小説・文芸 - 講談社文芸文庫作品一覧

  • 小さな手袋
    5.0
    日々のささやかな移ろいの中で、眼にした草花、小鳥、樹木、そして井伏鱒二、木山捷平、庄野潤三、西条八十、チエホフら親しんだ先輩、知己たちについてのこの上ない鮮やかな素描。端正、精妙な、香り高い文章で綴られた自然と人をめぐる、比類なく優しい独得のユーモアに満ちた秀抜なエッセイ。
  • 砂丘が動くように
    3.0
    海沿いの砂丘のある町にやってきたルポライターの男が、少年に誘われ迷い込んでゆく奇妙な町の夜と昼の光景。超能力を持つ少年と盲目のその姉。女装する美しい若者。夜の闇に異常発生する正体不明の無数の小動物キンチ。刻々に変化して砂防林にも拘らず死滅へと向かう砂丘。現代人の意識の変容を砂丘の物質のイメージに托しつつ未来宇宙への甦りを象徴させる。第22回谷崎潤一郎賞。
  • 平凡 私は懐疑派だ
    5.0
    明治文学の黎明を告げる名作「浮雲」を執筆しながらも人生への懐疑より一時筆を断ち、晩年はロシヤに渡って、病に倒れ、帰途ベンガル湾洋上にて、45歳で客死。終生、、人間いかに生くべきかを自問し、明治の激動期を生き急いだ先覚者四迷の小説、翻訳、評論を1冊に集成。自伝体小説「平凡」、翻訳「あいびき」、「狂人日記」他、評論「私は懐疑派だ」「予が半生の懺悔」「遺言書」等収録。
  • 夫婦善哉
    4.4
    しっかり者の新地の芸者蝶子は若旦那柳吉と駈落して所帯を持ち、甲斐性なしの夫を支えて奮闘する──大阪の庶民の人情を自在な語り口で描いて新進作家の地位を確立した「夫婦善哉」のほか、「放浪」「勧善懲悪」「六白金星」「アド・バルーン」、評論「可能性の文学」。作家生活僅か7年、裏町人生のニュアンスに富んだ諸相を書き続けて急逝した織田作之助の代表作6篇を収録。
  • 日和下駄 一名 東京散策記
    4.0
    「一名 東京散策記」の通り「江戸切図」を持った永井荷風が、思いのまま東京の裏町を歩き、横道に入り市中を散策する。「第一 日和下駄」「第二 淫祠」「第三 樹」「第四 地図」「第五 寺」「第六 水 附 渡船」「第七 路地」「第八 閑地」「第九 崖」「第十 坂」「第十一 夕陽 附 富士眺望」の11の章立てに、周囲を見る荷風の独特の視座が感じられる。消えゆく東京の町を記し、江戸の往時を偲ぶ荷風随筆の名作。
  • 灰色の午後
    3.0
    「何と云われようと、知らないことは知らないんだから、僕はそう云うしかないんですよ」とあくまで居直る惣吉。突然に出現した女の存在に崩解し出した作家夫婦の危機。反動化し戦争に向う困難な時代に、共に立ち向うはずの折江の夫が、逆に女で家を出ようとする。取り乱し、媚び、たじろぐ女としての自己の崩れを見据る作家佐多稲子の文学世界の最高の達成点。
  • 絵合せ
    3.7
    グリム童話が不思議に交叉する丘の上の家。"姉がひとり、弟が二人とその両親"――嫁ぐ日間近な長女を囲み、毎夜、絵合せに興じる5人――日常の一齣一齣を、限りなく深い愛しみの心でつづる、野間文芸賞受賞の名作「絵合せ」。「丘の明り」「尺取虫」「小えびの群れ」など全10篇収録。
  • 懐中時計
    4.3
    大寺の家に、心得顔に1匹の黒と白の猫が出入りする。胸が悪く出歩かぬ妻、2人の娘、まずは平穏な生活。大寺と同じ学校のドイツ語教師、先輩の飲み友達、米村。病身の妻を抱え愚痴1つ言わぬ"偉い"将棋仲間。米村の妻が死に、大寺も妻を失う。日常に死が入り込む微妙な時間を描く「黒と白の猫」、更に精妙飄逸な語りで読売文学賞を受賞した「懐中時計」収録。
  • あの夕陽 牧師館 日野啓三短篇小説集
    3.0
    最初の小説「向う側」から近作「示現」まで日野文学の精髄を示す8篇を収録。 ベトナム戦争中、失踪した記者の行方を追う著者初の小説「向う側」、自らの離婚体験を描いた芥川賞受賞作「あの夕陽」等初期作品から、都市の中のイノセンスを浮上させる〈都市幻想小説〉の系譜、さらには癌体験を契機に、生と死の往還、自然との霊的交感を主題化した「示現」まで8作品を収録。日野啓三の文学的歩みの精髄を1冊に凝縮。
  • 夕べの雲
    4.0
    何もさえぎるものない丘の上の新しい家。主人公はまず"風よけの木"のことを考える。家の団欒を深く静かに支えようとする意志。季節季節の自然との交流を詩情豊に描く、読売文学賞受賞の名作。
  • 白痴 青鬼の褌を洗う女
    4.6
    戯作者の精神を激しく新たに生き直し、俗世の贋の価値観に痛烈な風穴をあける坂口安吾の世界。「堕落論」と通底する「白痴」「青鬼の褌を洗う女」等を収録。奔放不羈な精神と鋭い透視に析出された"肉体"の共存――可能性を探る時代の補助線――感性の贅肉をとる力業。
  • 定家百首 雪月花(抄)
    5.0
