1998年、タイ北部を21日間かけて1周旅行したゲッツ板谷が現地で出会った「もの・こと・ひと」を記したタイ紀行。とにかく途方もない暑さが思考を麻痺させ、眼前の風景を異化させるさまは圧巻。これぞタイの暑さという感じがよく出ている。意識レベルが70〜80%になっていると想像して本書を読むとだんぜん醍醐味
...続きを読むが出てくるだろう。時あたかも国際投機筋による通貨危機寸前のバブル期。しかしそれは都市部だけの話でそんなことはまったく関係のないタイ田舎の田園風景と怪しくも愛すべき人間たちがてんこ盛りで登場する。しかし著者のゲッツ板谷、コーディネーター役の鴨志田穣(タイ在住の戦場カメラマンにしてさし絵の西原理恵子のダンナ)も含め、取材側の怪しさも十分タイに拮抗する強度をもっている。これは生半な旅行記ではなくあくまでアウェイの地を転戦する戦闘集団の「戦い」の記録でもあるのだ。読後、がつんと殴られたような鈍い衝撃があった。ここで言う「戦い」というのはタイの風習の理不尽さに怒り狂いながらも受け入れたり、安宿に巣食うダニや蚤などの小動物に身体をゆだねてみることだったり、オカマや少数民族などマイノリティーへ透明の視線を投げかけることであったり、とにかく思考停止せず「ありのまま」感じたことを記録するという態度の意味においてである。表面では馬鹿っぽいけど実はタイの国民性を知るヒントとなるとても深い内容となっている。