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Posted by ブクログ
ゲド戦記シリーズの5巻だが、外伝という立ち位置にある作品集。
収められている作品は5作品。
作品は短編くらいの短さのものから中編、なかには長編レベルと言ってもいい長さの作品もある。それもあって600ページ近い分厚さ。
また、描かれている作品世界は、アースシーの歴史のなかでも年代はバラバラ。ほぼその世界の神話や伝説のような扱いとされるものもあるし、4巻の『帰還』と6巻の『アースシーの風』とをブリッジする作品世界内でも新しい位置付けにあるものもある。
『カワウソ』
ゲド戦記世界で魔法使いを育成する要所として存在するローク学院。そのローク学院誕生について語られる長編。
ゲドが活躍していた時代ほど魔法が世界に受け入れられてない時代、魔法の才能を持って生まれてきてしまった人たちは魔法を使えることを隠して生きていた。見つかれば、村を追い出されるか、奴隷として捕まり力を利用されるかだった。
そんな時代に才能ある一人の魔法使いの少年カワウソが、奴隷として捕まってしまう。カワウソはその才能から、辰砂探しの奴隷として使われるようになる。そこで同じく奴隷として捕まっている少女と出会うが、カワウソは少女に助けてもらい、逃走することが出来た。
逃げ延びたカワウソは、魔法使いだけが訪れることが出来る場所を作ることに協力し、手の者と呼ばれる地下組織を巡っていく。
『ダークローズとダイヤモンド』
ダイヤモンドと呼ばれる有力商人の息子が、魔法の力を持って生まれてきた。その才能から魔法使いの弟子となり、魔法の勉強を始める。
魔法使いもダイヤモンドの才能を認め、ローク学院へ入ることを勧める。
しかし、魔法使いの道を選ぶならダイヤモンドはこの先、愛する相手を作ることなく一人で生きていかなければならない。彼には愛する相手がいた。子どもの頃から一緒に育ち、ずっと近くにいてくれた村の女性ローズだ。ローズとの人生を選ぶか、魔法使いとしての人生を取るかダイヤモンドは悩む。
『地の骨』
ゲド戦記第1巻『影との戦い』でゲドが仕えるゴントの魔法使いオジオン。彼はゴントで起きようとしていた大地震を沈めた逸話がある。
オジオンがまだダンマリと呼ばれていた頃、彼と、彼の師匠ダルスがゴントで起きる大地震を沈めるまでを描く。
『湿原で』
セメルと呼ばれる島では家畜の病気が流行っていた。
ある日、家畜の病気を治すために魔法使いのオタクがやって来る。オタクは治療のあいだ、メグミと呼ばれる村外れの女性のところに厄介になる。彼は変わったところがあったため村人に疎まれるが、実力は本物だったため、治療している間は渋々ながら村人たちも彼の滞在を許していた。
そんなオタクの前に、それまで村のお抱えまじない師だったアイエスが来る。アイエスはオタクに突っかかり諍いになるのだが、それがきっかけとなってか魔法の力が発動してオタクはアイエスに強力な魔法をかけてしまう。
そんなセメルに大賢人になったばかりのゲドがやって来る。
『ドラゴンフライ』
4巻の『帰還』と、6巻の『アースシーの風』を繋ぐ位置にある作品らしい。
ウェイ島の領主の娘ドラゴンフライは、自分の存在に疑問を抱いている。親しい魔女のバラからもドラゴンフライには力がある、と言われるが、その力とは何なのかはっきりしないでいた。
そんなときに領主のお抱え魔法使いとして雇われてゾウゲと呼ばれる青年が来る。ゾウゲはローク学院で学んだ魔法使いの見習いなのだと言う。
ドラゴンフライは、そんなゾウゲに女人禁制とされるローク学院に姿変えの術を使って入り込もうと唆される。ドラゴンフライも乗り気になり、ローク学院へと船を向かい、そしてローク島伝統の魔法の風を抜けることに成功する。
そしてついにローク学院の扉を叩き、招かれることになる。
そこでドラゴンフライは自らの出自の真実を知ることになる。
これまでゲド戦記シリーズを順番に読んできて、3巻までは物語はシンプルだがある種の昔話や伝説、神話などにも比肩できるような強度のある物語世界を作ってきているように感じていた。それが4巻の『帰還』からはそのシンプルさやビルドゥングス的ストーリーを脇に置いたことで、アースシー世界が我々の現実世界の混迷さを映し出すような複雑さと豊かさを併せ持ったように感じた。
だからこそ『帰還』以降は、ゲド戦記の世界に広がりが、ぐっと増した印象を受けた。所詮はファンタジーと切り捨てることのできないリアリティがある。
本作はその広がりを更に拡大するような作品集で、アースシーの成り立ちに、その時間、歴史に思いを馳せてしまうようでかなり好きな巻だった。
Posted by ブクログ
「私たちは揺るがない確かなもの、遠い昔からある真実、変わることのない単純さを、ファンタジーの領域に求める。ー
するとそこに多額の金が注ぎ込まれる。模倣と矮小化された“商品化されたファンタジー”は、かわいく安全なものとなり、ステレオタイプ化されてガッポガッポと金を儲けていく。ー
私たちは長い間、現実と空想の両方の世界で暮らしてきた。しかし、その暮らし方は、どちらの場合も、私たちの両親やもっと前の先祖たちのそれとはちがう。
人が楽しめるものは年齢とともに、かつまた時代とともに変化していくものなのだ。-
物事は変化する。
作家や魔法使いは必ずしも信用できる人たちではない。
竜がなにものであるかなど、誰にも説明できない。」
再びアースシー世界に足を踏み入れるにあたってアーシュラ・K. ル=グウィンが記した警句である。
それは自らが創りあげた美しい世界に目を凝らし、そこに潜むひび割れを鋭く批判する作業である。
賢人の島ロークの権威が孕む矛盾と欺瞞が語られるとき、ファンタジーの魔法は解けるのか?
