田中圭一×『マンガで分かる心療内科』ゆうきゆう先生インタビュー

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田中圭一×ゆうきゆう先生インタビュー

「漫画家が命を込めた一コマ」にフォーカスした独占インタビュー企画! 第11回は『マンガで分かる心療内科』などでマンガ原作を担当する、精神科医のゆうきゆう先生だ! 解説マンガでありながら同時にハイレベルなギャグマンガでもある本作に、原作者はどこまで関わっているのか、ギャグ漫画家の僕も気になるところ! そして、ゆうきゆう先生の原点を示唆する意外な“一コマ”とは!?
[インタビュー公開日:2015/09/18]

今回のゲストゆうきゆう先生

ゆうきゆう先生

神奈川県出身の精神科医・漫画原作者。東京大学医学部医学科を卒業後、2008年に「ゆうメンタルクリニック」を開院。2014年には皮膚科・美容皮膚科の「ゆうスキンクリニック」も開院する。医師業のかたわらで漫画原作者としても活躍している。現在は『ヤングキング』にて『マンガで分かる心療内科』を月2連載、『月刊ヤングキングアワーズGH』・月刊『ヤングコミック』の二誌にて『マンガで分かる肉体改造』を月刊連載中(いずれも少年画報社)。

今回の「一コマ」作品『マンガで分かる心療内科』

マンガで分かる心療内科

うつ病や適応障害など、心療内科や精神科で扱う症例を、テンポの良いギャグを交えて取り上げる解説ギャグマンガ。ゆうきゆう先生が原作を、ソウ先生が作画を担当し、心理士・心内 療(しんない りょう)が、看護師・官越あすな(かんごし あすな)と彼女の家族に振り回されながら、心の病について説明する姿を描いている。
元々は、ゆうメンタルクリニックのサイトで公開されていたWEBマンガが好評となり、『ヤングキング』でも連載されることになった。2015年2月には「アニメで分かる心療内科」のタイトルでWEBアニメ化された。

インタビュアー:田中圭一(たなかけいいち) 1962年5月4日生まれ。大阪府出身。血液型A型。
手塚治虫タッチのパロディー漫画『神罰』がヒット。著名作家の絵柄を真似た下ネタギャグを得意とする。また、デビュー当時からサラリーマンを兼業する「二足のわらじ漫画家」としても有名。現在は京都精華大学 マンガ学部 マンガ学科 ギャグマンガコースで特任教授を務めながら、株式会社BookLiveにも勤務。

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インタビューインデックス

  • 東大の漫研に所属。さらに“お笑い”の経験も……!?
  • Webサイトの応募から射止めた、作画者・ソウ先生の才能
  • 「ココロの不調」をマンガで伝えていく意味
  • パンツ→パンダ!? “ギャグありき”で作った渾身の1話
  • 漫画家志望必見! 「コマ割+テキスト」の制作スキーム

東大の漫研に所属。さらに“お笑い”の経験も……!?

――『マンガで分かる心療内科』を初めて読んだ時、最初はシンプルな解説マンガかと思っていたんですが、マンガとしての完成度、特にギャグマンガとしての完成度が非常に高いことに驚きました。ゆうき先生はマンガ原作者ですが、キャラクター設定やギャグなどに、どの程度関わっていらっしゃるんですか?

シナリオですべて書かせていただいています。大まかなコマ割りを決め、コマごとのシナリオを文字で書くという方法です。いわゆる小説的な書き方や、台本的な書き方とも違う書き方をしています。
コマを割って、「このコマで彼がこう話して、彼がこうツッコんで、ここでコマ終わり。で、次のコマではまたこうなって……」という風に、コマ割り形式のシナリオで書かせていただいているんです。

――なんと!シナリオ原作とネーム原作(※1)のハイブリッドなんですね。

そうですね。基本、セリフとかツッコミとかも全部自分で考えているので、ギャグ的な部分にも関わらせていただいている感じですね。

※1 ネーム原作
ネームとは、マンガの設計図にあたるもので、コマ割り・構図・登場人物の位置・セリフなど、ストーリーの流れが分かるように表したもの。「絵コンテ」と呼ばれることもある。原作者がネーム形式でストーリーを作り、作画者に渡すやり方を「ネーム原作」と呼ぶ。

――あるコマの中でボケたキャラクターがいて、「ツッコミのキャラクターは描かれていないんだけれども、ツッコミの台詞だけがコマに収まっている」っていうのは、展開のタイミングの上では重要じゃないですか。そのあたりは、原作段階で意識されているわけですね。