    戦後、リアリズム至上の伝統歌壇に激震を起した前衛歌人の中でも歌と評論両輪の異才で光芒を放つカリスマ塚本邦雄。非在の境に虚の美を幻視する塚本は自らの詩的血脈を遡行、心灼かれた唯一の存在として宿敵・藤原定家を見出す。選び抜いた秀歌100首に逐語訳を排した散文詞と評釈を対置、言葉を刃に真剣勝負を挑む「定家百首」に加え、『雪月花』から藤原良経の項を抄録。塚本邦雄の真髄を表す2評論。※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能も使用できません。
  • 悲しいだけ 欣求浄土
    4.7
    緊張した透明度の高い硬質な文体。鋭角的に切り抉られた精神の軌跡。人間の底深い生の根源を鋭く問い続ける藤枝静男の名篇「欣求浄土」「一家団欒」を含む『欣求浄土』、藤枝文学の極北と称賛された感動の名作、野間文芸賞受賞の『悲しいだけ』を併録。
  • 東京の三十年
    -
    明治初年幼くして上州館林から上京、丁稚奉公から始まる苦しい文学修行を経て『蒲団』『田舎教師』などを著し、日本自然主義文学の代表的作家となった著者の文壇回想記。島崎藤村、柳田国男、国木田独歩等との交友、明治から大正への激動する時代の新思潮、生、死を縦横に捉えて、自然主義文学の盛衰、文壇の側面、数十年に亘る〈東京〉の風俗・文化・市街風景の変遷変貌を生き生きと描く。
  • 鳥獣戯話 小説平家
    4.0
    一等史料、正史とやらに隠蔽された人物たちを、周到な論理と、痛快・奔放な推理力を駆使して復権し、常に未来に向けての力強いメッセージとして語る、"本物のアバンギャルド"花田清輝の毎日出版文化賞受賞の『鳥獣戯話』、"平家作者考"とも言うべき異色の秀作『小説平家』を併録。
  • 樹影
    4.0
    被爆地長崎。敗戦後3年目の夏、華僑の女柳慶子と画家麻田晋は出遭った。原爆病に脅かされる2人はいたわり合い、自らの生を確かめるように愛し合い、10数年の苦痛の果てに死んで行った。著者の故郷長崎の、酷く理不尽な痛みを深い怒りと哀惜をこめて強靱に描く。原爆を告発した不朽の名作。野間文芸賞受賞。
  • 桜の森の満開の下
    4.0
    なぜ、それが"物語・歴史"だったのだろうか――。おのれの胸にある磊塊を、全き孤独の奥底で果然と破砕し、みずからがみずから火をおこし、みずからの光を掲げる。人生的・文学的苦闘の中から、凛然として屹立する"大いなる野性"坂口安吾の"物語・歴史小説世界"。
  • オモチャ箱 狂人遺書
    3.0
    世間が顔をしかめる女たちが、安吾の前に頻出する。安吾はそれを"自然"だとし、その文学の中に析出する。安吾が析出した女たちは、40年の時空を超え、今、更に光を放ち、生き出し、動き出す。安吾が"予言者"であることを証明するかのように。敬愛する牧野信一の人と文学を語る秀作「オモチャ箱」、坂口安吾晩年の力作「狂人遺書」ほか8篇を収録。
  • 中原中也
    4.0
    中原の不幸は果して人間という存在の根本的条件に根拠を持っているか。……人間は誰でも中原のように不幸にならなければならないものであるか。……深い友情から発した鋭い洞察力と徹底した実証的探究で、中原中也とは何か、文学とは何かに迫る第1級の評伝。野間文芸賞受賞の『中原中也』から「中原中也伝――揺籃」「朝の歌」「在りし日の歌」を収録。
  • 田紳有楽 空気頭
    4.3
    あくまで私小説に徹し、自己の真実を徹底して表現し、事実の奥底にある非現実の世界にまで探索を深め、人間の内面・外界の全域を含み込む、新境地を拓いた、"私"の求道者・藤枝静男の「私小説」を超えた独自世界。芸術選奨『空気頭』、谷崎賞『田紳有楽』両受賞作を収録。
  • 吹雪物語
    -
    希望の裏打ちのない若者の行為があり得ようか過去・現在・情念・観念の行きかう193X年冬の新潟。鋭利、俊敏な安吾が、全青春を賭けて敢闘した力作――後の"安吾"を生んだ"夢と混沌"の巨大な"坩堝"。同時代の批評に埋没させられていた秀作『吹雪物語』。
  • 風貌 私の美学 土門拳エッセイ選
    -
    写真の鬼による日本論を展開したエッセイ選! 「風貌」「筑豊の子どもたち」「古寺巡礼」等、日本を代表する写真家土門拳は達意の名文家でもある。時代と社会、芸術と文化、写真とは何かを問う土門美学の精髄。※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能も使用できません。
  • 風と光と二十の私と
    4.3
    余は偉大なる落伍者となって歴史のなかによみがえる雪の国新潟の教室の机に彫って上京し、あえて、孤独な自己鍛練の世界に彷徨する、"精神の巨人"坂口安吾の繊細にして豪放、聖にして俗の、ダイナミックな自伝世界。
  • 愛、理性及び勇気 現代日本のエッセイ
    3.0
    女性の自覚、人間性の重視を基に現実を見据え、女性・教育・時事ほか多岐にわたる問題に鋭い批判を展開。「婦人と自尊」「女子と高等教育」「婦人より観たる日本の政治」「女子理性の恢復」「婦人の実行的勇気」など"近代女性史"の始祖的存在ともいえる『みだれ髪』の作者与謝野晶子の、体験を踏まえ内外の見聞に立つ諸論81篇を収録するエッセイ集。