いや、『カワウソ』そして『ドラゴンフライ』はアースシーとリアルな世界を共鳴させることで、物語をより重層的にそして切実に感じさせてくれる。ファンタジーのテーマは剣と魔法だけじゃない。
Posted by ブクログ
異世界ファンタジー。魔法使いや竜の存在する、アースシーという架空の世界を舞台に生きた伝説の大賢人・ゲドの生涯を綴った壮大な叙事詩。
第一巻では、飛びぬけた魔法の才をもって生まれたゲドの少年時代、若さゆえに犯した過ちとその償い、自分自身の影との長い戦いについて描かれています。
以後、巻を重ねながら、やがて大賢人となったゲドが人々を襲う竜と戦い、闇の世界に囚われた巫女を外に連れ出して平和の象徴である伝説の腕輪を取り戻し、長らく不在だった王を即位に導き、不死を求めた魔法使いによって崩された世界の均衡を取り戻し……と、さまざまな伝説を残していきます。
第四巻からは、それまでの戦いによって力を失い魔法使いではなくなったゲドの、その後や、竜でもあり人でもある不可思議な宿命を背負った娘たちの話などが綴られていきます。
アニメ映画にもなりましたね、あっちはどうも今ひとつだったけど。(つまらなかったということはないのだけれど、途中から理解を超える超展開だったような……)
「ファンタジー好きなら読まないと嘘だ、映画のことは忘れろ」と人に言われていたので、そのうち読もう読もうとずっと思っていたのだけれど、なんとなく先延ばしになっていました。馬鹿か私は。さっさと読んでおくべきでした。面白かった!
歴史、人々の行動様式や言語、文化、宗教や神話、自然などの背景、魔法等々の設定がとても緻密で、そういうのが好きな人間にはかなりたまりません。
ストーリーはというと、やや好みがわかれるかもです。神話的なものが好きならハマると思います。シリーズの後半になるにつれて、壮大さが増すと同時に抽象性が増してきたような感じがあって、個人的には三巻までのほうが、より好きだったかなあ。でも五・六巻の竜と人間の間のエピソードそのものはすごく好きで、最後まで読んでよかったとも思うのですが。
ともあれ、とても楽しめました。ファンタジー好きな方なら一度は読んでおいて損はないと思います。
Posted by ブクログ
ゲド戦記、アースシーを舞台にした短編集だが、これは4と6と同時進行で読むか、4、5、6と順番に読むのがいいかもしれない。
作者がどうしてフェミニスト作家と呼ばれるのか、よくわかった。フェミニストといっても、エコロジカルフェミニストという範疇にはいるのではないだろうか。
女をどう描くかというのは常に挑戦のようなものではないかと思う。女の描き方は画一化されていたり、変に理想的だったり、添え物のようだったり、ヒロイン、登場人物として魅力的、オリジナリティがある人物像を描くのは難しいと思う。
しかし、ル・グウィンの描く女たちはどうだ。ファンタジーなのにリアル。等身大なのに奥底に何かとても価値があるものが秘められているような感じがする。どの女もそうだ。
「ドラゴンフライ」のアエリアンもそうだが、女は待ち、受け入れ、導き、そして自分だけで完結することもできれば、仲間とつながることもできる。根のように大地に広がり、揺るがない。支配ではなく連帯、男とでさえもそういうことができる。男は有史以来、女の支配しか頭になかったのに。
そういう不条理とそこからの脱出、解放を書いたのが、女の側から見たゲド戦記かなと思う。ゲドという英雄の物語ではあるものの、その英雄さえ魔法の力を失ってただのおじさんになり、力があると思われていた知の拠り所ローク学院が、実は女によって作られて女によって救われるっていうのが、象徴的である。現実の世界でままならないことをファンタジーの世界でやってのけ、かつそれが実現することを夢として描き出すというのは、まさに文学的だと思った。
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