そうですね、自分自身も大学時代に漫画研究会に所属していたので、結構いろんなギャグマンガを読んできました。もちろん、田中先生の『ドクター秩父山』(※2)も読ませていただき、すごく笑わせていただいておりました(笑)。
ひと通りギャグマンガを読んできて、ギャグはやっぱり分かりやすく、1ページ1ページで短く完結するので、解説マンガに一番マッチすると思ったんですよね。ストーリーマンガだと長くなりすぎるので、構成上、短編・単発という形が望ましいんです。
あと、この『マンガで分かる心療内科』は、そもそものスタートが当院のWEBサイトのコンテンツだったので、あまり長くなってしまうと読んでもらえません。なるべく短くする必要に迫られると、やっぱり「ギャグ」で「短編」という形が、一番マッチすると思ったんです。
開始当時は3ページほどだったんですが、連載していくと、当然の流れで「ページ数がある方が説明しやすい」ということになり……。8ページ、12ページ、14ページと、回を追うごとに長くなっていきましたね。

※2 『ドクター秩父山』
1986年より『コミック劇画村塾』などで連載された4コマ漫画。主人公の医者・秩父山を中心にシュールなギャグが展開される。劇画調のタッチで描かれる下ネタギャグは田中圭一の名を世に知らしめるきっかけとなった。

――ギャグマンガは、テンポが良くてキャラが立ちますから、何かを説明する上で、読者がスッと入ってこれますよね。ただ、時としてギャグがあまりに立ちすぎて、「今回は何の話だったっけ?」くらいの感じになってしまう回もありますよね(笑)。キャラ立ちの素晴らしさと、ギャグテンポの良さがあいまって、ギャグマンガとして非常に優れていると思います。

恐縮です。確かに、ギャグが前面に出ている回も多くなってますね。開始当時は「心療内科・精神科の知識からギャグを」という形で作っていましたけど、いつの間にか「ギャグを言いたくて、知識を後からくっつける」みたいな回もあったりして……(笑)。逆転しちゃっていることもありますね。

――すごく重要なことだと思います。「キャラクターが何をしでかすか分からないから読みたい!」とか、「変態のおじいちゃんが、今回はどんな目に遭うのか?」とか、そこが楽しみだったりするじゃないですか(笑)。

はじめは心療内科・精神科がテーマでしたが、僕もいろいろ勉強する中で、皮膚科とか、肉体的なテーマとか、さらに美容、恋愛、“モテ”なども含めて、マンガでいろいろと広く扱えるなと思っています。

――「モテる」なんか、すごくキャッチーなテーマですよね。解説マンガって世の中にたくさんあって、よく市役所とかのパンフレットにマンガが使われていたりしますけど、あまり面白くなかったりするじゃないですか(笑)。でも『マンガで分かる心療内科』は、導入から面白くギャグが描かれていて、しかも、ちゃんと解説までたどり着ける。まさに、解説マンガのお手本というか、教科書的な作品ですよね。

ありがとうございます。そういった意味では、中学・高校の頃に、あさりよしとお(※3)先生の『まんがサイエンス』(※4)という作品が好きで、あれは本当に素晴らしいと思いました。あの形式に、大いに影響を受けていると思います。

――では、『マンガで分かる心療内科』を作る根っこになったのは、『まんがサイエンス』なんですね。確かに、『まんがサイエンス』は、マンガとしての完成度・ポテンシャルが高いところが重要なポイントです。

そうですね。難しいことを非常に分かりやすく説明しています。難しいことを難しく説明することは、誰にだってできるんですけど、それを簡単に分かりやすく説明しているところが、素晴らしいと思うんですよね。

※3 あさりよしとお
『宇宙家族カールビンソン』『ワッハマン』などで知られる漫画家。柔らかく味のある絵柄が特徴。無類のロケット好きで、SF作品を手がけることが多く、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」では、使徒のデザインを一部担当している。
※4 『まんがサイエンス』
1987年より『5年の科学』(学研教育出版)などで連載されている科学学習漫画。現在は『大人の科学マガジン』(学研教育出版)にて連載中。ロケットなどの機械や生物、環境問題など、あらゆる科学のテーマを、専門家から学ぶ小学生たちの姿を描く。

――ちなみに、ギャグ漫画家として気になるのは、『マンガで分かる心療内科』に登場するキャラクターたちの、テンポのいいギャグなんですが、ボケ・ツッコミのテンポの良さ、あのギャグセンスはどこから来たんでしょうか?

