プルーストを読まない、あるいは読んでも心惹かれない知識階級のフランス人は確かにいて、彼らはしばしば、バルザックは「人間の社会」( un monde) を描いたのに、プルーストが描いたのは「社交界」( le monde) にすぎなかったなどと異口同音に言う(果ては私に対して、時代も国も文化も違う日本人のあなたがどうして、そんな第三共和政下の社交界を描いた作家であるプルーストをそれほど愛して、かつその翻訳までしようと思うのかと訊いてくることすらある)。そういう「反プルースト派」の人びとに対してモーロワはプルーストの魅力を説いた。これは、「長い」と思いながらも、プルーストを読んでみようと思われた方々(「プルースト派」あるいはこれから「プルースト派」になりうる方々)にも有益だと思われるので、以下、章を変えて、モーロワの主張するところをできる限りモーロワの言葉を用いながら略述してみる。