恩蔵絢子の作品一覧
「恩蔵絢子」の「脱ドーパミン中毒(新潮新書)」「ドーパミン中毒(新潮新書)」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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Posted by ブクログ
脳の進化を生物の進化と人工知能の発展を追って解明するものだが、このような捉え方をするとこれほどまでにわかりやすいものかと思った。これまでに読んだ本の中でも、5本の指に入るし、世界観も大きく変わった。
5億5000万年前に出現した左右相称動物に、移動の方向を選択するための統合センターとして脳が生まれた。ドーパミンは、将来の良いことを予期するシグナルとして、ノルエピネフリンやエピネフリン(アドレナリン)などは逃走の感情を引き起こす負の情動価の刺激によって放出される。世の中の物事を良いものと悪いものに分類する情動価とともに、条件反射のような連合学習も生まれた。
脊椎動物では、脳は前脳、中脳、後脳の3つに分かれ、前脳は皮質と大脳基底核、視床と視床下部に分かれた。視床下部には情動価ニューロンがあり、個体にとって良いことを引き起こす。皮質はパターンを認識して空間地図を構築し、大脳基底核は試行錯誤によってドーパミンの放出を最大化するような行動を繰り返すことを学習する。好奇心は、すべての脊椎動物に見られることから、初期の脊椎動物で生まれたと考えられ、驚き自体がドーパミンの放出を誘発する。脊椎動物の皮質は、匂いを認識する外側皮質、視覚や聴覚のパターンを学習する腹側皮質、視覚シグナル、前庭シグナル、頭方向シグナルを混ぜ合わせて空間地図に変換する内側皮質に分かれた(それぞれ哺乳類では臭覚皮質、偏桃体、海馬に進化した)。
哺乳類は新皮質を発達させ、ことが起こる前にそれをシミュレートする能力を獲得した(鳥類も独自にシミュレートする能力を獲得した)。人間の脳では、新皮質が7割を占めている。ヘルムホルツは、人間の近くの多くが推論過程、すなわち生成モデルを用いた世界の内的シミュレーションと感覚的証拠を一致させる過程だと考えた。新皮質の微小回路が生成モデルを実装している証拠はたくさんあり、錯視や幻覚、REM睡眠で夢を見たり、想像することができることも理解できる。睡眠は生成過程を動かすことで、生成モデルを安定させている。新皮質は世界の予測マシンであり、周囲の物事が動くときに次に何が起こるかを予測するため、個体を取り巻く世界を再構築する。エピソード記憶も、おおよその過去を改めてつくるようなシミュレーションで、未来を想像する時と同じ神経回路を使っている。
人間の前頭葉には、無顆粒前頭前野(aPFC)、運動野、顆粒前頭前野(gPFC)の3つの領域があり、この順番で進化した。新皮質はニューロンが6層になっているが、無顆粒前頭前野では、その第4層が欠けている。無顆粒前頭前野は、大脳基底核の選択を観察することによって、個体の行動の意図を予測していると推測される。意思決定の方法には2つあり、動物心理学では「習慣型行動」と「目標駆動型行動」、カーネマンの「ファスト&スロー」では「システム1」と「システム2」、AIでは「モデルフリー」と「モデルベース」と表現されるが、それぞれ前者は刺激によって直接引き起こされる自動的な行動で、大脳基底核によって直接コントロールされる習慣であり、後者は行動がどのような未来をもたらすかを無顆粒前頭前野で検討し、目標を持ったもの。前頭葉の機能として、注意、ワーキングメモリ、実行制御、計画の4つが割り当てられているが、これらの機能は新皮質のシミュレーションをコントロールすることに使われている。運動野は、動物が新しい動きをする時に、その身体動作を事前に計画し、シミュレートして大脳基底核を訓練するもので、有胎盤類で出現した。