実は大学時代、漫画研究会のほかに「お笑い」をやっておりまして……。

――えっ、そうなんですか! それはかなり意外かも!

そうなんです。この話は初めてしたかもしれませんね。初出しです(笑)!
当時はボケ担当でした。お笑いの世界を知るまで、お笑いの人たちが「自分でネタを考えている」なんて知らなかったんですが、いざやってみると、ネタを考えるのはとても難しい。当時は、いろんな芸人さんを見て研究しました。海砂利水魚(現在のくりぃむしちゅー)とか、アンジャッシュとか、アンタッチャブルとか……。そこで「ボケとツッコミの構造」というものを知ったんです。ですから、当時の経験がマンガにも少し活きているのかもしれませんね。

――なるほど! 作品を読んでいても、何かのマンガを参考にしているというよりは、漫才寄りなものを感じていたので、ボケとツッコミの核にあるのが「漫才」だというのは、すごく納得できます。
ちなみに、当時はどんなネタをやっていたんですか?

医学生だったので、「医学ネタ」をやっていました。でも、お笑いは難しいですね。当たり前なんですけど、「演じる」と「ネタを作る」の両方を同時に行うわけですから。

――こうしてお話を聞いていると、ゆうき先生がお笑いをやっていたというのは、すごく腑に落ちます。『マンガで分かる心療内科』で、最初のコマにキャラの挨拶があって、その後に沈黙のコマがくることがありますよね。あれって演じている側の「間」ですよね。元気に挨拶した後で、間が空いて、ボケツッコミへと続く。何も喋らないコマを入れるというのは、ご自身が舞台に立って演じていたからなんですね。

そうなんですかね? 無意識で……自分では気づかなかったです。その後、やっぱり演じるのは大変だなと思って、お笑いは医学生の時だけでやめましたけどね(笑)。

――漫才にしろギャグマンガにしろ、「お客さんがいることを意識する」ことが、常につきまとうじゃないですか。ゆうき先生がお笑いを演じた経験が、マンガでちゃんと形になっているんだということを、すごく感じました。世の中、無駄になってしまうものは一つもないんですよね!

Webサイトの応募から射止めた、作画者・ソウ先生の才能

――立ち返りまして、マンガの原作者として、大学の漫研にいた時代も含めて、「マンガを好きになり、マンガを描きたくなったきっかけ」になった作品は何だったのでしょう?

きっかけという意味では、藤子・F・不二雄(※5)先生の、『ドラえもん』はもちろん、SF短編集や『エスパー魔美』など、藤子・F・不二雄先生が描かれた作品の大半を読んで、素晴らしいなと思った記憶がありますね。子供向きで分かりやすく、なおかつ深い部分もあって。
それが直接的に影響したのかは分からないんですけど、マンガを描きたいと思うようになって、大学で漫研に入りました。ただ、自分にはあまり絵の才能がないと、自分で描いてみて学びまして(笑)。じゃあ原作の方に、ということで、「文字」の方に行ったんですね。
あとは現実的な問題として、作画は非常に時間がかかる作業ですよね。やっぱり、医者をしながら作画までするというのは無理がありますから、「文字で関わる」という形が一番フィットすると思ったんです。
そういう意味では、作画者のソウさんに描いてもらっていることで、すごく助かっています。自分が書いたギャグなどを、想像した通りに彼が汲み取ってくれるので。

――原作と作画が分かれた時に、作画の人がちゃんと同じギャグセンスを持っているかどうかは、重要ですよね。

はい、それは本当に重要だと思います!

※5 藤子・F・不二雄
『ドラえもん』『パーマン』『キテレツ大百科』などで知られる漫画家。児童漫画の第一人者としてあまりにも有名だが、コメディ漫画を描く一方で、青年誌にSF短編を掲載していた。このSF(SUKOSHI FUSHIGI)な物語を収録した『SF短編集』は、斬新な発想に溢れ、藤子・F・不二雄先生の真骨頂である独特の世界観が随所に見られる作品として、多くの人を魅了し続けている。

――ソウ先生のマンガはテンポよく描かれていて、解説マンガとして“正しい絵”(アクの少ないフラットな絵柄)でありながら、同時にギャグ映えのする絵(エキセントリックなキャラクターが映える絵柄)になっているというのはすごいですね。普通、これらは両立できないものなんですけど。

そう言っていただけると、ソウさんも喜ぶと思います(笑)。

――『マンガで分かる心療内科』は、解説マンガなのにギャグのテンポとキャラクターのエキセントリックさが際立っていますよね。結婚願望の強すぎるお姉さんとか。

いやしさんですね(笑)。

――キャラクターそのものをパッとビジュアルで判別できることが、ギャグマンガで重要な要素ですが、いきすぎてしまっても、今度は解説マンガとして変な方向に向いてしまうので、そのバランスが絶妙だと思いました。
ところで、ソウ先生とは元々お知り合いだったんですか?