  • 黒髪 別れたる妻に送る手紙
    4.3
    京都の遊女に惹かれて尽し、年季明けには一緒になろうとの夢が、手酷く裏切られる顛末を冷静に書いた「黒髪」。家を出てしまった妻への恋情を連綿と綴る書簡体小説の「別れたる妻に送る手紙」と、日光までも妻の足跡を追い捜し回るその続篇「疑惑」。 明治9年、岡山に生まれ、男の情痴の世界を大胆に描いて、晩年は両眼ともに失明、昭和19年没した破滅型私小説作家の"栄光と哀しみ"。
  • あにいもうと 詩人の別れ
    -
    長い沈潜の後、自らの抒情を封じ、野性の愛を描いて見事に第2の昴揚期を開いた「あにいもうと」(文芸懇話会賞)。深い愛で妻の発病と命の揺らぎを見つめた「死のいざない」。親しい詩人達の友誼と理非を超えたその死を語る「信濃」「詩人の別れ」ほか、「つくしこいしの歌」「庭」「虫寺抄」等。逞しい作家魂とひたむきに追う犀星の美意識が展開する多彩な中期作品群より8篇を収録。
  • 一個 秋その他
    4.0
    野間文芸賞、芸術院賞両賞受賞の短篇集『一個その他』から、世評高い作品集『カレンダーの余白』『青梅雨その他』『雀の卵その他』、そして川端賞受賞の『秋その他』に至る短篇の名手・永井龍男。その晩年の短篇集の中から、「一個」「蜜柑」「杉林そのほか」「冬の日」「青梅雨」「雀の卵」そして名品中の名品「秋」など14篇の短篇の冴えを集成。
  • 測量船
    3.7
    太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。無限のイメージを喚起するわずか二行の詩「雪」他を収録の第1詩集『測量船』。「乳母車」「甃のうへ」「鳥語」「獅子」等、日本古典の詩風と西欧象徴詩風が混然と融合し、魅了する全92篇(「測量船拾遺」を含む)。新詩の可能性を追究する若き詩人・達治が"現代抒情詩"を展開させた画期的詩集。
  • 人称代名詞
    4.0
    養父たちを焦土で奪われた苛烈な体験を忘れることなく、ニセの"安寧・平穏"をきびしく峻拒する野性の魂。名作『火垂るの墓』の原点を、さらに抉りかえす、持続する"挑戦の精神"。野坂昭如の文学を代表する"もう1つの"秀作。
  • 残光のなかで 山田稔作品選
    3.0
    ゾラを偲ぶ旅で出会った老文学者の孤独な姿を描いた「残光のなかで」、パリの街とそこで勁くつましく暮らす人々をやさしく見つめる「メルシー」「シネマ支配人」等、フランス滞在に材を求めた作品群に、記憶のあわいの中でゆらめく生の光景を追った「糺の森」「リサ伯母さん」等、8篇を収録。ユーモアとペーソスの滲む澄明な文体で、ひそやかで端正な世界を創り出した山田稔の精選作品集。
  • 桜島 日の果て 幻化
    4.3
    処女作「風宴」の、青春の無為と高貴さの並存する風景。出世作「桜島」の、極限状況下の青春の精緻な心象風景。そして秀作「日の果て」。「桜島」「日の果て」と照応する毎日出版文化賞受賞の「幻化」。不気味で純粋な"生"の旋律を伝える作家・梅崎春生の、戦後日本の文学を代表する作品群。
  • 告別
    3.6
    告別への予感はその時もう生まれていた筈だ。しかしそれはもっと以前に、もっともっと遠い昔に既に生まれていたのかもしれない――異国で識り合った女・マチルダとの深い愛を諦め妻と2人の娘のいる家庭へ戻った上條慎吾。娘・夏子の自殺、上條の死、二つの死は響き合い世界は暗く展かれてゆく。福永武彦の代表的中篇小説「告別」、「形見分け」を併録。
  • 走れトマホーク
    -
    奇妙でユーモア溢れるアメリカ旅行記「走れトマホーク」。身辺私小説仕立ての「埋まる谷間」「ソウタと犬と」。中国の怪異小説家に材を取る「聊斎私異」など多彩な題材と設定で構成されながら、一貫する微妙な諧調――漂泊者の哀しみ、えたいの知れない空白感。短篇の名手の円熟した手腕が光る読売文学賞受賞作。表題作を含む9篇を収録。
  • 桜 愛と青春と生活
    -
    六尺二十貫、ロス五輪、ボートの日本代表選手・田中英光。太宰治を敬愛すること深く、太宰の逝った翌年、文化の日、三鷹禅林寺の太宰の墓前にて自裁。巨大な体躯をもてあますような傷つきやすい魂を持ち、純粋に、戦中・戦後を生きようとして果てた著者の初期秀作「桜」、また、結婚までの青春の錯綜を描く「愛と青春と生活」。
  • ボロ家の春秋
    4.5
    「桜島」「日の果て」などの戦争小説の秀作をのこした梅崎春生のもう1つの作品系列、市井の日常を扱った作品群の中から、「蜆」「庭の眺め」「黄色い日日」「Sの背中」「ボロ家の春秋」「記憶」「凡人凡語」の計7篇を収録。諷刺、戯画、ユーモアをまじえた筆致で日常の根本をゆさぶる独特の作品世界。
  • 仮装人物
    -