果実性の霊長類は、食料探しに多くの時間を割く必要がないため、自由時間が増えた。今日の霊長類は、時間の20%を社交に費やしている。政治的手腕の争いの結果として、他個体の意図や知識を推測する「心の理論」が出現した。霊長類の前頭前野には、顆粒前頭前野と感覚野の新しい領域が加わった。顆粒前頭前野は、自分自身について考える時に活動していることから、自分自身の内的シミュレーションを行い、「心」をつくっていると推測される。つまり、その個体が何を望み、何を知り、何を考えているかの説明を構築している(メタ認知)。顆粒前頭前野の大きさは、社会的ネットワークの大きさと相関していることから、他人の心をモデル化する能力も担っていると推測される。他者の動きをシミュレートし、自分でやるところを想像することによって、他者がなぜそれをしているのかを理解することができる。将来の必要性を予測するメカニズムも、現在とは異なる状況にある人の意図を推測するように、心の理論を働かせている。
霊長類の身振りは、集団間でも異種間でも共通しており、遺伝的に生まれるもの。物体や行動に任意のラベルを割り当てる宣言的ラベル付けは、人間以外の動物には見つかっていない。ブローカ野は、音声・筆記を問わず言語を生み出す能力に関わり、ウェルニッケ野は言語を理解する能力に関わる。どちらも他の霊長類にも存在するが、コミュニケーションには使われていない。人間の運動野は、咽頭と声帯を制御する脳幹に直接つながっており、その点で類人猿とは異なる。乳児は、声を出した後に間を取って親の反応を待つ。こうした身振りと発声を交互に行うことは遺伝的に組み込まれており、これが言語を学ぶ能力となっている。乳児がある物体と母親を交互に見たり、物体をつかんで差し出したり、指差して親を振り返ったりするのは、他者と注意を共有してラベル付けしようとするため(ジョイント・アテンション)。
Posted by ブクログ
【「好き」より「欲しい」】
・世界は物が足りない場所から、強い報酬刺激がありすぎる場所へ変わった。ドーパミンは報酬を得た快楽そのものよりも、報酬を求める動機、つまり「好き」より「欲しい」に深く関わる。動画やSNS、ゲームをもう一度見たい・続けたいという衝動も、この仕組みから捉えられる。
【快楽と苦痛のシーソー】
・快楽と苦痛はシーソーのように働き、快楽側へ傾くと、脳はバランスを戻すために同じだけ苦痛側へ揺り戻す。刺激を繰り返すほど快楽を感じにくくなり、反対に苦痛には敏感になる。楽になるために快楽を求めているのに、長期的には退屈や不快感に耐えにくい状態をつくるという逆説が印象に残った。
【不快感をすぐ消さない】
・人間は快楽の追求と苦痛の回避に熱心になりすぎた。退屈や不安を感じるたびに動画・SNS・ゲームで埋めるのではなく、その不快感をすぐには消さず、少し待ってみたい。高刺激な娯楽を完全に排除するのではなく、自分で距離を調整し、快楽を感じる力を取り戻すことが大切だと思う。
【身体を動かして報酬を得る】
・適度な苦痛に身を置くと、その反動で快楽を感じやすくなる。運動は気分を前向きにするだけでなく、本来なら身体を動かして手に入れていた報酬を取り戻す方法でもある。ゲーム内のキャラクターを走らせたり跳ばせたりするだけでなく、自分の身体を実際に動かすことを意識したい。ただし苦痛も強く求めすぎれば、仕事依存など別の依存になり得る点には注意が必要。
【正直さが親密さをつくる】
・人との親密さもドーパミンを生む報酬になる。高刺激な商品が他者との関係から得られる喜びの代わりになると、孤立や無感覚につながってしまう。自分の弱さや失敗を隠さず、正直に打ち明けることで、相手も心を開ける余地が生まれる。親密さをつくるのは完璧さではなく、互いの不完全さを認め、一緒に間違いを直そうとする意思なのだと思った。
【今後の実践】
・動画・SNS・ゲームを無意識に続けず、退屈や不快感を少し味わう。刺激が欲しくなったら、運動など身体を使う行動へ置き換える。そして人間関係では、良い自分だけを見せようとせず、弱さや失敗も正直に話す。快楽を増やすより、快楽をきちんと感じられる状態を守りたい。