ふたりが出会い、恋をして結ばれてめでたしめでたし。では終わらないストーリー。
ある日突然かずとの前に現れた、半年前に亡くなった飼い猫のハナを名乗る少年。陽だまりのようなあたたかな好意を寄せてくれる少年に、正体はわからないまでもかずとは惹かれていく。
「俺の本当の名前ははないあお」その名前を聞いた瞬間
...続きを読むにかずとは全てを思い出し…。
ぴったり組み木みたいに完成されたふたりでも、言葉にして伝え合わなくては時に歪み、隙間があき、形が合わなくなることもある。「幸せになってはい、終わり」ではなく、幸せでい続けることの難しさ。変わることに対する恐怖が裏に見え隠れする。
同じ場所に立ち、同じ感覚であることに安堵するかずとは、歩和の中の「強さ」に違和感を感じる。
「苦しませないとは言わない。苦しい時は一緒。ふたり一緒の共犯者」幾度となく交わされるふたりの共通認識が理想的でもあり、脆く危うい幻想的でもあり、疑心暗鬼にも囚われて、物語終盤まで常に薄気味悪い不安がつきまとう物語だった。こんなに大恋愛をしているのに、急激に冷める描写まで挟み込む作者様の“心理描写を描き切る”姿勢には毎度感嘆してしまいます。丁寧な作風がとても好きな唯一無二の作者様だと思っています。
最終的には大団円。危ういまでのふたりの同一感が消え、健康的な共に歩むふたりが存在していました。
読後感は良いです。
途中のもやもやに負けずぜひ完読いただきたい、圧倒的に“読ませる”作品です。