中川裕のレビュー一覧
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よく知られた本であると思う。最近になって改訂が施されたということではあるが。これまで読んだことが無かったのだが、切っ掛けが在って手に取ることとなった。出逢うことが叶って善かったと思える一冊だった。
アイヌは、神話や英雄譚というような内容の様々な物語を「口承」で伝え続けて来た。誰かが謡うように語る物語を、より若い世代の人が聴いて覚えて再現するようになって行く。更に若い世代、もっと若い世代へとそれらは引き継がれる。
こうした何世代にも亘って受け継がれた物語を、可能な形で記録し、その内容を紹介するという取組が為された経過が在った。アイヌの口承文芸に関する研究を手掛けた金田一京助が知里幸恵と出会い、知里幸恵がその口承について「記録し、その内容を紹介」という仕事を手掛けた。知里幸恵は心臓が弱く、残念ながら若くして逝去してしまったが、原稿は残って逝去後に初めての本が出ている。やがて文庫本が知られるようになって版を重ね、今般は改訂版が登場したのだという。
本書を手に取ると、些か戸惑う。馴染んでいる文庫本というモノではあるのだが、通常の「縦書き」ではなく「横書き」なので、頁を開こうとする時に「何時もと勝手が違う…」という開き方になる。
アイヌの口承は「アイヌ語」によって謡うように語られる。が、「アイヌ語」では定まった文字を使うのでもない。そこで内容を記録する際に「ローマ字」を用いた。左の頁にはアルファベットのローマ字で横書きにアイヌ語を綴り、右の頁には日本語で内容を綴る。アイヌの口承が「アイヌ語と日本語の対訳」で「読物」になったのだ。
本書を手にしてみようと思い立ったのは『カムイのうた』という映画を観たことが切っ掛けだった。
映画『カムイのうた』は、知里幸恵をモデルとするヒロインの物語である。なかなかに優秀な生徒でありながら、差別やいじめを受けるようなことも少なくなかったヒロインは、そういう人生に倦んでしまっている。だが、伯母が謡う口承を聴こうとやって来た研究者に心動かされる。何世紀にも亘って豊かな文学を考証で伝えて来て、それが残ったのは凄いことなのだと研究者は言い、そういうことが出来たアイヌは素晴らしいとも言った。そして研究者は主人公にノートを贈った。ノートは見開きで2ページを使い、アイヌ語と日本語を並べて口承を綴った。研究者は高く評価し得る立派な仕事だと称えた。そしてその励ましと支援とを受け、主人公は東京へ出てそれを本として出版する原稿を仕上げようとする。
映画の物語はそういう感じであった。映画では、森の神という雰囲気のフクロウの画が印象的に使われていたが、知里幸恵が手掛けた本の物語にもフクロウは登場している。
敢えて「口承」と面倒な言い方をしてしまったが、所謂「ユーカラ」である。「ユーカラ」には幾つかの系譜が在り、何種類かの呼び方も在るのだそうだ。そこで、ここまで敢えて「口承」としてみた。
知里幸恵が手掛けた「神謡」は「カムイユカル」、「オイナ」と呼ばれる系譜の口承であるようだ。神々の世界に在る神が人間の世界に現れる際には鳥獣の姿を借りるとされていて、その神の化身である鳥獣が一人称で語る内容というのが「神謡」である。祭儀の際に演じられる舞踊の謡いに起源が在るらしい。
こういうような詳しい、背景知識の解説も本書には在る。本書は知里幸恵が手掛けた部分と、詳しい解説の部分とで成る一冊で、解説の部分は「普通の本」だが、横書きである。
「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」という『知里幸惠 アイヌ神謡集』で最も知られているかもしれない節だが、これはフクロウの神の歌だそうだ。アイヌ文化を紹介するとして大きなフクロウの木彫の像が飾られている例―札幌に在る―を承知しているが、悠然と森の中に在るフクロウは凄く大きな存在感が在って、神の化身と考えられたのであろう。多分、そういう訳で偶々観た映画でもフクロウの画を使ったのだと思う。
知里幸惠は1903(明治36)年生まれで1922(大正11)年に他界している。或る意味で「早世の天才」と言えるであろう。ローマ字で綴ったアイヌ語については、彼女以降の時代の手本というようになっているという。日本語に関しても、美しい語句、判り易い語句に配意し、「踏み込んだ翻訳」で内容が伝わり易いようにと工夫も重ねられているようだ。19歳でこれだけ立派なモノを綴ることが出来る人というのも、然程多くはないと見受けられる。本書には本の原稿制作を勧めた金田一京助の文章も収録されている。国語学、言語学の研究者たる彼が、彼女の能力を絶賛している。