以前、WEBサイトをやっていて、日記やメールマガジンで心理学テクニックなどを書いていたんです。そこで、イラストコンテストみたいな感じで、「読者さんでイラスト描ける人、送ってください!」という企画をやった時に、送ってきてくれた読者の1人がソウさんだったんです。応募者の中でも特に上手かったので、「もし僕が原作を書いたら、マンガを描いていただけますか?」と相談しました。
それからWEBでちょこちょこと連載して、本になり、雑誌の方の連載をさせていただいて……という流れになりますね。

――なんと、ソウ先生は元々プロとして活躍されていたのではなく、読者で、しかもアマチュアで始められた方なんですね。それにしては、とても達者ですよね。

最初は、僕も含めて、お互い手探りかつヨチヨチ歩きでしたが、描き続けていく中で、それぞれがじわじわとマンガ作家っぽくなってきた感じはします。

――お互いが分かってきて、「これもできるかな」「できた」「じゃあこれも」みたいなキャッチボールができるようになったんですね。

そうですね。彼はそれまで特にマンガを描いたことのない方だったんですが、僕と一緒にマンガを作るようになって、そのまま描いていただいています。引き込んでしまって良かったのか、悪かったのかというのはあるんですけど……(笑)。

――現在、ソウ先生はWEBマーケティングなどのハウツーマンガでも大活躍されていますが、きっかけはゆうき先生との出会いだったんですね。
マンガの中の絵の密度というのはとても重要で、描きこみすぎると読み手が疲れてしまう。逆にスカスカだと、手を抜いていると思われる。でも、すごくバランスがいいですよね。絵がスッキリと読みやすく、背景も要所要所で適度に描かれている。だから、ソウ先生もそこそこ慣れた方なんじゃないかと思っていたんですが……。
原作も作画も、むしろ本業じゃない方々が始めたというのは、末恐ろしい感じがありますね(笑)。どちらも、漫画研究会だったり、マンガが好きだったり、という基礎があるからなんでしょうね。

背景の描きこみについては、「舞台がどこか」というのは、僕にもソウさんにも謎なんです。「クリニックの中かな?」くらいの簡略化で描いています(笑)。

――解説マンガは「どこであるか」は、あまり重要じゃないですもんね。改めて読ませていただいて、「マンガとしての完成度が高いから、これだけ多くの人が読むんだ」というのが分かりました。
僕は常々、解説マンガといえども「マンガとして面白くなければいけない」「マンガとして完成度が高くなければいけない」と考えていて、それでなおかつ解説ができるのが理想だと思っています。解説マンガは、「本当は『少年ジャンプ』に行きたかったけどダメだった人が、挫折して仕方なく描く」ものではなくて、「こんなに面白く描けるんだよ!」ということを、多くの人に知ってもらいたいですね。

僕は『まんがサイエンス』に限らず、昔から学習マンガが大好きでした。学研の『〇〇のひみつ』とか『〇〇のふしぎ』とか、そういった本をひと通り読んで、そこから勉強が好きになった部分があるので、正直、学習マンガというものが、もっと浸透してもいいのかな、と思います。

――僕が講師をしている京都精華大学に、すがやみつる(※6)先生がいらっしゃるんですが、すがや先生の『こんにちはマイコン』を読んでいたプログラマーは多いんですよ。小学校の高学年くらいに『こんにちはマイコン』を読んで、「BASICってなんじゃ?」と言いながらプログラムを組んで、最終的にゲームプログラマーになった人がたくさんいますからね。やっぱり、マンガが人や社会に与える影響というのは、小さくないんだなぁと思いますね。

※6 すがやみつる
『ゲームセンターあらし』などで知られる漫画家。コンピューターゲームやF1など、ブームが到来する前の題材を扱うことが多い。1982年に発行された『こんにちはマイコン』(小学館)では、まだ一般的ではなかったコンピューターの歴史や仕組みを取り上げ、子ども向けの学習漫画でありながら、幅広い年齢層に愛された。

「ココロの不調」をマンガで伝えていく意味

――近年、「心療内科」「精神科」というワードのハードルが下がったのは、『マンガで分かる心療内科』によるところも大きいと思うのですが、ゆうき先生が精神科医を志すきっかけは何だったんですか?