    仮装舞踏会で被せられたサンタクロオスの仮面の髯がマッチを摺るとめらめら燃えあがる、象徴的な小説の冒頭。妻を亡くした、著者を思わせる初老の作家稲村庸三は、"自己陶酔に似た"多情な気質の女、梢葉子の出現に心惹かれ、そして執拗な情痴の世界へとのめり込んでゆく。冷やかに己れのその愛欲体験を凝視する"別の自分"の眼。私小説の極致を示した昭和の名作。第1回菊池寛賞。
  • 白い人 黄色い人
    3.1
    第2次世界大戦中のドイツ占領下のリヨンで、友人の神学生をナチの拷問にゆだねるサディスティックな青年に託して、西洋思想の原罪的宿命、善と悪の対立を追求した「白い人」(芥川賞)汎神論的風土に生きる日本人にとっての、キリスト教の神の意味を問う「黄色い人」の他、「アデンまで」「学生」を収めた遠藤文学の全てのモチーフを包含する初期作品集。
  • 極楽 大祭 皇帝 笙野頼子初期作品集
    -
    群像新人賞「極楽」を含む最初期の作品三篇。地獄絵を描くことを人生の究極の目的とした男の心象を追求した「極楽」、現実からの脱出を願う七歳の子供の話「大祭」、初期の代表作「皇帝」。著者の原点三篇を収録。(講談社文芸文庫)
  • 贋物・父の葬式
    -
    私小説作家にして破綻者の著者。彼の死とともに、純文学の終わりとまで言われた。その作品群は哀愁と飄逸が漂い、また、著者の苛烈な生き方が漂う。(講談社文芸文庫)
  • 花の町/軍歌「戦友」
    4.0
    昭和16年、陸軍徴用員として従軍した著者は翌年2月シンガポールに入り、昭南タイムズ、昭南日本学園等に勤務。市内の一家族の動向を丹念に描いた長閑で滑稽で奇妙に平和な戦時中の異色作「花の町」をはじめ、「軍歌『戦友』」「昭南タイムズ発刊の頃」「シンガポールで見た藤田嗣治」「或る少女の戦時日記」「悪夢」など、この体験に関わる文業を集成、9篇収録。
  • 室町小説集
    -
    三種の神器の一つの“玉”を巡り、吉野川源流の山奥での武家、公家、入道、神官入り乱れての争奪の顛末。南北朝の対立が生んだ吉野・川上村の伝説が、博渉、強靱な思考の虚々実々の息吹で鮮烈に蘇る。転換期の奔流するエネルギーの“魔”を凝視しつづける常に尖鋭なアヴァンギャルド・花田清輝が、“日本のルネッサンス草創期”の“虚実”を「『吉野葛』注」「画人伝」「力婦伝」等の5篇で構築する連作小説。
  • やすらかに今はねむり給え/道
    -
    昭和20年5月から原爆投下の8月9日までの日々――長崎の兵器工場に動員された女学生たちの苛酷な青春。一瞬の光にのまれ、理不尽に消えてしまった〈生〉記録をたずね事実を基に、綿密に綴った被爆体験。谷崎潤一郎賞受賞作「やすらかに今はねむり給え」のほか恩師・友人たちの最期を鮮烈に描いた「道」を収録。鎮魂の思いをこめた林京子の原点。
  • 鷹

    -
    「万人の幸福のために」もっと上等のたばこをつくりたい、そう考えたために国助は専売公社を追われた。ある日、巷の古ぼけた食堂で見知らぬ男に声をかけられ運河のほとりの秘密たばこ工場に雇われる。表題作「鷹」のほか「珊瑚」「鳴神」を収録。透徹する深遠な幻想と独特の文体のリズムに痛烈な世相批判を籠める傑作諷刺小説。
  • もう一つの修羅
    -
    常に現在を超えインターナショナルであり続けること。強靱な思考とダイナミックな論理の滲透力――そして何よりも明晰・華麗なレトリック。忌憚のない鋭い批評ゆえに同時代に敬遠された文学者花田清輝が、時間の流れの雲間から、今再び輝き出す。血と暴力を象徴する“修羅”を転倒し、“もう一つ”の言葉の“修羅”の世界を開示する知的快感溢れる力業!
  • 女の宿
    -
    大阪に住む友人の女流画家とその義妹の家に宿をかりた私。そこに偶然訪れた二人の女客。隣家から響く無遠慮な女の声。さりげない日常の中に、時代の枠に縛られながら慎しく生きる女たちの不幸と哀しみとを刻み込む、女流文学賞受賞作「女の宿」。ほかに名篇「水」、「泥人形」「幸福」など、人々の真摯な生きざまを見事に描き上げた13篇を収録。
  • わが母の記 花の下・月の光・雪の面
    4.0
    80歳の母を祝う花見旅行を背景にその老いを綴る「花の下」、郷里に移り住んだ85歳の母の崩れてゆく日常を描いた「月の光」、89歳の母の死の前後を記す「雪の面」。 枯葉ほどの軽さのはかない肉体、毀れてしまった頭、過去を失い自己の存在を消してゆく老耄の母を直視し、愛情をこめて綴る『わが母の記』三部作。〈老い〉に対峙し〈生〉の本質に迫る名篇。ほかに「墓地とえび芋」を収録。
  • 日本のルネッサンス人
    -
    永徳「洛中洛外図」や光悦“鷹が峯”をめぐる様々な流説等を媒介にして、中世から近代への転形期を美事生き抜いた、日本のルネッサンス人に、転形期特有の“普遍性”を発見し、誰よりも激しく現在を、更に未来を生きる“原点”を追求する花田清輝の豊かな歴史感覚、国際感覚、秀抜なレトリック。若き日の「復興期の精神」を成熟させた批評精神の凱旋!