極めて私的なことを敢えて加える。他界し―享年97歳だったと記憶する―て久しい父方の祖母が、確か1903(明治36)年頃の生まれだった。知里幸恵、または『カムイのうた』のヒロインと同年代な訳だ。そんなことを想うと、何か本書が凄く身近に感じられる。
本書の解説でも話題にされているが、明治30年代半ば頃に生れたというような人達は、最初に覚える言葉、母語がアイヌ語という「最後の世代?」かもしれないという。知里幸恵は喪われる自分達の言葉を遺すべく、心臓が弱かったという情況を顧みないかのように、文字どおり懸命に本書の原稿を綴った訳だ。
なかなかに興味深い本の出逢うことが出来て善かった。 -
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アイヌ文化を大衆エンターテイメントとして昇華し、幅広い世界にその深みと敬虔さを伝えた漫画作品の解説本。アイヌという世界がどのように成立し、身の回りのあらゆるものに対してカムイとしての認知や、虹や蛇を恐れる世界観、倭人からの侵略により一方的に不利な立場に置かれたその歴史に至るまで、文化的な視点から解説している。ゴールデンカムイがいかに精緻な研究や調査に基づいて描かれ、それをエンタメで見事なまでに魅力的な作品としている大作であるかを、節々と感じた。何となく興味があるけれど、深く学ぶにはハードルが高いし、そのきっかけもない、そんな身の回りにある“端の文化世界”に切り込み、人口に膾炙する力が漫画にはあるんだということを再認識した。
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Posted by ブクログ
最初に著者より、「ゴールデンカムイ」で読み解くアイヌ文化ではなく、アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」とされているが、まさにそのとおり。
「ゴールデンカムイ」の内容に沿いながらアイヌ文化の解説がされており、『漫画のあの表現はフィクション』という説明もちゃんとあり、しっかり訂正もされている箇所もある。「ゴールデンカムイ」が史実とフィクションで上手く織られている作品であることうかがえる。
「ゴールデンカムイ」を読み終わってから読むよりも、ある程度読み進めてから、漫画と並行に読んで、『あっ、これはそういうことなのか❗️』と発見するのも面白いかもしれない。
ぐっとアイヌ文化が身近に感じられ、今まで触れてこなかったのが、惜しいようなこれから楽しみのような感覚。
北海道にいって、北海道という土地とアイヌ文化に触れに行きたくなった。 -
Posted by ブクログ
ゴールデンカムイでアイヌのことを知りたくなった私。
著者もアイヌ文化を知る初級編と言っているとおり、難しさはなく、スラスラ読める。
正しいアイヌ文化やアイヌ語を監修の立場からどのようにフィクションの漫画で伝えるか、などの裏側も知ることができて、ゴールデンカムイファンはさらに作品を楽しめるのではないか。
漫画で「ヒンナ」という言葉は「おいしい」という場面で使われているので、
「ヒンナ」=「おいしい」と思っていたけど、本来は「感謝する」という意味。
食事意外でも、何かちょっとしたものをもらったときなどに、「ありがとう」「どうもどうも」などの意味で使われるようです。食事以外にも使う感謝の言葉なんですね。この本を読んでいなかったら、「おいしい」という意味だと思っていました。
アシリパがいつも着ている「アットゥシ」についても書かれており、あのアットゥシは○○の伏線だったんだ、と驚かされました。
フィクションとリアリティの絶妙なバランスで描かれているゴールデンカムイをより好きになる本。 -
Posted by ブクログ
ネタバレゴールデンカムイのアイヌ文化の監修をしている、そして『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』の著者でもある方のアイヌ物語の仕組みやカムイの世界、アイヌ語の仕組みやアイヌ文学の歴史などを詳しく説明してくれる。
しかしカムイのお話、読んでて面白いがゴールデンカムイで紹介されてたのよりも突拍子のないのが多いな…
同じ話だとすぐ飽きるから設定をどんどん盛っていってエライことになったという流れだったのでは…
ちっちゃいクとかちっちゃいプとか、どういう発音になるのだろう… ○○プと発音するときにプだけ言わない感じかなー、と想像して発音してたが、本の最後の最後にちゃんと書いてあった。
「カッパ、カット、カッコという単語を、カッ(パ)、カッ(ト)、カッ(コ)というふうに、パ、ト、コをいわずにカッでとめてしまうと、それぞれカプ、カッ、カクで表される発音になる。」 -
購入済み
原作ファンなら一度は読むべき!
