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「ちょっと待ってほしいのだが」私はトムという名の猫に話しかけた。猫に喋りかけていること自体、眩暈を覚える思いだったが致し方ない。前には猫がおり、自分は身動きが取れず、しかもその猫が私に理解できる言葉を発しているのは事実なのだ。目を覚ましたら見覚えのない土地の草叢で、蔓で縛られ、身動きが取れなくなっていた。仰向けの胸には灰色の猫が座っていて、「ちょっと話を聞いてほしいんだけど」と声を出すから、驚きが頭を突き抜けた。「僕の住む国では、ばたばたといろんなことが起きた。戦争が終わったんだ」――伊坂幸太郎、十冊目の書き下ろし長編は、世界の秘密についてのおはなし。野心的傑作。/解説=松浦正人
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Posted by ブクログ
読書録「夜の国のクーパー」5
著者 伊坂幸太郎
出版 創元推理文庫
p182より引用
“「誰だって、自分たちより小さいものに
ついては、意識が薄くなるのかもしれない。
開き直るつもりはないんだけれど、だから、
僕たちも君たちのことを深く考えていなかっ
た。ただ、誰だって少なからず、知らない
うちに誰かに迷惑をかけているんじゃない
かな」"
動物にもはっきりとした意識がある世界
を舞台とした、長編ファンタジー小説。
同社刊行作文庫版。
大勢が集まる広場に、敵国の兵士がやっ
て来た。見たこともない道具を持ち、見た
こともない動物を伴って…。
上記の引用は、主人公で語り部的存在で
ある猫のトムが、鼠の代表者と交渉する場面
でのトムの台詞。
自分の行動の、端から端まで意識を配るの
は難しいものなのでしょう。よくある事で
すが、足の小指を何かにぶつけるのも、意識
の外にあるらしいからだとか。知らず知らず
ぶつかっているかも知れないことがあるの
ならば、せめて分かっている範囲では、しっ
かりと気を付けていたいものです。
「ベルセルク」の主人公・ガッツの、“アリ
を踏み潰すのを気にしてたら歩けない"と
いった意味の台詞を思い出す台詞でした。
p331に、敵に対して反抗した街の人に対
しての、度胸と不安と行動についての台詞
がありますが、割と納得できる考えでした。
脳が暇を持て余すと、不安に襲われるそう
なので、体を動かして脳をそちらに使いた
くなるのかもしれません。
中盤に少し冗長というか、読んでいてだ
らけるというか、そのような感覚を覚えま
したが、それらは全て終盤の為。
読み始めたら必ず最後まで、読み進めて欲
しい作品。
考察や予測をあまりせず、物語が語られる
にまかせて読み進めると、より読後が気持ち
良いのではないかと思われます。
勘の良い読者は、途中で色々気付いてしま
うかもしれませんから。
ーーーーー
「夜の国のクーパー」
伊坂幸太郎がまさか「吾輩は猫である」でくるとは思わなかった。語り手は人の言葉がわかる猫のトム。
舞台は毒塗りの防壁が巡らされた小さな国。鉄国が侵入して来て、国王の冠人が射殺され、国が支配される。
トムは生まれて初めて馬という動物と銃という武器を目の当たりにする。
そんな占領された国の様子をトムは「私」に語りかける。
仙台の公務員の「私」は妻に浮気をされ、趣味の釣りに逃避して海に出たら時化に遭い、気付いたら見知らぬ場所で横たわっていたのだ。
恐らく伊坂幸太郎の愛読者なら、彼のデビュー作「オーデュボンの祈り」を思い出すだろう。
人間の言葉を喋る案山子が存在する異世界を舞台にしたファンタジーを。
その案山子という存在は、作者が愛する丸山健二の「さすらう雨のかかし」のシンボルと響き合うし、この本では大江健三郎の「同時代ゲーム」の登場人物に刺激を受けていると思われる。
伊坂幸太郎はミステリ作家としてデビューしたが、純文学的なテーマをミステリ的な手法でスリリングに見せる作家だと思う。
そのために寓話の手法が使われるのだが、この本ではより象徴的な意味合いが濃い。実際、戦争を巡る対話がほとんどを占めている。
「魔王」で全体主義の危険性を捉えた伊坂幸太郎にとっては、戦争をテーマに据える事は、当然の帰結と言えるだろう。
崩壊した体制、権力の委譲と旧権力者の処遇、占領下における支配と被支配の問題などに、移動する樹木の化け物(クーパー)を退治するための出征兵士たちの伝説を絡めて、異空間の国の過去と現在が様々に語られるのだ。
とはいえ、物語巧者の作者の事だから、隠された秘密を用意し、巧妙に張られた伏線の回収と共に、一つ一つ明らかにするのだ。
謎が解かれるのではなく、当事者が一方的に告白する点など、物足りないと思うけれど、それもこれも終盤で判明する叙述トリックのためである事がわかる。
小説としての味わいにやや欠けるものの、寓話性に富む物語の興趣は十分に備わっていると思います。
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小説・文芸
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