  • 兵隊宿
    -
    乗船直前、自分の家に泊った3人の出征将校の姿に、未知の大人たちの世界を知り微妙に変わる少年の心の襞。川端康成文学賞受賞「兵隊宿」と、「少年の島」「流線的」「緋鯉」「虚無僧」ほか共通の主人公による9つの短篇群。『往還の記』『式子内親王・永福門院』等、日本の古典を材に優れた評論を持つ著者の『儀式』『鶴』に続く代表的名篇。
  • 雲の影・貧乏の説
    -
    漢籍・仏典・古典籍等に深く博い知識を有し雄渾壮大な想像力と強烈な意志力で異彩を放ち天才をうたわれ明治文壇屈指の名文家蝸牛庵幸田露伴。「少年時代」「雲の影」「釣談」「江戸と江戸文学」「美人論」「簡素治新ということ」「貧乏の説」「淡島寒月氏」「樋口一葉」「明治文壇雑話」など、最後の文語体文学者が記した口語体エッセイ30篇。
  • おまんが紅・接木の台・雪女
    -
    片隅に生きる職人の密かな誇りと覚悟を顕彰する「冬の声」。不作のため娼妓となった女への暖かな眼差し「おまんが紅」。一葉研究史の画期的労作『一葉の日記』の著者和田芳恵の晩年の読売文学賞受賞作「接木の台」、著者の名品中の名品・川端康成賞受賞の短篇「雪女」など代表作14篇を収録。
  • しあわせ/かくてありけり
    -
    母と別れた父親の“果たせぬ夢”であった慶応幼稚舎に入学。しかし母は芸者屋の主人でありみずから左褄もとっていたので、家業や住所は“秘匿”する習性がついていた。幼時・少年時に住んだ土地を訪ねるに始まり、時代を写し自らの来しかたを凝視して読売文学賞を受賞した表題作と短篇の名品と呼ぶべき「しあわせ」を併録した鏤骨の一冊。
  • 偉大なる暗闇――師 岩元禎と弟子たち
    3.0
    夏目漱石が『三四郎』の“偉大なる暗闇”広田先生のモデルとしたとの“伝説”の旧制一高独逸語教授・岩元禎。頑固一徹、情容赦なく落第点をつける徹底した厳格さの古典的理想主義の哲学者。その変り者の生涯と精神の軌跡。近代ヨーロッパ文化と初めて遭遇し苦闘するその姿を漱石など関連の人物たちと対比させた多面的評伝にして明治の精神史。思想探求の書。第13回平林たい子賞受賞。
  • 私の東京地図
    -
    上野池之端清凌亭のころ、丸善時代、芥川龍之介や中野重治らとの出逢い。非合法活動、結婚、敗戦……住み馴染んだ東京の街、戦禍で失われた街。様々な思い出を、人々の善意と真摯な営みの中に描く。戦争責任追及の渦中に身を晒しながら自らの過去を探り、心に自らを問い、自らを確かめるように書き刻んだ名作。
  • 大陸の細道
    -
    M農地開発公社嘱託として満州に赴いた木川正介。喘息と神経痛をかかえ、戦争末期の酷寒の中で、友情と酒を味方に人生の闘いをはじめる。庶民生活の中の「小さくて大きな真実」。“日本の親爺”木山捷平が、暖かく、飄逸味溢れる絶妙の語りくちで、満洲での体験を私小説世界に結晶させた。芸術選奨受賞作。
  • まぼろしの記・虫も樹も
    -
    父祖の地小田原下曽我で、病を克服し、自然と交流する日々。野間文芸賞受賞の名作「まぼろしの記」をはじめとする、尾崎一雄最晩年の代表的中短篇、「春の色」「退職の願い」「朝の焚火」「虫も樹も」「花ぐもり」「梅雨あけ」、さらに、「楠ノ木の箱」計8篇を収録。危うい“生”と理不尽な“死”を、透徹した静寂さの上に浮彫りにした深い感動を呼ぶ名篇。
  • 無縁の生活・人生の一日
    4.3
    日常の深底に澱む不透明で苛酷な世界。人生の悲哀を呑みこんだ苦いユーモアと豊かな情感とに支えられる阿部昭の小説空間。「自転車」「猫」「窓」「散歩」「手紙」「童話」「道」ほかの短篇で繋ぐ『無縁の生活』、「人生の一日」「水のほとりで」「天使がみたもの」などを収める芸術選奨新人賞受賞『人生の一日』。2つの作品集から20篇を収録。
  • 人間・歴史・風土 坂口安吾エッセイ選
    3.0
    自然の風土の中で生きる人間をとおして作られるのが真実の歴史であるとする安吾独得の歴史観を背景に、自ら現地に足を運び、卓抜した洞察力を働かせてものした歴史紀行の中から「天草四郎」「安吾・伊勢神宮にゆく」「飛騨・高山の抹殺」など10篇を収録。司馬遼太郎の「街道をゆく」や松本清張の「古代探究」などの紀行文学のさきがけとなった画期的エッセイ。
  • 彼岸花
    -
    その生涯を通して、優れた才気と誠意で学者、芸術家ほか多彩な人々の信頼を得、驚嘆すべき多くの出会いと豊かな交流を持った名編集者・小林勇。幸田露伴、寺田寅彦、小宮豊隆、安倍能成、野呂栄太郎、名取洋之助、中谷宇吉郎、斎藤茂吉、小泉信三、渋沢敬三等々、一筋に生きた人々の美しさ、勁さ弱さを尊重し、愛惜する。33人の偉大で慕わしい人々への鮮やかなレクイエム。
  • 朝霧・青電車その他
    2.7
    16歳での懸賞小説当選作(「活版屋の話」)。18歳の懸賞脚本当選作(「出産」)。19歳の時の文壇出世作「黒い御飯」。早熟の才能明らかな最初期から、第2回横光賞「朝霧」や、「花火」「青電車」に到る、永井龍男の短篇の精髄。「往来」「胡桃割り」「ある夏まで」など、14篇の秀作群。後年の短篇の冴えを予感する短篇世界!
