著者の遠藤さんは1941年に中国で生まれ、日本敗戦後には中国国民党が支配する長春に対する中国共産党による包囲作戦によって引き起こされた、死者10数万人から30万人とも見られるすさまじい飢餓地獄から生還した過去を持つ人物です。
#尚、この時の経験は、1983年に執筆した「不条理のかなた」を始めとする様々な著書に書かれています。
この様に中国と切ろうとしても切ることが出来ない結びつきをもつ遠藤さんですが、その人脈には中国政府の要職についている人物もいるとの事。
本書は、この様な遠藤さんの手による次の中国を率いる指導者(中国共産党中央委員会政治局常務委員)グループ、通称チャイナ・ナイン(現在常務委員は9人いるのでナインとなっているが、常務委員の人数は9人に限定されている訳ではない)について解説した本であり、類書は他に無いのではないかと思う程ユニークな一冊です。
構成は、序章と終章を含めて全7章からなり、それぞれ
序章:権力の構図
権力闘争を含めた中国の現状を簡潔に解説
1章:中国を動かす9人の男たち
中国で最も強い権力を握る、9人の中国共産党中央委員会政治局常務委員たちについて、その経歴や著者が相手に抱いた印象などを解説
2章:次の中国を動かす9人の男たち
次期中国共産党中央委員会政治局常務委員に選ばれるであろう人々や上海閥(江沢民を筆頭とする改革解放路線派。汚職がすさまじいと言われている)、団派(叩き上げの高学歴集団。共産主義の価値観を重視)、太子党(共産党の高級幹部の子弟)と言ったチャイナ・ナインの派閥を解説。
加えてこれら派閥間の駆け引きも紹介
3章:文化体制改革
秩序、価値観が崩壊した文化大革命後、改革解放路線へと直進した中国。
この経緯により、中国社会には薬物、性の売買が入り乱れる等、モラル崩壊が社会問題となっている。
この現状と中国政府の対策及び中国のインターネット世論を構成する若者たちなどに関して解説。
4章:政治体制改革
インターネットなどにより無視できない力を持ち始めた世論。これと折り合いをつけ様とする中国政府の取り組みを解説。
5章:対日、対外戦略
胡錦濤政権の対日戦略とそれに対する中国国民の強い反発や北朝鮮、アメリカ、アフリカ諸国との関係について解説
終章:未完の革命
この書評の冒頭でも紹介した著者の壮絶な過去や中国に対する思いについて
著者個人の思い入れや想像なども多く記載されている本なので、淡々と事実関係を解説したものではなく、勢いよく書かれている文章に何となく「未だに読んだことが無いが、水滸伝ってこの様な感じなのだろうか?」と言った印象を抱いてしまう一冊でした。
加えて、例えば、中国共産党の指導下での他政党の活動を紹介する記述では(一応、限定的である点は断りは入れてはいますが)中国国内の民主的な側面として強調されている等、「その気になればいつでも潰せるのに民主的と言えるのだろうか?」と言った感じの疑問を感じる箇所もあり、正直、内容の客観性に関してはどの程度確保されているかは(少なくとも私には)分かりません。
とは言え、上記しましたが、本書のユニークさは類書に無いものですので、一読の価値は十分にあるかと思います。
従って、(内容の正確性にある程度の判断をつける為には)本書を読む前に「日中危機はなぜ起こるのか」(リチャード・C. ブッシュ著)等を読まれるといいかも知れません。
何にせよ、興味深い一冊です。
お時間のある時にでもどうぞ。