お隣の国でありながら、ニュースやネットの情報だけではどこか実態が掴みきれない中国。本書は、北京駐在員としての実体験に基づき、「日本と中国は正反対である」という明快な補助線を引いて、その思考回路を解き明かしてくれる一冊だった。
■「日常」の基準が違いすぎる
一番驚かされたのは、第2章にある生活トラブルのエピソードだ。 朝起きたらカーテンが崩れ落ちる、シャンデリアが落下する、隣のビルがダイナマイトで爆破される……。これらが「異常事態」ではなく「日常」として語られるところに、この国の凄まじいタフさを感じる。 日本なら施工ミスや管理不足として大きな問題になるところだが、中国は「ハイリスク社会」が前提だ。何が起こるかわからないからこそ、いちいち細かいことに目くじらを立てず、自分の身をどう守るかという個のサバイバル能力が磨かれるのだろう。
また、近所の90店舗あった店が3年で5店舗しか残っていなかったという話も、その変化のスピード感と新陳代謝の激しさを象徴している。
■「我」の強さと自己プロデュース
就職面接のエピソードも非常にユニークで、日本の「謙虚さ」を美徳とする文化とは対極にある。 「100倍稼いでみせる」「このビルを買い取ってあげる」といった豪語や、親のコネを堂々と武器にする姿勢、さらにはダイエットの成功体験を忍耐力の証明としてアピールする。これらは決して単なるハッタリではなく、14億人という過酷な競争社会で「自分という商品」を売り込むための切実な知恵なのだと感じた。
「自分をどう見せるか」に全力を注ぐ彼らの姿勢は、規律や秩序を優先しがちな我々日本人から見ると、ある種の清々しささえ覚える。
■「大雑把」であることの寛容さ
著者が説く「中国人は大雑把である」という点は、自分にとっても救いになる視点だった。 私自身、あまり周囲が騒ぐほど中国に対して悪い印象を持っていないのだが、それは自分の中に「細かいことは気にしない」という大雑把な気質があるからかもしれない。 「正反対」ではあるものの、どこか共通する価値観を見出せると、隣国との距離感は少しだけ縮まる。
■まとめ
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という孫子の言葉がある。 感情的に反発したり、ステレオタイプなイメージで語るのではなく、彼らが「なぜそのように動くのか」という原理を知ることは、こちら側の立ち振る舞いを考える上でも非常に有益だ。
14億人のエネルギー、カネと食への執着、そして皇帝のごとき独裁体制。これらが混ざり合った巨大な隣人の実像を、面白いエピソードとともに覗き見ることができた。日本的な「精密さ」や「慎重さ」も大切だが、たまには中国的な「大胆さ」や「突破力」を自分の中に少し取り入れてみてもいいのかもしれない。
■面白かったエピソード(毎日がトラブルの連続 P48):
具体的にどんなトラブルが起こるのか。 私の生活経験で言うと、朝起きてカーテンを開けたら、カーテンが崩れ落ちてきたことがあった。テレビを見ていたら居間のシャンデリアは落下してきたこともある。マンションの施工がいい加減なのだ。
(中略)
外に出たら大型ソファーが上階から落ちてきたり、道路のマンホール部分が穴になっていたり、地下の水道管が破裂して水が噴き出したり、上りのエスカレーターが止まって下りに逆走を始めたり。出勤のためバス停で待っていたら、隣の古い12階建てマンションがダイナマイト爆発、白煙が降り注いで体中真っ白と化したこともあった。
経済の分野でも民営企業が突然潰れたり輸入したり株価が暴落したり、政府の経済制裁が急変したり。。。。 私が北京に越してきた時マンションの周囲にあった約90店舗のうち、3年後に残っていたのはわずか5 店舗だけであった。
政治の分野でも高位の幹部が突然失脚したり拘束されたり。
とにかく中国に暮らしていると、生きるということはかくも大変なことなどを実感する。
■面白かったエピソード(中国人の就職面接は ユニーク P131):
日本の学生は金太郎飴のような回答をしていた。
例えば入社後の抱負を聞くと「先輩社員たちの指導を受けて、早く一人前になれるよう頑張ります。」などと、模範回答する。ところが、中国の若者の場合1人として 同じ回答はなかった。例えばこんな調子だ。
「私が御社に入社したら、頭にアイデア満載なので、今 在籍中の社員たちの100倍稼いでみせます。ここのオフィスは賃貸でしょう?私は5年以内にこのビル全体を買えるようにしてあげますよ。」
「私の父親は天津市の幹部で政府にも人民解放軍にも強いコネがあります。私を入社させることは1000万天津市民を味方につけることを意味するのです。」
この2人は男性だが、女性もまたユニークだ。
「私は大学で『占い師』と言われています。あなたの手相を見せてください。ほお、前世はタクラマカン砂漠のサソリ だ。しかし、私を入社させたら、後世は偉大な皇帝様になります。」
「このデブな女の写真を見てください。1年前の私です。100キロ以上ありましたところが、ダイエットして今は 60キロを切った。御社に私くらい我慢強い人間はいないでしょう。」