医学部で6年間学んだ後は、どの分野に進むのも自由なんですね。昔から、心理学や会話など、そういった類のものが好きだったので、心理学に一番近い精神科かなと。

――周りにうつになった方がいらっしゃって、といったきっかけではなかったんですね。

そうですね、そういう深刻な理由ではありませんでした。もう少しライトというか、学生の時に人間関係に悩んだり、恋愛でフラレたりして、「人の気持ちは分からない」ということが実感としてあったので、そこから心理学的な、心の面に興味をもった感じです。

――マンガの中では、Y医師(※ゆうきゆう先生自身と思われるキャラクター)の過去の話も出てきたりしますが……(笑)。

かなり実話も交えつつ、やらせていただいています(笑)。心理学に近い話や、童話がテーマになっている話などを、広く心療内科・精神科のジャンルで扱っていますが、このジャンルじゃなかったら、これだけ多くのエピソードを作れなかったと思います。僕が内科医や外科医、皮膚科医などになっていたら、ここまで広げられなかったと思うので、「拡大解釈できる」という意味では、心療内科・精神科で良かったですね。

――僕自身が、10年ほどうつ病をやっていて、2012年から2013年くらいにようやく脱出できたんです。現在、それをネタに「うつヌケ ~うつトンネルを抜けた人たち~」(※7)というマンガ連載を始めました。脱出に成功した方や、ようやく脱出の糸口が見えた方など、いろんな方にお会いして感じるのは、僕もそうだったのですが、うつの渦中にあると、なかなか現実をストレートに受け止められない、ということです。治療する立場からすると、カウンセリングも含めて、どういったご苦労があるのでしょうか?

確かに、重度になってくると、外からの気遣いや言葉に対して気づけなかったり、理性的な判断ができなくなってしまいます。ですから、まずは相手の話を受け入れ、話を聞くことから始めますね。仕事があるなら休んでいただいたり、ストレスを全体的に減らしていくところから入って、ある程度信頼関係を築いてから、大きなアドバイスをしていきます。

※7 「うつヌケ ~うつトンネルを抜けた人たち~」(外部サイト)
2014年より『文芸カドカワ』(KADOKAWA / 角川書店)、WEBサイト「note」にて連載中のドキュメンタリー漫画。田中圭一自身が、10年間うつ病を患っていたことから、うつ病で苦しむ人たちの手助けになることを願い描きはじめた。自らの経験や、脱出した人たちのエピソードを紹介している。

――先生との信頼関係が出来る前に、どんどん医者を変えてしまう人もいますね。仕事を休むことも正しいんですけど、「休んでください」と言われても、休むのをためらってしまう方って多いと思うんですよね。

できない方もいますね。「休めたら苦労しない」という方もいらっしゃいます。

――僕の場合は、以前の仕事で「職場環境」ではなく「職種」が合わなくてずっと悩んでいたんです。どこかのタイミングで早く転職すれば良かったのに、うつが重度になってくると、「辞めたら次の仕事は二度と見つからないに違いない」と、自己暗示にかかってしまって、辞めることができなかったんですよね。早く辞めて休めば、いくらでも自分のポテンシャルは戻ってくるというのに、そこになかなか思いが至らなかった。重度の方はそういう感覚をお持ちなんじゃないかと思って。ですから、どうやって「休んだほうがいい」と説得するのか、すごく興味があります。

真面目な方や、いろいろなことを一生懸命やりすぎてしまう方ほど、はまりこんで、それ以外考えられなくなってしまう傾向があります。真面目さはいいことではあるんですけど、仕事を辞めづらくなる面もあるので、あまり重度だと問題ですね。その場合、やはり周囲が根気よく言い続けるしかないと思います。
特に「●●しろ」ではなく「●●してくれると嬉しい」と伝えると、より響くとされています。

――僕も「自分はうつ病だ」と認めるまでが長かったです。謎の辛さ、息苦しさがある。毎日が楽しくなくて、「もしかしたら脳の病気なのかもしれない」とか、「男性更年期かもしれない」とか、いろいろ考えて。うつ病だと認めてしまえば早いのに、「まさか自分がうつになんかなるわけがない」と、ずっと思っていました。でも、ある時点でギブアップしたんですよね。「これはうつ病以外にないわ」って。
ところで、患者さんが脱出する「きっかけ」に、共通項のようなものはあるのでしょうか?