  • 蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ
    4.0
    ある時は“コケティッシュ”な女、ある時は赤い三年子の金魚。犀星の理想の“女ひと”の結晶・変幻自在の金魚と老作家の会話で構築する艶やかな超現実主義的小説「蜜のあわれ」。凄絶なガン闘病記「われはうたえどもやぶれかぶれ」、自己の終焉をみつめた遺作詩「老いたるえびのうた」等、犀星の多面的文学世界全てを溶融した鮮やかな達成。生涯最高の活動期ともいうべき晩年の名作5篇を収録。
  • 屍の街・半人間
    4.5
    真夏の広島の街が、一瞬の閃光で死の街となる。累々たる屍の山。生きのび、河原で野宿する虚脱した人々。僕死にそうです、と言ってそのまま息絶える少年。原爆投下の瞬間と、街と村の直後の惨状を克明に記録して1度は占領軍により発禁となった幻の長篇「屍の街」。後遺症におびえ、狂気と妄想を孕んだ入院記「半人間」。被爆体験を記した大田洋子の“遺書”というべき代表作2篇。
  • 時間
    4.0
    或る日突然変貌し、異常なまでに猛烈に働き出す男。会社を欠勤し自宅の庭の地中深く穴を掘り始める男。企業の枠を越え、生甲斐を見出そうとする男。高度成長時代に抗して、労働とは何かを問い失われてゆく〈生〉の手応を切実に希求する第1創作集。著者の校訂を経て「花を、我等に」「赤い樹木」を加えた新版・6篇。芸術選奨新人賞受賞。
  • シベリヤ物語
    4.0
    逃亡兵が闇の中で射殺され横たわる「小さな礼拝堂」。凍てつく酷寒の町に一人出されて道路掃除する「掃除人」。シベリヤの捕虜収容所体験をもつ作家の冷静な眼は、己を凝視し、大仰な言挙げとは無縁の視座から出会った人々、兵士、ロシヤの民衆の生活を淡々と物語る。「舞踏会」「ナスンボ」「勲章」「犬殺し」等11篇により、人間の赤裸に生きる始原の姿を綴る現代戦争文学の名著。
  • 七・錯乱の論理・二つの世界
    -
    常に世界に開かれている透徹したリアルな眼。文学・思想の至高を終生求めつづけた強靱な芸術家魂。ブリリアントな論理と秀抜この上ないレトリック。真の前衛・花田清輝の初期小説・「七」「悲劇について」、「復興期の精神」と比肩する初期エッセイ集「錯乱の論理」、「沙漠について」「動物・鉱物・植物」等の名篇を含む「二つの世界」を合わせて収録。
  • 啼く鳥の
    -
    『三匹の蟹』で「群像新人賞」「芥川賞」両賞を受賞し、戦後日本文学史の中でも異例の衝撃的デビューをした大庭みな子の、作家活動20年の頂点を示す、深い人間理解と鋭い人生凝視の力作『啼く鳥の』。野間文芸賞受賞。
  • 仕事部屋
    4.0
    《芸術の友よ。御身に捧ぐるに今この美しい言葉の花束を以てする。是こそ新興芸術派の巨匠・井伏鱒二の心の贈物である》(春陽堂、昭和6年刊『仕事部屋』広告文)。全集等未収録の幻の名作というべき「仕事部屋」を始め、「丹下氏邸」他初刊本の全14篇をそのままに収録。昭和初年代のモダニズム、都市小説の新風俗が描かれて、井伏鱒二の文学に新たな光を当てる真の芸術の友への贈物。
  • 鶏肋集/半生記
    4.0
    子守り男に背負われて見た、花の下での葬式の光景。保養先の鞆ノ津で、初めて海を見た瞬間の驚きと感動。福山中学卒業と、京都の画家橋本関雪への入門志願。早稲田大学中退前後の、文学修業と恋の懊悩。陸軍徴用の地マレー半島で知った苛酷な戦争の実態。明治31年福山に生れ、円熟の作家が心込めて綴った若き日々・故郷肉親への回想の記。
  • 清貧の書/屋根裏の椅子
    4.0
    母と義父とに連れられて幼い頃行商の旅に暮した体験を明るく牧歌的に描き切った短篇「風琴と魚の町」、つましく生活する一組の夫婦の愛情を謳う「清貧の書」、転機を求めてのパリ旅行を素材とした「屋根裏の椅子」、男と女の後姿に、あるが儘の人生を見る客観小説「牡蠣」等。名作『放浪記』を力に、作家はいかに飛躍をとげたか。〈宿命的放浪の作家〉林芙美子の代表的初期短篇7作。
  • 時に佇つ
    -
    昭和初年のプロレタリア文学運動。弾圧下の非合法活動。戦前・戦中・戦後を通し真摯に闘い続ける著者が、激動の時代の暗い淀みを清冽、強靱な“眼”で凝視し、「時」の歪みの底に沈む痛ましくも美しきものを描出する自伝的短篇連作12篇。窪川鶴次郎の死の周辺を綴った「その十一」の章で川端康成文学賞を受賞。
  • 一条の光・天井から降る哀しい音
    4.5
    脳軟化症の妻は“私”を認識できない。――何度目かに「御主人ですよ」と言われたとき、「そうかもしれない」と低いが、はっきりした声でいった。――50年余連れ添った老夫婦の終焉間近い困窮の日常生活。その哀感極まり浄福感充ちる生命の闘いを簡明に描く所謂“命終三部作”ほか、読売文学賞受賞『一条の光』、平林賞『この世に招かれてきた客』など耕治人の清澄の頂点6篇。
  • パルタイ・紅葉狩り 倉橋由美子短篇小説集
    4.2
    前衛党入党から離反までを、不毛な性愛の日々に重ね、内的手法で描いたデビュー作「パルタイ」以降、日本の文学風土から自由な、徹底した虚構を追究。そこからは、イメージの豊饒さと方法意識に貫かれた〈反世界〉が現れる。プロメテウスの罰を再現した「囚人」、白昼夢にたゆとう「夢のなかの街」等、初期作品から怪奇掌篇、寓意譚に至る9篇を収録し、著者の孤高なる文学的歩みをたどる。
  • 舷燈
    5.0
    海軍予備学生に志願し従軍した牧野の青春は敗戦とともに打ち砕かれた。心は萎えていた――身内に暗い苛立ちを棲みつかせ、世間に背を向け頑なに生きる男。短気で身勝手で、壮烈な暴力をふるう夫に戸惑い反撥しながらも、つき従う妻。典型的な夫婦像を描く作品の底に、亡き戦友への鎮魂の情を潜め、根源的な哀しみを鋭く突きつける傑作。
  • ささやかな日本発掘
    3.0
