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Posted by ブクログ
『逃亡者は北へ向かう』を読み終えて、胸に残ったのは、あまりにも深く、辛く、そして切ない思いだった。
物語は、体育館に立て籠もる犯人の衝撃的な場面から始まる。「なぜ彼はここまで追い詰められたのか」という疑問に突き動かされ、一気にページを読み進めた。
主人公の真柴亮は、真面目に生き、ようやく町工場の正社員になれるというささやかな幸せを掴みかけていた。しかし、その矢先に次々と不運に見舞われ、逃亡することになる。
彼を追う刑事・陣内もまた、東日本大震災で幼い娘を失うという大きな喪失を抱えていた。崩れかけた家庭と深い悲しみを抱えながらも、「これ以上死人を出したくない」という思いで真柴を追い続ける。その姿には、刑事としての責務と、一人の父親としての苦悩が滲んでいた。
一方、真柴にも、たとえ死刑を覚悟してでも東北へ向かわなければならない理由があった。逃走の途中で震災の混乱から家族とはぐれた幼い子どもと出会い、その小さな命を守りながら北へ向かう。
追う者と追われる者。立場は正反対でも、二人はともに大切なものを失い、深い悲しみを抱えていた。
真柴が望んでいたのは、ただ穏やかに生きることだったはずなのに、なぜこれほどまでに追い詰められなければならないのか。彼の不条理な運命には、何度も胸を締め付けられた。
震災という大きな悲劇の中で、それぞれが喪失を抱えながら生きようとする姿。読み終えたあと、人間の哀しさと運命の酷さ、そして人を思うことの意味を深く考えさせられた一冊だった。
Posted by ブクログ
東日本大震災の混乱の中、奪われた日常と、その混沌で起きたふたつの殺人事件。逃げる者と追う者、それぞれの極限状態を描いたサスペンス。
特に印象深いのは、逃亡者・真柴亮が抱える深すぎる孤独。
父親との逃れられない因果と、自らが歩んできた道のりへの葛藤の中で、マイナスへと転がっていく運命。亮が描く「当たり前の日常」の細やかな妄想は、彼がこれまでの人生で一度も与えられなかった親の愛や温もりの裏返しに見えて胸が迫る。
ある極限状態で、陣内から電話に「名前を覚えていてもらえた」だけで密かに喜びを感じる亮。
人は誰しもが慈しまれるべきであり、想ってくれる人がいることこそが幸福なのだと痛感させられる。
誰も自分を見てくれていないと絶望していた彼が、ラストで「ずっと自分を想い続けてくれた存在」に気づき、確かな救いを得た場面には、「やっと…」という気がしたのだか。
ただ、冒頭から亮の心情に寄り添いすぎている印象があり、全体的にややウェットな情緒に傾きがちな点は好みが分かれるかもしれない。個人的には、この理不尽な運命と人間の業をもっと突き放した、冷徹で乾いた筆致で描いてくれたなら、このドラマの過酷さと余韻が一層際立ったのではないかとも感じた。
震災の傷跡と人間の救済を描いた力作だが、その「湿度」の高さゆえに、読後感には少し複雑な思いも残る一冊だった。
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