Posted by ブクログ
2021年03月10日
北森鴻(個人的なポリシーとしてご存命でない作家は敬称略です)は、蓮丈那智フィールドファイルシリーズを読んだだけ(しかもシリーズ全巻でなくご本人で書き終えられた3冊のみ)ですが、いずれもお気に入りだったので、今回の新装版刊行を機に、この香菜里屋シリーズにも手を出しました。
三軒茶屋の駅近くの袋小路に...続きを読むある小さなビヤバー「香菜里屋」を舞台に、客が持ち込む謎をマスターの工藤哲也が解く。
こう聞くと、有栖川有栖さんの「山伏地蔵坊の放浪」や、近藤史恵さんの「タルト・タタンの夢」に始まる〈ビストロ・パ・マル〉シリーズの様なイメージを思い浮かべていました。
そのイメージは、香菜里屋が行ってみたくなる店であること、マスターの工藤さんの謎めいた、でも親しみやすそうなキャラと彼の提供する美味いビールや料理が魅力的という点に関しては当たっていました。
いや、ほんと近くにこんな店ほしいです。
そう頻繁にはいけそうもないけど。
イメージと異なっていたのは、持ち込まれる謎とその背景にある物語が、存外、生々しく時になまめかしく「生」を感じさせるものが多かったことです。そのせいか、謎が解けた爽快感は低めです。
そもそも謎解きというより推測にしか過ぎない漠然とした終わり方のものもありますしね。
最初の一編で、それに一瞬抵抗感を持ったのですが、工藤さんのキャラと料理込みでの香菜里屋という魅力的なスペースが、ざわつく心を癒やしてくれたのも事実です。
なので、☆5つとはいかなかったものの、もう少し香菜里屋には足を運びたいと思います。