    東京日本橋の地下鉄ストアで見つけた乾山の5枚の中皿。古道具屋で掘り出した光琳の肖像画。浜名湖畔の小川で、食器を洗っていた老婆から譲り受けた1枚の石皿。その近くの村の、農家の庭先にころがっていた平安朝の自然釉壺……。美しいものとの邂逅が、瑞々しく生々と描かれる名随筆26篇。読売文学賞受賞。
  • 暗い流れ
    -
    ハレー彗星が地球に大接近し、湯河原で幸徳秋水が逮捕された明治43(1910)年、著者5歳から書き起こし、関東大震災の翌年、田舎の代用教員を辞し東京に出て地元の有力者の書生となった大正13年20歳を目前にする頃までを、北海道の原野を背景に描く自伝小説。抗し難い性の欲望に衝き動かされた青春の日々を独得の語り口で淡々と綴る傑作長篇。日本文学大賞受賞。
  • 野

    5.0
    著者の故郷を舞台にそこに住む人々とその暮らしを描く。厳しい自然と対峙する強靱な生命力のしたたかさ。優しく哀しくユーモア滲む短篇の名手・三浦哲郎の瑞々しき豊饒の世界。「金色の朝」「がたくり馬車」「沈丁花」ほか〈故郷〉の匂い染み込む作品群16篇。新境地を拓いた著者ならではの短篇集。
  • 横しぐれ
    4.0
    父と、黒川先生とが、あの日道後の茶店で行き会った、酒飲みの乞食坊主は、山頭火だったのではなかろうか。横しぐれ、たった1つのその言葉に感嘆して、不意に雨中に出て行ったその男を追跡しているうちに、父の、家族の、「わたし」の、思いがけない過去の姿が立ち現れてくる。小説的趣向を存分にこらした名篇「横しぐれ」ほか、丸谷才一独特の世界を展開した短篇3作を収録。
  • 雪の下の蟹/男たちの円居
    5.0
    谷崎賞受賞作『槿』をはじめ、70年代以後の現代文学を先導する、古井由吉の、既にして大いなる才幹を予告する初期秀作群、「雪の下の蟹」「子供たちの道」「男たちの円居」を収録。
  • 五勺の酒・萩のもんかきや
    3.0
    たった5勺の酒に酔う老教師の口舌の裡に、天皇制を批判する勢力の既にして硬直し始めた在り方を、痛罵し、昭和20年代の良心としての存在を確立した名篇「五勺の酒」をはじめ、萩の街の中で、見出した戦争の傷跡を鮮烈に描き出した「萩のもんかきや」など12の名篇。中野重治の詩魂と精神の結晶とも呼ぶべき中短篇集。
  • 斗南先生・南島譚
    3.0
    漢学の家に育ち、幼時から深い素養を身につけ、該博細緻な知識の世界を生きて非凡な才を評価されながら夭折した中島敦。古代中国や南洋に材をとる作品のほか、苦悩の青春を綴る身辺小説など珠玉の傑作短篇集。伯父を描いた大学時代の創作「斗南先生」を始め、「過去帳」(「かめれおん日記」「狼疾記」)、「古譚」(「狐憑」「木乃伊」「山月記」「文字禍」)、「南島譚」、「環礁」を収録。
  • 光の領分
    4.0
    夫との別居に始まり、離婚に至る若い女と稚い娘の1年間。寄りつかない夫、男との性の夢、娘の不調、出会い頭の情事。夫のいない若い女親のゆれ動き、融け出すような不安を、“短篇連作”という新しい創作上の方法を精妙に駆使し、第1回野間文芸新人賞を受賞した津島佑子の初期代表作。
  • 供述調書 佐木隆三作品集
    -
    ジャンケンで決めるという奇抜な発想で、企業の首切りを痛烈に諷刺した「ジャンケンポン協定」(新日本文学賞)、ダム建設に反対し一人で国家権力と闘った男がモデルの実録的小説「大将とわたし」、著者の沖縄生活が生んだ基地の街の男女の生態を描く「シャワー・ルーム」等、作家の軌跡の節々の作品に、犯罪を主題に現代の若者の精神の崩れを衝く「供述調書」を加えた代表作5篇。
  • 木枯の酒倉から・風博士
    3.0
    はたから見ると何をしているのか、と疑われるような青春。内部では、いかに壁を破れるか、と深く呻吟している青春。人生的に、文学的に必要以上の重荷を敢えて背負い、全人生的、全文学的な苦吟の果て、初期坂口安吾は誕生する。苦吟の果ての哄笑、ファルス。「木枯の酒倉から」「風博士」「黒谷村」「竹藪の家」等、初期安吾を代表する秀作を収録。
  • 木山捷平全詩集
    4.0
    心やさしく、なつかしい、暖かな世界・木山捷平詩。常に、弱きものたち、めぐまれることすくないものたちへ、心からの手をさしのべ、暖かな声援を送る、市井の人、木山捷平の第1詩集『野』、第2詩集『メクラとチンバ』、第3詩集『木山捷平詩集』と、生前未刊行の詩、短歌、俳句を、木山みさを夫人が心をこめて編んだ“人生の歌”全詩集!
  • 鳳仙花
    3.5
    小田原の魚屋の息子に生まれたが、文学への夢が捨てきれず家督を弟に譲って上京するも、小説家として一本立ち出来ずに郷里に逃げ帰る。そんな前半生と売れない老残の作家の娼婦との交遊が、地べたを這うような低い視点からの一種の諧謔味をおびた川崎文学をつくりだす。本書は「鳳仙花」「乾いた河」などの代表作のほかに中山義秀との交友を描いた「忍び草」など7篇収録。
  • 埴輪の馬
    4.0
    滑稽というより、生活の事実を淡々と書きながら、思わず笑ってしまうといった味わいで、文学の師である井伏鱒二や友人たちとの交友を描く。表題作「埴輪の馬」では、埴輪様式の土器の馬を購入のため、師井伏鱒二や友人と出かける。地方都市の駅には先方のお迎えの車が、それも消防自動車が来ていて、それに乗車することの困惑。他10篇収録。
  • 哀歌
    4.3
    肉体の恐怖の前には精神など全く意味を失ってしまう。臆病に生き臆病に埋もれて、自分がどんなに卑怯なのか、どんなに弱いのか、たっぷり承知している――弱者。弱者を凝視して聖書とキリストの意味を追究し、「沈黙」への展開を示唆した注目すべき短篇集。人間の深層によどむ(哀しみの歌)を表題に据え、「その前日」「四十歳の男」「大部屋」「雲仙」など12篇を収める。
  • 或る一人の女の話/刺す
    -
