あらすじ
大宝石商・玉村家周辺に次々と届く殺人予告。第一の犠牲者は玉村善太郎の弟。そして令嬢・妙子と長男・一郎も狙われるが間一髪で助かった。しかし、次男・二郎の恋人は公衆の面前で猟奇的に惨殺されてしまう。一方、湖畔のホテルで休暇を楽しんでいた明智は、波越警部に呼ばれ戻った東京駅で誘拐されたが、文代の機転により、なんとか脱出。玉村家への復讐に燃える殺人鬼を追う――。屈指の傑作長編。
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Posted by ブクログ
明智小五郎の事件を事件発生順に並べたシリーズ。『魔術師』は1928年11月5日から1929年4月半ばの出来事です。
明智小五郎30代後半で、住居は御茶ノ水のアパートにお引越ししました。
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明智小五郎は素人探偵といっても、探偵の看板を出して生活をしているわけではない。つまり、依頼を受けているわけではなく、好きで事件捜査をして解決が楽しいのであり、犯人逮捕は興味ない(今までも言ってたことではある)。
…でもそれならどうやって生計立ててるの!?パトロンが数人いるのか!?(←それは金田一耕助)
今度の事件は『蜘蛛男』事件から引き続く。この事件にさすがに疲れた明智小五郎は、湖畔のホテルで休養することにした。ここで知り合ったのが、宝石商の娘で女学校出たばかりの玉村妙子お嬢さん。
その妙子さんが東京に帰ったあとに探偵の依頼がきた。妙子さんの叔父の福田氏の締め切った寝室に奇妙な書き置きが届くというのだ。そして明智小五郎と旧知の浪越警部も、実際に事件が起きていないのだからまずは明智くんに相談ということを推奨したのだ。
しかし数日後、恐ろしくも不可解な事件が起きて…。
あれ?依頼を受けた明智小五郎はどうした?なんと東京に帰った途端に犯人一味に誘拐されていたのだ!これには江戸川乱歩も「事件も起きる前のことで、明智小五郎に抜かりがあったわけではない」と読者に念押し・笑
明智小五郎を捕まえたのは「魔術師」と呼ばれる玉村家に恨みを持つ男だ。数名の手下と、自分の娘の文代を使って、玉村家への恐ろしい復讐を企んでいるのだ。だが捉えられた明智小五郎を助けたのが、その犯人・魔術師の娘の文代さんだった。
この後魔術師は、玉村家に対して世間に見せつけるような残虐な犯罪を繰り返す。彼が魔術師と呼ばれるのは、不気味な予告状を出してきて、密室へは出入り自在で、観客の前で残虐ショーをやってみせ、死体は衆人の前に見せつけて、そして明智小五郎に追い詰められても逃げ延びてみせる。
ここでまた江戸川乱歩が明智小五郎を庇う記述を・笑。
探偵小説作家って大変ですね。派手な事件を起こすためには犯人に活躍させなければいけないけれど、それだと探偵がお間抜けになってしまう。そこで江戸川乱歩はちょこちょこと「一般市民に大人気の素人探偵」「今回は彼の落ち度ではない」「明るく快活な性質」などとフォロー入れてきてます・笑
そう、明智小五郎って健全な雰囲気なんですよ。すると江戸川乱歩の淫靡で装飾された残虐性、血みどろ、SM行為、怨念などはちょっと合わないところが(^_^;)
しかも今回は、自称「40歳近い」明智小五郎に恋の予感があります、それも二人!?
