宇丹貴代実のレビュー一覧
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小説風のタイトルと中身で気が付かなかったのだが、実はノンフィクションという恐ろしい小説だった。
占領されるということの恐ろしさを感じた。生活の全てが侵略されている。戦争のずっと前からこんなにも虐げられていて、人権も命も蔑ろにされていたと知った。
一方で、パレスチナの人達の伝統的なあり方、具体的にはあまりにも家父長制的で女性の人権や意思が軽視されていることに素直にショックを受けた。
気持ちや状況があまりにも精緻に書かれていてまるで小説のようだったためだと思う。
これは許されないと思うし、とても好きになれない。しかし、占領されていい理由にはならない。
そのような国でありながら、パレスチナを一度出 -
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「本書はノンフィクションの作品である」
この一文で、こんなに胸が痛くなったことはこれまで一度もない。
かつてホロコーストの大虐殺が起きて、私たちはジェノサイドがいかに恐ろしいかを知った、はずだ。
しかし、今度はその被害者側が、別のジェノサイドを起こしている。
「神さまから与えられた土地」
正当化の理由は、ただそれだけ。
パレスチナの人々は、自分たち祖先の土地を奪われ、仕事を奪われ、パスポートを発行してもらえないので移動する自由も与えられず、裁判権もなく、自分の国の旗を掲げただけで逮捕されて拷問される。何万人ものパレスチナ人の命が、圧倒的軍事力の前で失われている。
そして、パレスチナの子ども -
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ネタバレアウシュヴィッツに関わる本をいくつか読んだことはあった。夜と霧、アンネの日記、縞模様のパジャマの少年など。
もちろん仕立て作業場があったことは初めて知ったし驚き。というか、彼らがそもそも何の労働をさせられていたのか、あまり考えたこともなかったのかもしれない。お針子以外に、労働の内容は服飾に関するものがあったのだとも初めて知った。
著者のフィクション作品をきっかけに、情報が集まりノンフィクションのこの本が作られたこともすごいし、更にはこの素晴らしい本を日本語訳してくれたことも本当に嬉しい。読めてよかった。
以下、メモ
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服飾文化からパリを除き、ユダヤを排除するために女性の権利も貶める -
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ネタバレ20歳で突如、仕事も行かずに車でどこかへ行き、そのまま森の中へ入り27年間も誰とも会わずに暮らした、トーマス・ナイトのノンフィクション作品です。
サバイバル術のような内容ではなく、トーマス・ナイトがどうしてこのような行動を行ったのか、そして発見された後の彼がどのように生きていくのか、という点にフォーカスされています。
終盤、ずっと心を閉ざしていたナイトが、著者に心を開き、森の貴婦人(死)に会いに行く計画を考えていると伝えます。その後、「何かを手放さなくてはならない。そうしないと、何かが壊れてしまう」と言い涙を流すナイトとともに、僕も涙腺が崩壊しました。
社会の中で表面上取り繕って生きるこ -
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ホロコーストものは、読み慣れているのだが、
これは、きつかった。
それでも、最後まで、きちんと読み通したかったのは、
ノンフィクションの力。
女性達の生きる強さに感嘆し、その後が気になったからだ。
女性達とは、アウシュヴィッツのお針子。
彼女たちは、収容所以前に洋裁の実力を蓄え、
中にはサロンを開き、高級顧客を相手にしてきた人も居る。
それが収容所で役立つわけだ。
ざっくりと、二部、ないし三部構成といえようか。
まずは、アウシュビッツ以前、
ユダヤ人は戦前、ドイツでのファッション業界をリードしていた。
しかし、ナチスはユダヤ人を、ファッション界から追放し、奪い取った会社をドイツ人のもの -
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クリストファー・ナイトという人間の人生。
年は20歳だった。
家族も、仕事も、新車も後にしてナイトは世捨て人になった。
ひと張りのテントと、バックパックだけを持って。
それから27年間、生活に必要なものは不法侵入と窃盗によって入手しながら、ナイトは生き抜いた。
この生き方に対しての肯定否定に意味はない。
なぜ孤独の道を彼は選んだのだろう?
本書が書かれた時点では、その答えに本人も到達していないようだ。
過去には多くの人が隠者となる道を選んだ。
それは宗教上の儀式であったり、実験であったり、厭世的なものもあった。
数ヶ月のうちに精神を病み、自殺した者。
偶然自分に隠者としての適正がある -
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【さよなら,世界】ある日ふと思い立ち,そこから27年の長きにわたって森の中で孤独に暮らしたクリストファー・ナイト。ある事件をきっかけとして逮捕された彼が語る,孤独を求めた理由と生活の様子とは......。著者は,自身も孤独を好む傾向にあると語るジャーナリストのマイケル・フィンケル。訳者は,英米文学の翻訳を多く手がける宇丹貴代実。原題は,『The Stranger in the Woods: The Extraordinary Story of the Last True Hermit』。
想像を超えた物語でありながら,同時に誰しもに考えを促す物語であったように思います。人間社会の「煩わしさ」 -
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Posted by ブクログ
本書の主役でもあるクリストファー・トーマス・ナイトは、20歳のときから27年間、ほぼだれとも会わず、アメリカのメイン州の森にひとりきりで暮らしていた。しかし、仙人生活のようなサバイバル本ではなく、彼は近隣のキャンプ施設や別荘に不法侵入して、生活必需品を繰り返し盗んで生活していたのだという。その盗品は高価なものではなく、ささやかなものではあったというが、当然ながら評価は分かれる。単なる泥棒ホームレスではあるが。
題材が既に面白い。孤独を愛する人間の精神性、どうしてそんな暮らしを始めたのかという経緯も興味深いし、どのように生活していたのかという点にも好奇心が沸く。『ウォールデン 森の生活』という -