【感想・ネタバレ】白い巨塔(一)のレビュー

あらすじ

国立大学の医学部第一外科助教授・財前五郎。華麗なるメスさばきでマスコミでも脚光を浴びる彼は、当然、次期教授に納まるものと自他ともに認めていた。しかし現教授の東は、財前の傲慢な性格を嫌悪し、他大学からの招聘を画策。産婦人科医院を営み医師会の役員でもある岳父の財力とOB会の後押しを受けた財前は、あらゆる術策をもって熾烈な教授選に勝ち抜こうとするが…。教授選挙に絡む利権をめぐり蠢く人間模様を描いた医療サスペンスの傑作!

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こんなに長編を読んだのは初めて

正直教養の為に読んだみたいなとこある。教授選では応援してたちょっとダークな財前、第一審では利己的で嫌いになった。最後癌で苦しむ第二審ではやっぱり好きになって最後解剖されるとこは泣けた。文章難しすぎたけど今後の教養の為にも読んでよかったと思う。

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2025年05月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この作品は、主人公の財前は悪役として、財前を告発した患者さん家族の味方となった里見は正義として描かれているが、実際には、財前はむしろ被害者であって、本当の悪人は里見なのではないか。

物語の序盤、財前は、手術した患者さんの肺転移を見逃す。まわりはそれに気がつきつつ、誰もそれを財前に進言できないままに状態は悪化する。里見もまた、財前に「これは肺転移だ」と進言したはずだけれど、結局生検は行われることなく、患者さんは亡くなってしまう。

患者さんの経過において、もちろん責任者は主治医であった財前だけれど、患者さんは結局亡くなってしまったとはいえ、訴訟を回避できた可能性は無数にあった。肺転移した胃癌に対して、昭和40年代の医療でできることはほとんど無かっただろうから。
ところが『正義の人』である里見があの場所にいたことが、そうした可能性を閉ざしてしまった。

「対等な関係」にある誰かが「正義の人」であったとき、その組織で致命的な失敗が起きる確率は飛躍的に高まってしまう。

ぶっちゃけ、「白い巨塔」の里見という人は、一緒に働くにはけっこう厳しい。

何か問題を発見すると、里見は「これは問題だ。君はこうするべきだ」といったやりかたで問題を指摘する。プレゼンテーションのありかたとして、これは微妙に挑発的で、「売り言葉に買い言葉」的な状況に陥りやすい。

里見の助言は、それを受け入れる側に「ただ負ける」のではなく「大きく負ける」ことを強要する。兵隊の位が異なっているのなら、特に相手が明らかな上役ならば、こうした言い回しは全く問題にならないけれど、対等な関係という、組織においてバランスを保つのが難しい状況において、「大きく負ける」ことを素直に呑むのは難しい。

同じ状況に置いて、里見が常にヘラヘラとした、いっそ財前に「ちゃん」付けで呼びかけるような態度の人物であったら、白い巨塔のような問題は発生しなかった。
財前に見逃しがあって、里見がそれを見つけたとして、「財前、お願いだからこの検査をやってくれないか?」とか言って、財前の肩にでも手をかけながら頭下げていれば、必要な検査が提出されて、問題はそのまま収拾したのではないかと思う。

火が嫌いな人と、火を消すのが好きな人とがいて、同じ「消す」ことを目指しても、問題に対する態度はずいぶん異なる。
火が嫌いな人は真っ先に火を消すけれど、火を消すのが好きな人は、結果的に火を大きくする方向に舵を切ることが多い。
火消しを公言する人は、火が大きくなるまで待ってしまったり、案外放火が好きでもあって、こういう人と一緒にやるのはリスクが高い。
この手のタイプは、公務員、それも学校教員に多い気がする。

大ざっぱに「クズ」と「正義」がいるとして、患者さんの状態悪化を見逃した財前は人間のクズであったのかもしれないけれど、里見も同じようなタイプのクズなら、白い巨塔の物語は成立しない。

「クズ」と「正義」には使いどころがある。対等な関係を作らざるを得ない場所に「クズ」と「正義」を配置すると、たいていろくでもないことになる。対等に組んだ「クズ」同士はうまくいく。同じことを「正義」でやると殺しあいになる。
「正義の人」は、上司と部下しかいない、対等が存在しないところに置いて、上下を「クズ」で挟むと馬車馬のように働いて、組織全体の生産性が向上する。

白い巨塔の物語というのは、財前の失敗ではなく人事の失敗であって、同僚に恵まれなかった財前の物語であったのだと思う。

#読書記録 #白い巨塔 #正義の人 #公務員 #組織内人事

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2021年12月30日

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