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著者の故郷を舞台にそこに住む人々とその暮らしを描く。厳しい自然と対峙する強靱な生命力のしたたかさ。優しく哀しくユーモア滲む短篇の名手・三浦哲郎の瑞々しき豊饒の世界。「金色の朝」「がたくり馬車」「沈丁花」ほか〈故郷〉の匂い染み込む作品群16篇。新境地を拓いた著者ならではの短篇集。
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Posted by ブクログ
野山で生きる人々の生老病死を瑞々しい風景描写と、細やかな心理描写で写し取った短編集。 著者が自分の著作の中で最も好きな作品というだけあって、どの作品も伸び伸びとした筆さばきで書かれているように思える。 特に「楕円形の故郷」は、東京が舞台にも関わらず、盆栽という意外な装置を使って都会と故郷の「野」を曲...続きを読む芸的に繋いだ、かなり意欲的な作品に思えた。 平易な言葉を使いながら、目を洗われるような美しい情景描写が連続する「泉」は、主人公の妊婦の所作が、著者の出生時に母親が死産を願って取った行動と対称を成しており、ただ綺麗な物語というだけでなく、深くも読めてしまう。 けれど本書で一番衝撃的だったのは、私がこの著者に特別に惹かれる理由を、解説者の秋山駿氏がすっきりと説明してくれたこと。 処女作『忍ぶ川』の題名通り、三浦哲郎氏は忍び通した作家人生を歩んだという。 敗戦に伴い、大江健三郎に代表される新時代の作家たちは、戦前の日本が持っていた文化や思想を否定し、戦後日本に流入した新思想や新理論に基づいた文章表現を採用した。 一方で本著者は、日本人のあらゆる局面を描くためには、敗戦以前の私小説家の文章で事足りるとし、それを実践する。 それが、万葉から脈々と受け継がれてきた日本の言語の血統を守ることになっている。 日本を信じ、日本に随(つ)いた、その姿勢に惹かれざるを得ないのだろうな、と。
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