【感想・ネタバレ】無間人形 新宿鮫4~新装版~のレビュー

あらすじ

手軽でお洒落。若者たちの間で流行っている薬「アイスキャンディ」の正体は覚せい剤だった。密売ルートを追う鮫島(さめじま)は、藤野(ふじの)組の角(すみ)を炙り出す。さらに麻薬取締官の塔下(とうげ)から、地方財閥・香川(かがわ)家の関わりを知らされる。薬の独占を狙う角、香川昇・進兄弟の野望……。薬の利権を巡る争いは、鮫島の恋人・晶(しょう)まで巻き込んだ。鮫島は晶を救えるか!? 直木賞受賞の感動巨編!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

長年下積みを積んできた大沢在昌に直木賞という栄誉を届けたのが、この新宿鮫シリーズの4作目にあたる無限人形だ。決して本作だけではないが直木賞の歴史を見てみると、シリーズものの中で獲得をしたのは極めて少数であり、本作はまさにその価値があると認められて受賞したことは間違いがない。

直木賞は、時にベテラン作家への功労賞的な意味合いがあったりもするのだが、本作を読んでみると、まさに一級のエンターテインメントに仕上がっていて、直木賞にふさわしい作品だとも思える。とはいえ、この作品で取れるのであれば、毒猿で取ってもよかったのではないかという気もしないではない。

本作は覚醒剤犯罪というこれまでとは少し色合いの違う作品テーマを取り上げているものの、実際には入れ子構造になった「見えない格差」をその主題としている
物語の舞台となる地方都市では、香川財閥と呼ばれる財閥があらゆる産業を実質的に牛耳っており、そこに生まれた者は特権的な扱いを受けることを当然として生まれ育つことができる。しかし、その香川財閥の中でも、本家と文家には明確な違いがあり、そこには格差が存在する。

さらに、そのように地方では絶大な力を持っている香川財閥の人間でも、東京に来ればただの一個人として生きる必要がある、あるいは生きることができる。ここには東京という巨大な都市と地方の格差が明確に存在している。著者がそのような構造を明確に意識していたことは、劇中で、「東京がお前に何をしてくれたって言うんだよ」といったセリフが登場することからも明らかだ。

その上で本作を傑作としているのは、この格差の中「下が上を倒す」という構図が繰り返されることだ。例えば、当初は「東京のヤクザ」である角を下に見ていた香川進は、ある瞬間からその角によって窮地に追い込まれることになる。
ところが、自分が圧倒的に優位に立ったと思っていた角は、覚醒剤によっておかしくなった進むにあっさりと殺されてしまう。暴力という自分の得意とする領域で圧倒的な強い立場にあると思った瞬間に、安物のカッターナイフ一つで命を落としてしまうのだ。

またその香川家の本拠では、自他ともに地域を抑えていると認めていた分家の長である昇が、あっさりとチンピラ上がりの平瀬によって命の危険に陥ってしまう。日常の生活であれば、彼らから見れば文字通りゴミのような存在である。チンピラによって正座をさせられ、命の危機に陥るといった状況にまで追い込まれる。この瞬間に何かしらのカタルシスを感じる読者も多いだろう。とはいえ、そのカタルシスを感じるにはあまりにも平瀬はゲスな人間なのだが。

そして、そのような格差や下克上といった現世の関係から最も遠いところにいるのが、このシリーズの主人公の鮫島という人間だ。キャリア警察官という肩書を持ちながらも、自らの信念に準じてその道を外れ、警察としては型破りのロック歌手と付き合っている。昇進を望むこともなく、見返りを求めるわけでもなく、ただ自らが信じる道、あるいは自らが好きであると公言する警察官としての仕事を続けるためだけに、彼は今回も犯罪を追い、やがて巨大な悪を追い詰めることとなる。

本作を読むと、もともとはハードボイルドとして設定された本作の主人公の鮫島は、より羊飼いのようなキャラクターに近づいてきたと感じる。新宿という欲望を煮詰めたような街に住みながらも、彼は驚くほど欲望から遠いところにいる。いや、正確に言えば、彼は警察官になりたいというただ一つの欲望のためだけに、全てを犠牲にして新宿で生きているのだ。むしろ、そういった人間を受け入れることができるのが、カオスの塊である新宿という街であると言えるのかもしれない。

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2026年08月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

3.8
新宿鮫シリーズ第四弾。
その手軽さから、若者の間に静かに浸透して行く新種のシャブ・キャンディ。
その販売ルートに、今までに無い違和感を感じた鮫島は、売人の容疑者を泳がせネタ元を辿ろうとする。
一方、ライブツアーに出た晶は、昔のバンド仲間・耕二の元に身を寄せるが、何とその土地はキャンディのネタ元・香川兄弟の一族が警察機構から政治家までを支配する帝国だった。
鮫島が最も恐れていていた晶に伸びる魔の手。
麻薬取締官との激しい争いも絡み絶対絶命の状況に。

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2017年12月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

若者たちの間で流行っている薬「アイスキャンディ」。
錠剤を口にすると、すっと頭が冷静になり、感覚が鋭敏になる。そして何よりも安い。

今までになく手軽でお洒落な覚せい剤の出どころを追う鮫島。
そして鮫島とぶつかる麻薬取締官事務所。
取引の主導権を巡って争う「アイスキャンディ」の卸元と、東京の暴力団。
地方の財閥一族の愛憎。
そして鮫島の恋人・晶の運命。

いくつもの物語が平行して動き出す。
徐々に終焉に向かって収束していく後半は、とにかく続きが気になって、本を置くことができない。

妨害されようと、時間が足りなかろうと、とにかく一歩一歩確実に犯人たちを追いつめていく鮫島。
しかし事態は一歩一歩では追い付けないくらいの急転直下を迎えるのである。何度も。
それでもあきらめない鮫島の姿を読むのは、とてもスリリングで楽しい。
物語の構成も素晴らしいと思う。

ただ、地方財閥の香川一族が…。
こわいもの知らずのやんちゃな次男という仮面の下は、自分に甘く自己中心的な進。
頭が切れて冷静な長男という仮面の下は、若い頃の心の痛手が消えることなく、屈折した愛情を抱えたまま破滅していく昇。

いやこれ、20代ならまだしも、いい大人がこのメンタルはダメだろう。
しかも、思い通りにことを進められるだけの権力を持っているときたら、それは社会の迷惑でしかない。
癒えることのない心の傷を抱えているからと言って、不特定多数の若者に覚せい剤を売ったり、他人の人生を踏みにじったり、家名に泥を塗ったり、何も知らない家族を醜聞に巻きこんだりする権利はない。
自分だけが悲劇の主人公のつもりなのか、いい年をして。

本気で読んでいたから本気で腹が立つ、彼らに。
メインストーリーがいいだけに余計。
それほどに面白かったということなのだけど。
香川一族、嫌いだな。破滅するなら一人でして、って感じ。

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2016年08月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ふと思ったのだけど、この人のお話は、犯罪を扱っているものの、すごく多面的というか、いろんな関係者目線でのストーリーが丁寧に描写されてて、王道な勧善懲悪の物語ではあっても、犯罪者側にも犯罪者側の人生や感情があって、捜査に関わる人たちにも、巻き添えを食らう人たちにもいろいろあって、っていうのが感じられるのがいいですね。それが、小説のドラマ性を上げてるのかな。

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2022年05月09日

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