加藤尚武のレビュー一覧
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[非熱狂の道標]時代とともに変化する性質とともに発展してきた戦争に関する倫理や思想。その流れを踏まえた上で、21世紀の国際社会が戦争について考えるために土台とすべき共通見解は何かを紡いだ一冊です。著者は、生命・環境等の倫理学を専門とし、ヘーゲルに関する研究で和辻哲郎賞も受賞されている加藤尚武。
戦争をめぐる思想史にも光を当てながら、なんとも重いテーマを前にして縦横無尽に思想を広げていく加藤氏の筆は圧巻。それだけに、執筆に当たっての時間が限られた中で、過去の作品の加筆・修正版を多く取り入れたためか、切り貼り的なつくりになってしまっているのは残念でした。
本書の中で特に興味深かったのは、東 -
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内容は「最大多数の最大幸福」を原則とする功利主義に批判的検討を加えつつその代案を探っていくというもの。
章ごとに「10人の命を救うために1人の人を殺すことは許されるか」などのテーマが設定されており読みやすい。ただ、必ずしもテーマの問いに答えが与えられるわけではない。判断は読者に半分委ねられている。
「囚人のジレンマ」が示唆するのは民主主義の欠陥である(個々人の欲望に従った選択は本人にも他人にも不利益をもたらす可能性がある)と指摘しているのは興味深い。が、本当にそうだろうか。囚人のジレンマの仮定に登場する囚人たちは互いにコミュニケーションを禁止されている。しかし現実社会の民衆は自由にコミュニケ -
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ネタバレ[ 内容 ]
「成人で判断能力のある者は、自分の身体と生命の質について、他人に危険を加えないかぎり、自己決定の権利を持つ」というのが、従来のバイオエシックス(生命倫理学)の原則であった。
しかし、私の遺体についての決定権を持つのは私なのか家族なのか?
クローン人間の製造はなぜ規制されなければならないのか?
等々、最新技術が提起する様々な課題は、もはや、従来の自由主義・個人主義では判断ができない。
本書では、これらの問題の複雑な論点を整理し、バイオエシックスの新たな枠組みを提示する。
[ 目次 ]
序章 バイオエシックスとは何か
第1章 脳死と臓器移植
第2章 性と生殖の倫理
第3章 クローン -
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倫理学は、人が社会的存在として生きていく上での様々な問題につて、それをどのような規範に基づいて考え、解決していくかを考究する学問である。本書は現代社会にある多くの道徳的な問題やジレンマについて、多くの例を挙げながら解説している。
本書の基になっているのは放送大学の教材として著されたものである。15章それぞれの内容は現代社会の倫理構造の解明を試みており、さらに最も現代的な問題を扱う生命倫理学、環境倫理学についても考察されている。
第1章「人を助けるために嘘をつくことは許されるか」では、倫理主義であるカントの「誠実の義務は絶対的である」とういう主張を紹介し、我々には常に決断、比較、選好の機会があ -
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一読して、「引用とそれに対する是非が多く、筆者の独自の意見が見えにくい」と感じたが、遡ってみれば反戦メールや巻末の詩など、筆者の立場を明らかにする要素は多かった。単に印象に残りにくかったというだけであろうか。
序盤で小林よしのりの著作が引用されているとのことで、筆者の態度、引いては本書全体の信頼性について警戒したが、いざ読んでみると小林よしのりの著述に対して強く批判的な立場を取っており安心できた。
戦争(/武力行使)容認派、無差別主義、憲法九条反対派……などなどの立場の者からは批判を受けるであろうが、実在する憲章条約、憲法、既存の反戦論や憲法解釈·意見など、人文学的知の集積や現行の法に立脚して -
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マイケル・サンデル『ハーバード白熱教室』以前の倫理哲学の入門書。
カント・・・義務論「汝の信条が普遍的法則となることを、その信条を通して汝が同時に意欲できる、という信条に従ってのみ行為せよ」
ベンサム/ミル・・・功利主義「個人の効用を総て足し合わせたものを最大化することを重視するものであり、総和主義。「最大多数の最大幸福」」
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1 人を助けるために嘘をつくことは許されるか
2 10人の命を救うために1人の人を殺すことは許されるか
3 10人のエイズ患者に対して特効薬が1人分しかない時、誰に渡すか
4 エゴイズムに基づく行為はすべて道徳に反するか -
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タイトルになっている脳死・クローン・遺伝子治療について、生命倫理学の基本的な考え方を解説している本です。
具体的な問題から倫理学的な原則がどのように抽出されるのかを手際よく説明しており、「バイオエシックスの練習問題」というサブタイトルが示すように、読者にとって啓発的な内容になっているように思います。
脳死・クローン・遺伝子治療といったテーマは、いずれも非常に具体的で私たちの実感に訴えかけてくるような問題であるだけに、小松美彦や森岡正博らのラディカルな生命倫理学批判の議論に感心させられてしまうことが多いように思います。本書には、それらの論者のような派手さはないものの、生命倫理学の基本的な考え -
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政治哲学、生命倫理学、環境倫理学、そして戦争倫理学など、さまざまな分野にわたる著者の文章を収録しています。
リベラリズムとリバタリアニズムの対立を整理した諸論考や、生命倫理学と環境倫理学の基本的な問題設定を簡潔にまとめた論考などは、著者自身の主張を強く押し出すことは控えられており、問題の局面を読者に理解させることに重点を置いているように感じました。
また、戦争倫理学を扱った論考では、センチメンタリズムに流れやすい自称「平和主義」や、危機を煽り立てる自称「リアリズム」をともにしりぞけ、戦争と平和に関する倫理学的な考察が可能だということを示しています。 -
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「10人の命を救うために1人の人を殺すことは許されるか」
良識のある人は、この第2章の命題の議論の土俵に乗るべきではありません。
サバイバル・ロッタリーという、この章で紹介されているたとえ話に違和感を感じるなら、その人は健全な精神のもち主だといえるでしょう。
サバイバル・ロッタリーとは、空想実験上の架空の国で、この国では生存率を最大にすることが正義となります。
すなわち、生存率の増大と死亡率の減少が善であり、死亡率の増大と生存率の減少が悪ということです。
この国では、最大多数の最大生存を実現するために、くじで選ばれた一人の健康な人間から臓器を摘出し、十人の患者に移植することが認められていま -
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現代の倫理学についての入門書。以下、理解の及ぶ範囲で要約を試みてみる。
倫理的決定とは「AよりもBの方がよい」という判断を下すことである。
現代倫理の主流はJ.S.ミル『自由論』に見られる功利主義的自由主義である。
自由主義の5つの条件として、
①判断能力のある大人なら
②自分の生命、身体、財産などあらゆる【自分のもの】に関して
③他人に危害を及ぼさない限り
④たとえその決定が当人にとって不利益なことでも
⑤自己決定の権限を持つ
が挙げられる。
ただここから、実際上の様々な問題も提起されることになる。
①子ども、呆けた老人、障がい者にどこまで判断能力を認めるか
②どこまでが自分のものか。例え