アイヌ文化で読みとくゴールデンカムイ,というタイトルなだけあり作中のシーンを引用しながらアイヌ文化の説明が聞けます。どのシーンか何巻の何ページかと記述してあるので是非原作片手に読んで貰えば楽しさ百倍間違いなしです!
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購入済み
ためになる、面白い、わかりやすい。
絶妙なバランスの本です。
文章も平易なのでゴールデンカムイの知識があればするする読めると思います。
特に、アイヌ語の単語は難しくて覚えにくいのが大変なところですが
一度説明済みでも再登場時には補足が入っていたりするので
調べ直したり読み飛ばしてしまったりということがなく、ストレスフリーでした。
ゴールデンカムイの引用が軸になっているので
「このキャラがこんな行動をしているのは、こんな考え/気持ちからだった」
というような、気づかずに読んでいた!という発見がたくさんありました。
同時にそこまで細かく書かれていたのか、と改めてゴールデンカムイの情報量の多さにも驚きます。
アイヌ文化に関する本としては導入書という位置づけのようですが、
この本だけでも、ただでさえ厚みのあるゴールデンカムイの世界観が
一層分厚くなるような気がします。
ゴールデンカムイをより一層楽しみたい人・アイヌ文化や北海道の歴史に興味がある人に
是非読んでみてほしい一冊です。
ただし、ゴールデンカムイ未読の人はネタバレ満載なのでご注意を…。
※183話(単行本19巻収録)までのネタバレが含まれるそうです -
購入済み
ファンなら絶対読んで欲しい
ああそういうことだったのか、という納得感が得られます。
文調も読みやすく、何かに偏った書き方をされていませんので不快感はありません。
とても勉強になりました。 -
Posted by ブクログ
ゴールデンカムイのアイヌ語監修者である中川先生が、アイヌの歴史や文化、言語を通じてゴールデンカムイの登場人物の言動や描写について掘り下げるという面白い企画。まだ分かっていないことも多いという中ではあるものの、ほとんど知識のなかったアイヌ社会について解像度が上がった。
特に印象的だったのは、全ての自然や物は「カムイ」であり、彼らの住む国から姿形を変えて人間の世界を訪れて人間に価値をもたらしてくれる。人間はその提供された価値に感謝し余すことなく享受することで、その往来は次世代以降にわたるまで繰り返されるというナラティブ。
普段何気なく発している「いただきます」という言葉や、食べ物の味に対する感想1つに対して、アイヌ族ではない自分としても持つべき態度という観点で思い直す機会になった。 -
Posted by ブクログ
絵から学ぶアイヌ文化というタイトル通り、絵(ゴールデンカムイ原作漫画からの引用)が死ぬほど多く、とてもわかりやすい。
どのくらい絵が多いかというと、
美容院でこの本を読んでいた時に、担当美容師さんに挿絵の多い本だと思われるとなんとなく恥ずかしいから、早く文字だけのページになってくれないかな。
と思って急いで読み進めたのに、めくってもめくってもゴールデンカムイの引用が入っているので、読むスピードがめちゃくちゃ早くなった。
くらい、絵が多い。
おかげでとてもわかりやすかった。
樺太の少数民族に対しての解像度も上がった。
どうしても日本は単一民族という考えに陥りがちだし、
他国に関しても同じように思ってしまうものだけれど、
ロシアなんて、世界的に見ても有数の多民族国家だ。
民族が違うと、言葉も違う、という当たり前のことも認識できていなかった。
日本で無理矢理例えると、隣の県の人たちと話す言語が違う。
ということだ。
陸続きですぐ近くに住んでいて、生活様式も似ているのに、だ。
なかなか理解が難しい。
漫画でずっと気になっていたアシリパの住むコタンの場所に言及していたのも良かった。私としては中川先生の説を推したい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレアイヌにとって言葉が大切なものであり、丁寧に扱っていることがわかった。ゴールデンカムイでも登場したように、子どもにわざと汚い名前をつけることで悪いカムイから守ったり、亡くなった人と同じ名前をつけないようにして、悪いカムイが同名の人と間違えて災いを運ばないようにする習慣があるらしい。また、争いが起きたときはチャランケという弁舌で解決するらしい。チャランケとは、片方が意見を述べて、それが終わったらもう片方が意見を述べるということを繰り返す。話すことがなくなったり、片方が喋っている間に話を遮ったり、怒って立ち上がったりしたら負けなどのルールがあり、非常に平和的な解決策だと思った。これからは戦争の代わりにチャランケで揉め事を解決していって欲しい笑