    他の介入を許さず気儘に生きた〈放蕩無頼〉の人生。雪の上で夥しい血を吐き、狂い死した父は、娘に〈真っとう〉に生きろと教えた。しかし娘は、父の道をなぞるように更に鮮烈に生きた。70を越した女が、この世に生れ過した不思議を恬淡と語りかける「或る一人の女の話」。「刺す」を併録。自伝的傑作2篇。
  • 淀川にちかい町から
    -
    清冽な抒情と透明な詩心を持つ新進女流詩人として出発。昭和61年『ミモザの林を』で野間文芸新人賞、次いで平成4年評伝『画家小出楢重の肖像』で平林たい子賞受賞。人生の機微を深く鮮やかに彫り彩る独自の散文世界を構築、『淀川にちかい町から』で芸術選奨文部大臣賞・紫式部文学賞両賞受賞。こころ暖かく、こころ鎮まる、爽やかな散文の小説世界。
  • 澪標・落日の光景
    -
    亡き妻への愛を吐露して哀切限りない「夢幻泡影」。読売文学賞受賞の名著、著者のヰ夕・セクスアリス「澪標」。夫婦ともにガン発病、迫り来る死とたたかう闘病生活の不思議な明るさと静寂感充ちる「落日の光景」「日を愛しむ」。愛する者の死。人生の不可思議。末期の眼。死へ向う透明な生。外村文学の鮮やかな達成4篇。
  • 白兎・苦いお茶・無門庵
    4.0
    敵の戦車に人間爆弾となって廃兵が飛び込む訓練を繰り返す。そんな理不尽きわまる敗けいくさ。夫たちが徴兵され、著者がいみじくも名付けた半後家たちとの置き去りにされた生活。“一年が百年にも感じられる”流謫の生活の中でも、市井に生き続ける“在野”の精神を飄々たる詩魂で支え、正に“人生の歌”を歌った木山捷平、中期・晩年の代表的短篇。
  • 白い屋形船・ブロンズの首
    -
    脳溢血で、右半身、下半身不随、言語障害に遭いながら、不撓不屈の文学への執念で歩んだ私小説の大道。読売文学賞「白い屋形船」、川端賞「ブロンズの首」ほか、懐かしく優しい、肉親・知友、そして“ふるさと”の風景。故郷の四万十川のように、人知らずとも、汚れず流れる文学への愛が、それのみが創造した美事な“清流”。
  • 大いなる日 司令の休暇
    5.0
    父をこよなく愛した幼、少年の日々。敗戦により海軍軍人であった父の失職の帰還。失意と家庭の不幸を耐えた父のストイシズム。人間の魂の高貴を平明、粉飾なき文体で描く秀作群。惜しまれて急逝した不朽の文学者魂・阿部昭の世界。
  • 吉本隆明初期詩集
    4.4
    東京下町の少年時代、山形米沢の高工時代――「巡礼歌」「エリアンの手記と詩」など習作期の詩作と第1詩集「固有時との対話」第2詩集「転位のための十篇」を収める。敗戦後の混乱した社会に同化できない精神の違和と葛藤を示し、彷徨する自己の生存をかけた高い緊張度により支えられる自選初期詩集54篇。
  • 蝸牛庵訪問記
    4.7
    蝸牛庵・幸田露伴との若き日の出会いから、その凄絶、荘厳な終焉の日までの“日常”の比類なき記録。該博な知識、不羈の精神、巨大な文学空間を展開する“文豪”露伴の、慈父のごとき姿をあざやかに捉える、小林勇のエッセイ文学の名著『蝸牛庵訪問記』。
  • むらぎも
    3.0
    金沢の旧制高校から東京帝大に入学した片口安吉の〈新人会〉での活動を核に、豊潤な感性で描く精神の軌跡。時代の終焉を告げる天皇の死。合同印刷ストライキ。激動の予感を孕みながら展かれてゆくプロレタリア運動。流されるままに流れる〈心〉の襞の光と影。『梨の花』『歌のわかれ』に続く自伝的長篇小説。毎日出版文化賞受賞。
  • サハリンへの旅
    5.0
    自己形成の原点――サハリンへの2週間の“帰郷”の実現。祖母、義姉、親族、同胞達との交歓。言葉なき言葉――“陸封”34年を隔て異郷の地に再会した離散一族、民族の“それぞれの立場”を抱擁し、アイデンティティ同一性を真摯に追求しつづける李恢成積年の願望――パルチャ(運命)の旅!

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  • 海を感じる時・水平線上にて
    3.3
    《海は暗く深い女たちの血にみちている。私は身体の一部として海を感じている。……》 年上の男子生徒とのセックスの体験を鋭利な感覚で捉えて、身体の芯が震える程の鮮烈な感銘を与えた秀作。作家の出発を告げた群像新人賞受賞「海を感じる時」と、大学生となった、その後の性意識と体験を描き深めた野間文芸新人賞「水平線上にて」。力作2篇収録。
  • 惜櫟荘主人
    -
    「低くくらし、高く思う」を精神の支柱に据え、処女出版・漱石の『こゝろ』以来、本作りの全てに最高を求め、先見の明と強い信念で多くの優れた全集・叢書等を上梓、出版事業に激しく情熱を燃やした人間味豊かな岩波茂雄。17歳で入店以来“岩波文化”の黄金時代を共に築き上げ、互いに最も信頼しつつ、強烈な個性をぶつけあった著者が肌身を通して語る、追慕の情溢れる偉大な出版人の記録。
  • 完訳グリム童話集1
    -
    19世紀初め、20代の若い学者の兄弟が、ドイツ語圏に伝わるメルヒェンを広く蒐集してまとめた『グリム童話集』は、半世紀近い歳月、兄弟自身の手で改版が重ねられ、1857年、最後の第7版が刊行された。それは、国境を越え、時代を超え、今も生き続ける、他に類をみない新しい文芸の誕生であった。池田香代子の生命感溢れる翻訳による完訳決定版。第1巻には、「灰まみれ」「赤ずきん」「白雪姫」等、56話収録。〈全3巻〉
  • 持続する志 現代日本のエッセイ
    3.8
    「被爆者の自己救済行動」「沖縄の戦後世代」他ヒロシマ、沖縄、核基地、憲法についての諸エッセイと、「安部公房案内」「中野重治の『梨の花』の文章」等戦後文学への豊かな考察を示す作家・作品論。全55篇。30代に入った著者は、己れの存在の根元に突きささる鋭い痛みの感覚をもって状況への誠実な発言を続ける。1960年代後半、『厳粛な綱渡り』後の第2エッセイ集。

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