウルマンの「青春とは」の詩はとてもいい詩だと思いますが、老いを感じると実際はなかなか難しいものがありますw。著者は「階段の一歩一歩が、体力や健康を確かめるバロメーターになる」と仰ってますが、階段の上り下り、健康維持のためであり、また転倒という危険物でもあるので、気をつけたいですね!黒井千次 著「老いの味わい」、2014.10発行です。
①会話の途中で「その時、こちらはもう生きてはいないだろうけどね」という言葉が不自然でなくなりましたw。②近況報告の内容は、70代後半は体調報告と病状報告とか。そして、80より先は1年1年だそうです。③二階への階段の一歩一歩は、体力や健康を確かめるバロメーターになっている。階段・エスカレーター・エレベーターの前で、私は迷いなく階段を選択していますw。④「おじいさん」の自覚はないですw。死ぬまで、ないような気がします(^-^) 黒井千次「老いの味わい」、2014.10発行、再読。
黒井千次「老いの味わい」、2014.10発行、再読。①階段、エスカレーター、エレベーター。階段は体力や健康を確かめるバロメーター。私は階段、坂道は薬と思ってw ②電車は読書の空間。本と老眼鏡は、スイカ、万歩計同様の必需品 ③古い住所録は生の軌跡。整理や書き直しは必要な手入れだけど、同時にそれは過去の否定、末梢になってしまう。古い住所録はそのままに ④歳月重ね捨てられない物が多々。古いモノは時間の肖像。 -
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厳密に言えば過去に出版された、角川文庫版を読んだため、収録作が異なっているかもしれない。
「二つの夜」「聖産業週間」「穴と空」「時間」「騎士グーダス」「空砲に弾を」(収録順)計6作。
二つの夜は、会社員の主人公が上司に”ブツ”を探すように命じられるが、そのままブツを探せと言われているため、実態が分からないまま奔走するという話。穴と空は職場の同僚が出社しないことから様子を見に出かけた人もまた翌日には行方が不明になり、その二人を探しに出かけた人もまたどこかへと連鎖が続いていく。上記二作はSF仕様の文学作品と呼ぶのかもしれない。安部公房の様な本格なものでは無く、SFの題材を文学として描いたものと言った趣き。
他四作は、「時間」を除き、労働の営みの虚しさを感じる主人公が自身の内にある何かで埋めようとするような作業的な内容になっているが、どれも違った描かれ方がされ、退屈を感じはするが、ハッとする一行があったり、労働という概念を見つめ通した文学作品として希少価値がある。
「時間」は血のメーデー事件が題材に取られており、その現場で捕まった人とそうでない人との差、本当の意味での自由と拘束の異なった時間の差とはどう違うのかを記している。この作品はゆくゆく発表された『五月巡礼』という長編の原型とされている。 -
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ネタバレ[ 内容 ]
昭和一桁生まれの作家が、自らの日常を通して“現代の老いの姿”を探る。
同級生の葬儀を同窓会になぞらえ、男女の老い方の違いに思いを馳せ、「オジイチャン」と呼ばれて動揺、平均余命の数字が気にかかり―。
冷静な観察眼と深い内省から紡がれる、珠玉のエッセイ五六篇を収録。
[ 目次 ]
1 病気待ちの列(父という時計;自然に老いていくには? ほか)
2 友を送る―これも同窓会(時間ないのは僕なのに;追い抜き、追い抜かれ ほか)
3 老い遅れに気をつけて(歳を取れなくなった時代;一つ拾い、一つこぼす ほか)
4 「普通高齢者」がイチバン(平均余命で数字遊び;生命の灯が点るのも病院 ほか)
5 “冷や水”とのつきあい方(二度こぼしても―失敗を恐れずに;ヒガミとアキラメ ほか)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
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黒井千次(1932年~)氏は、東大経済学部卒、富士重工業に入社し、会社員生活のかたわら執筆活動を行い、1968年に芥川賞候補、1970年に芸術選奨新人賞受賞。その後、富士重工業を辞めて作家活動に専念するようになり、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞等を受賞。日本文芸家協会理事長、日本芸術院長も務めた。文化功労者。旭日中綬章。
本書は、NHKラジオ第二放送で2006年4~6月に放送された「老いるということ」の13回分をベースに、一冊の本にまとめたものである。著者は現在90歳であるが、本書の後も、中公新書、河出書房新社から、『老いのかたち』、『老いのつぶやき』、『老いの味わい』、『老いへの歩み』、『老いのゆくえ』等を数年おきに発表している。
私はアラ還になり、近年、五木寛之、斎藤孝、佐藤優、出口治明等による、人生後半の指南書的な本を読むようになったが、上記の通り、著者は「老い」について多数の本を書いており、一冊読んでみようと思って本書を手に取った。(一冊目の本書を選んだのは、続篇は前に書かれたものの焼き直しが多く、結局一冊目が最も優れていた、ということがしばしばあるためである)