いわゆるアルコール依存症などは、「どん底体験」がきっかけになると言われていて、すごく重度な、致命的な失敗をしてしまって、ハッと自分に気づくとか、何か大きな壁……悪いことにぶち当たって初めて、という方が多いですね。うつも、ある程度騙し騙しで会社に行けるうちは病院には来ないんですけど、致命的なミスをしてしまったとか、何か大きな壁にぶつかって気づくことが多いですね。そういう「壁」が、ある意味、脱出のヒントになっている可能性もあります。

――「もうこれ以上はまずい!」となっちゃう時ですね。僕が取材した方の中にも、駅のホームの一番手前に立って、「どうしようどうしよう」と悩み始めてから、「これはおかしい! まさか自分が『電車に飛びこもう』と考えるなんて!」と気づいて、ようやく受診した人もいました。
あとは、薬の問題もありますね。世の中的には、「抗うつ剤は危険」という意見も多いじゃないですか。でも、世の中にはたくさんの心療内科・精神科があって、多くのお医者さんがその薬を患者さんに出していて、治っているという厳然たる事実がある。でも、その事実がミニマムに縮められている感があるなと、取材して初めて気づきました。ゆうき先生の立場としても悩まれているところだと思うんですけど、患者さんがお薬を信じないこともあったりしますか?

薬を飲んでいただいて、合わないという場合は変えるんですけれどね。ただ最近は、ネットでその薬に関してのネガティブな書き込みを信じてしまう方も多いです。実際にはいい効果があるのに、「悪い薬」だと思い込んでいると、自己暗示的に悪くなってしまう方もいらっしゃいますね。

――神経質な方ほど、勝手な思い込みで悪い方に物事を考えちゃいますよね。ネットの情報が有効なケースと、ネットの情報によって薬やお医者さんに不信感を持つケースがあるので、情報はちゃんと自分で取捨選択しないと怖いなと思いましたね。

ネットで調べると、薬のネガティブな面はたくさん出てくるので、逆にポジティブな面も、マンガを通して分かっていただけたらと思っています。
一方で、薬以外の、例えば「夫婦関係で悩んでいてどうしたらいいか分からない」みたいな相談は、薬では解決しないので、カウンセリングを受けていただくことが多いです。

――僕の取材の中でも、カウンセリングの心理療法で出口が見つかったという方が何人かいらっしゃいました。

話を聞いてもらうだけでも、結構安らぐということがあります。ですから、一人暮らしの方ほど、うつになりやすいことがあります。ご家族をはじめ、話せる人が周囲にいる人ほど、悩みも深くなりづらいと思います。

――僕もカウンセリングを受けましたけど、客観的に診てもらうと、自分はノーマルなポジションにいると思っていたのに、「こんな偏りがあるんだな」ということに改めて気づかされたりしました。「自分がどの位置にいるのか」を、気づかせてもらえるのは大きいですね。

「認知のゆがみ」というんですね。「いつも」「みんな」「絶対」という言葉を頻繁に使う人ほど、「認知のゆがみ」が起こりやすいと言われていて、何かうまくいかないと「俺はいつもうまくいかないんだ」とか、誰か1人に嫌われたら「みんなに嫌われているんだ」とか、何か失敗をしたら「自分は絶対失敗をするんだ」とか、とにかく過度に考えてしまい、「自分はダメなんだ」というマイナスに傾きやすいんです。こういう考え方の偏りは、1人じゃ絶対に気づかないので、カウンセラーに話して気づかせてもらうのが重要かなと思いますね。

――うつになってみて、改めていろいろ調べてみると、僕はそうなりやすい性質をいっぱい持っていましたね。1回失敗すると、同じジャンルのことをやるときに「絶対失敗する」と思いこんじゃったり。多くの偶然が重なって失敗しているのにも関わらず、「ジャンルそのものが苦手」と思ってしまうような性質があって。
『マンガで分かる心療内科』でも、うつ病はたびたびテーマになっていますが、やはり反応は大きいですか?

実際にお悩みの方の反応はありますね。ただ、一番反応が大きいのは、EDとかロリコンとか、そういった身近なテーマで……(笑)。

――まあ、EDが身近かどうかは分からないですけど、ロリコンは多そうですね(笑)。

パンツ→パンダ!? “ギャグありき”で作った渾身の1話

――それでは、いよいよ本題に入ります。原作者であるゆうき先生にとって、思い入れのある『マンガでわかる心療内科』の一コマについて聞かせてください。

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