1926年からその死まで、岩波書店の編集者として幸田露伴に親しく交流した著者が、露伴によって語られたことばを記している本です。
幸田文のエッセイでは、掃除のしかたをはじめ生活のなかの心がけについて教え諭す厳父のイメージが強い露伴ですが、著者との気の置けない会話のなかでは博識に裏づけられたユーモアを
...続きを読む示しており、また、ときにわがままになったり気弱なところを見せたりと、思いがけない露伴の側面が記されています。
露伴の娘の文が、「墨子」を「牧師」とカン違いした若いころのエピソードも紹介されており、いまでは日本語の名手として名高い文も著者にかかれば形無しです。その一方で、露伴の死が近づいてくるなかで切迫した状況に置かれている文をはじめ周囲の人びとの心遣いなども、多少当事者から離れた視点から記されています。