内容は、キケロー『老年について』、E・M・フォースター『老年について』、深沢七郎『楢山節考』、映画/戯曲『ドライビング・ミス・デイジー』、マルコム・カウリー『八十路から眺めれば』、幸田文の随筆、映画『八月の鯨』、耕治人の小説、芥川龍之介『老年』と太宰治『晩年』、島崎藤村の短文、伊藤整『変容』、萩原朔太郎のエッセイと伊藤信吉の老年詩集、を材料に、老いるとはどういうことか、その中にいかなる意味が隠されているか、を探ったものである。そういう意味では、ノウハウが中心の一般の指南書的な本とは一線を画する。
印象に残った記述をいくつか挙げると以下である。
◆老いるとは生き続けることであり、現在進行形の時間である。老いはその人にとって精神の最後の運動場であり、日の傾いたグラウンドに何もせずにぽつんと立っているのではなく、その精神のフィールドを可能な限り駆け廻らなくてはならない。
◆老年期だけを取り上げて老いを考えることはできない。老いとは過去と切断された時間ではなく、そこまで生きてきた結果として出現するのであり、突然訪れるものではない。よって、老年に達してから慌てて老年のことを考えようとしても間に合わない。
◆老いは過去と深く繋がっているが故に、老いの一般論は容易に成り立たない。一般論などないと断念するところから、自分自身の固有の老いへの模索が始まる。
◆現代は、かつては存在した、老年とはこのようなものであり、このように年をとっていけばいいのだという規範のようなものがなくなってしまった。しかし、老いの理想としては、元気な老人や生涯青春ではなく、「まことの老年」や「きれいな年寄り」が目指されるべき。
◆老人が持つ力は、長く生きて来た経験を糧とする質の力。人の経験は単なる時間そのものではなく、その中で自分が何をどのようにしたかによって篩にかけられ、蓄積されていくもの。その意味で、老いの力は量よりも質に依拠する。
◆季節は常に先へ先へと変わって行き、新しいものへと姿を変える。季節は老いを見せることがない。季節と共に生きていれば自分も自然に前向きになり、過去に沈没せずに生きていられる。(幸田文)
老年期をどう生きるかというハウツー本とは異なる、「老い」のそもそもの意味を考えさせてくれるエッセイ集である。
(2022年10月了) -
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ネタバレ老いることの意味、肉体的に、精神的にあると思いますが、86歳で没した幸田文さんが70歳の時のエッセイに次のようなくだりがあります。「自らの限界を認め、今迄より一歩も二歩もさがったところでものを考えようとしなければならない」と。彼女は「きりりと絞りあげた意志」と表現してますが、心に響いた一節でした。黒井千次 著「老いるということ」、2006.11発行。
寿命が延びるとは、老後が長期化すること。平均寿命が70歳を超えたのは、男性1971年、女性1960年。自分は年を取ったと自覚して、初めて老いの視野も展望も開けてくる。 黒井千次「老いるということ」、2006.11発行。私は65歳では、体に老いも違和感も感じませんでした。70歳も同じでした。今年74歳になる手前から、ぎっくり腰を契機に腰や背中の痛み、腹部の違和感など、これが老いなのかと感じました。体の様子を見ながら、運動・体操や養生に励みたいと思います。 -
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自選短編集ということで、初期作から現在に至るまでの優れた或いは作者的に上手く書けたのだろう作品が、名を連ねている。いずれもある程度同じ枚数の作品を、意識的に年代別に選んだとあとがきにあり、作品の背景についてあまり多くは語られていなかったが、とにかく、初期は社会人時代と重なっていたこともあり、会社と個人や仕事と社会の距離感や内面がテーマに描かれ、作者が退社してからの中期からは家族や近所や場所という人間関係や繋がりを意識した作風に転化している。そのため物語の幅は広いが、共通した所は”内向の世代”の作家と呼ばれるだけあって、人間の内面もしくは行動が多く記されており、突き詰めた故の人間の心理の怖さが大抵の作品に滲み出ている。特に「石の話」「袋の男」が個人的には注意を引いた。
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初出は読売新聞夕刊の月一回の連載「時のかくれん坊」.第一弾は「老いのかたち」こちらは未読.本書は第二弾.
私自身も私の両親もどんどん年を取っていく.あたり前だが,そのあたり前のことがもたらす変化というのが,悲しい思いをともなう物が多いので,これから先,老いるというのはどういうことかを予習しようと,この本を読む.
黒井千次はこの本の中では78歳から82歳.日々の生活から,「老い」をすくい上げ,その老いといかに付き合うかを淡々と綴っている.老いの描写は,なかなかリアル.物忘れのレベルを段階ごとに分析していくところなどは言葉が適切で,私ももう少しするとこうなっていくんだなぁ,ということが感じられる.
あーやっぱり歳はとりたくないなぁ.