【感想・ネタバレ】屋根裏の散歩者 江戸川乱歩ベストセレクション(3)のレビュー

あらすじ

世の中のすべてに興味を失った男の唯一の楽しみは、下宿の屋根裏から、他人の醜態をのぞき見ることだった。そんなある日、屋根裏でふと恐ろしい完全犯罪を思いつく。その結末は…!? ほかに「暗黒星」収録。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 この作品は人間の心理の奥底に潜む異常性や狂気を見事に描きだした作品であると思います。物語の舞台は大正時代の東京。とある下宿で展開します。登場人物である郷田三郎は社会的に見たら成功者であり、一見平凡な青年です。しかし、実は「退屈」という感情に苛まれ刺激のない日々に苦しんでいるのでした。そんな彼が見つけた「屋根裏を散歩する」という奇妙な趣味はやがて犯罪へと繋がっていく・・というのが大まかなあらすじです。
 この作品の印象的な部分は郷田の心理描写であると思いました。彼は決して金銭欲や復讐心で犯罪を犯すのではなく、「退屈を紛らわすため」というとても単純な動機で行動をします。普通のミステリーにはないその異常性が読者に不気味さを与えるとともに、一種の共感さえも与えているのではないでしょうか。現代に生きる私たちは日常のルーティンや社会の規則に縛られたうえで生活をしています。そんな中で自分の存在意義に疑問を感じたり、刺激を求めて逸脱したくなる気持ちは誰もは1度は抱いたことがあるでしょう。郷田の行動はそんな感情の極端なかたちなのだと考えます。
 また、江戸川乱歩独特の閉塞感のある舞台設定や、屋根裏という非現実的でありながら妙に現実味のある空間の描写も読者を物語に引き込む大きな要素であると感じました。屋根裏を歩く音や天井裏から部屋を覗く視線など、目に見えない恐怖や不安が細かく描かれ、サスペンスホラーの醍醐味を味わうことができます。
 物語の終盤では名探偵明智小五郎によって事件の全貌が明らかにされます。明智の冷静かつ理知的な推理は、郷田の内面の闇との対比としてとても効果的であると感じました。
 「屋根裏の散歩者」は単なるミステリーではなく、人間の精神の孤独や退屈という感情がどのように狂気に代わっていくかを描いた深い心理小説であると思います。この作品を読んだ方にはぜひ江戸川乱歩の「蜘蛛男」も読んでほしいです。この作品とは違った狂気で描かれています。

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2025年07月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 この作品は、1925年(大正14年)に江戸川乱歩によって書かれた短編小説である。江戸川乱歩は探偵物というジャンルを確立させた日本の小説家である。
 主人公は25歳の男性、名前を郷田三郎。何をしても興味が持てず、仕事もせず、これといった趣味もないまま過ごしていた。しかし、素人探偵の明智小五郎との出会いを経て、彼は次第に「犯罪」というものにのめり込んでいってしまう。尾行をしたり、脅迫じみた暗号文を書いてみたりと一人、犯罪っぽいことをして楽しんでいた。が、彼は危険が伴わないこれらの行為に飽きてきていた。そんな中、彼が住んでいる部屋の押し入れから、建物の天井に入れることに気付いてしまう。そこからしばらくは、屋根裏から住民の暮らしぶりを見て楽しんでいた郷田三郎だったが、飽き性の彼はそれにすらすぐ飽きてしまった。

屋根裏から住民を覗き見ることに飽きた彼がとった行動とは何だったのか。読んでいてゾクゾク感がたまらない作品です。是非読んでみてください。

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2019年10月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

職場の同期から借りた。屋根裏の散歩者と暗黒星の2編からなる。名探偵明智小五郎が難事件を解決していく。屋根裏の散歩者は犯人目線で書かれていたから最初からトリックも分かっていたけれど暗黒星は誰が犯人か最後まで分からなかった。事件の前兆で映写器からスクリーンに映された写真の目や口の部分が真っ黒に焼け焦げたり、壁に懸けられた写真の目から赤い絵の具が垂れてくるところがあまりにホラーだった。依頼者の一郎がよくしゃべるな…とは思ったけれど怪我させられてるし犯人が現れた時その場にいたから犯人じゃないよな…と思ってたらまさかの自傷と替え玉だった。実は家族の誰とも血が繋がってなかったオチには驚いたし本当に復讐のためだけに生まれてきた邪悪な人間だった。父親に水責めで姉を殺すのを見せてから父親も水責めで殺すって発想は狂気過ぎる。この2作が1冊にまとめられたのは依頼者が犯人だったってのが共通点だからなのかな。

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2023年08月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

解説者山田正紀氏。

最近気づいたのだが、文章にちょいちょい作家の感情?が入るのが変わっているな、と。
『あぁ、まさかそんな恐ろしい事が』みたいな。
そしてその表現に引きずられる自分は単純だ。。

今回はサイコホラーというよりは人間的であるからこそ拗らせたような感じでした。

でも暗黒星の犯人は映像だともっと怖そう。。

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2015年06月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

表題作は別の乱歩集で既読でしたが、「暗黒星」がすごく気になったので購入。

「屋根裏の散歩者」は、屋根裏という身近で未知な空間が舞台。その暗闇と主人公の暗く底知れない欲望が相乗効果でいいかんじ。

「暗黒星」は……荒川の扱いが微妙すぎていまいち。冒頭文に魅力を感じたけど、ミステリーとしてはどうなんだろう。犯人の目星はだいたいすぐにつくのだけど、ただ、一つだけ納得できない場面があって、あー明智さんはどうやって覆すのかなーと思いきや、荒川……。
いくらなんでもそんなことしないでしょ、荒川……。

荒川の行動原理がイマイチということで、星よっつ。

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2012年03月07日

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