一人は静養地で出会った玉村妙子さん。明智小五郎は一人で「相手はご令嬢だ。自分が手に届くはずがないだろう。しっかりしろよ、自分。」などと煩悶したりする・笑
それが事件が始まってからは悪党一味の文代さんに恋心を感じちゃう。しかも恋心を自覚したのが惨殺死体の前なんです(^_^;)
文代さんも、父なりの恨みがあるとは言えあまりの残酷な行為に耐えられなくなり、明智小五郎を頼りとする。明智小五郎、またしても「しっかりしろよ自分!相手は悪者の一人娘だぞ。」などと自戒する・笑
ついに魔術師は玉村家への恨みの内容を知らせ全面攻撃を仕掛けてきて、文代さんは父・魔術師の元を飛び出してくる。
魔術師対明智小五郎も最終局面を向かえ、さらなる意外な事実が判明するのだった。
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私はこれ読んだ記憶があります。あとがきで大槻ケンヂが書いているように、ポプラ社江戸川乱歩シリーズでは「大人向け小説を子供向けにリライトした」ものがあるようなのでそれで読んだのだろう。私の記憶ではここまで血みどろだはなかったんだけどなあ…むしろ子供はそういう描写気にならないのかも。
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「魔術師」単独が収録されている。
江戸川乱歩作品には珍しく明智小五郎の恋情が絡んでいるが本筋には大して関係なく、「書き慣れぬなら無理せねば良いのに」と少々脳裏をよぎったが、事実そこまで描写があるわけでもなく、気にかかるほどのものではない。
さて内容であるが、特に前半の描写などは「あれ、これホラーだっけ?」と思うほど生々しく恐ろしい。終盤に至るまで読者をゾッとさせるような事件が立て続けに起きる。
とはいえ、地下室に人を生き埋めにするシーンはエドガー・ア・ランポーの「黒猫」を参考にしたのかと思うほどのものである。
最終的に真犯人が捕まった後もページが残っていることに驚き、更にどんでん返しが待っているのかとも思ったが、最後は真犯人が捕まっても明らかになっていなかった過去の謎を明確にする最後の尻尾であり、なるほどと膝を打つことになった。
江戸川乱歩作品は謎解きの要素もある広義のミステリー小説だと認識しているが、本作はその中でも一層、怪奇小説に描写を近づけたミステリーであるように思う。
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明智小五郎の活躍を事件発生順に並べた興味深いコレクションの第5巻。
後に登場する明智の宿敵・怪人二十面相の原型とも受け取れる魔術師と明智の手に汗握る闘いが巧みなプロットにより描かれており、非常に面白い。
時折、作中で著者が名調子により読者に語り掛けるという一昔前のテレビドラマのような手法も使われており、明智が二人の妙齢の女性に心を奪われるというオトナの描写と併せて、まるで映画かテレビドラマのような仕立てになっている。
この作品は大昔にポプラ社の『江戸川乱歩・少年探偵シリーズ』で読んだ記憶があり、内容を断片的には覚えていたが、こんなオトナ向けの作品であったかなと疑問に思った。しかし、大槻ケンジの解説で疑問は氷解。ポプラ社の『江戸川乱歩・少年探偵シリーズ』に収録されているのはオトナ向けの作品を子供向けにリライトした作品であったようだ。非常に納得する解説。
一つ疑問だったのは、54ページの明智と文子の会話。会話に登場する日付の関係が前後しており、意味不明。誤植だろうか。
今回も巻末に平山雄一の『明智小五郎年代記』が収録されており、作品の背景、登場の風俗や世相を知ることが出来る。
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ストーリーの面白さはもちろんだけど、明智小五郎と文代さんの恋が良い!!
明智が生涯で初めて恋を感じた瞬間を描いているこの表紙が特に大好き!
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よく練られたストーリー。
今はあまり見られなくなった最後の最後の種明かしで明かされる設定。
ストーリー上、途中いないのが寂しいけど、
明智さんが早くから登場してくれて嬉しい。笑
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MRCのミステリ・ジョッキーの課題本とのことで明智小五郎事件簿シリーズから魔術師を読んだ。
やっぱり乱歩は面白いんだよなぁ。最高。芝居がかった地の文が面白い。巻末の平山さんの年代記はすごいわかりやすいし大槻ケンヂの解説は死ぬほど笑った。シリーズ読破しなきゃ!
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蜘蛛男の直ぐ後から始まる復讐鬼対名探偵のスリラー活劇。ちと時代がかっているが、却って味わい深い。犯人の娘とのロマンスとか明智小五郎を只の推理マシーンにしなかったのが実に良い。
Posted by ブクログ
シリーズの5巻
珍しく明智小五郎が物語の最初から登場
また、今までの明智小五郎は個性の乏しい、単なる完全無欠のヒーローの代名詞のような非人間的な存在だったが、本書では明智小五郎が人間として描写されていて面白く読めた。
子供向け番組のナレーションのような説明・読者への語りかけが多く、洗練されていないというか野暮ったさを感じるが、映画にもまだ音声がついていない時代だったことも思えば、このような説明が流行していたのかもしれないと思った。
平山雄一さんの明智小五郎年代記だけでなく、大槻ケンヂの解説も、作品のリアルタイムと読者にとってのリアルタイムが対比になっていて、これも面白かった。
正直、前巻でシリーズに期待外れを感じていたが、もう少し楽しめそうな気もしてきた。