生島治郎のレビュー一覧
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早川書房に入社してから、辞めて長編小説を書くようになるまでのことが書かれている。1956年から65年まで。昭和30年代だ。
時代はEQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン)やポケミス。生島がEQMMの編集長になるのは26歳。彼も、まわりも、若く、パワーがあって、がむしゃらに新境地を拓いてゆくあたりが、おもしろい。自分たちが時代を創ってゆく。
師(and also反面教師)と仰ぐ田村隆一。田村の下訳の誘いや訳文の添削がおもしろい。社長の早川清。うるさいことを言う「町工場の社長」のよう。細かいところは細かい、しかし割り切りがいい、人情はある、悪意はない。信頼するに足るとわかると、すべて任 -
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生島治郎は、1933年に生まれ、2003年に亡くなった。彼は、日本における正統ハードボイルドの創始者として知られる小説家である。上海生まれであり、1945年に長崎に引き揚げ、その年の6月に母の故郷である金沢に移住した。この経緯により、長崎での被曝を免れることとなった。その後、父親の職の関係で横浜に移住し、早稲田大学に進学した。卒業後は、早川書房に入社し、日本語版「エラリークイーンズミステリマガジン」の創刊準備に携わり、その後編集長に就任した。彼は1963年からハードボイルド小説を書き始めた。大沢在昌が、東海中学生の時に、生島治郎に手紙を書いたら、売れっ子だったにも関わらず、8枚の返事を書いた
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1956年、『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』日本版(EQMM)創刊準備が進んでいた早川書房に入社、編集者として『EQMM』を支えた生島治郎の自伝的な小説。当時早川書房の出版部長だった詩人・田村隆一の悠揚迫らざる立ち居振る舞いや、都筑道夫や福島正実、常盤新平ら同僚との日々、結城昌治、佐野洋、陳舜臣ら担当作家との共闘のありよう、小松左京や半村良のデビュー当時のエピソードなど、生き生きとした筆致で飽きさせない。一気に読み終えてしまった。
光文社の『EQ』がこの雑誌の後継誌だったとは知らなかった(恥ずかしい)。勉強になった。
早川書房で生島が活躍した1950年代後半~1960年代 -
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生島治郎『黄土の奔流 冒険小説クラシックス』光文社文庫。
過去に刊行された傑作冒険小説の再刊企画の第1弾。第2弾の胡桃沢耕史『天山を越えて 冒険小説クラシックス』を読んでみたら非常に面白かったので、本作も読むことに。
1965年刊行の紅真吾シリーズの第1作。これぞ冒険小説のお手本というようなワクワクするストーリーに心が踊る。今の時代に読んでも面白い、このような優れた作品が1960年代に日本で刊行されていたことにも驚かされた。
頭脳明晰で将来を期待されていた紅真吾は父親の事業の失敗により中国に渡る。父親と共に上海に小さな商社を立ち上げたが、父親の死後に事業は傾き、倒産。破産した真吾はある日 -
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ネタバレ日本軍スパイとしての暗躍する男と、日本人でありながらマレー人として生き、マレー独立のために命を燃やす男の、ハードボイルドな冒険譚。
夢や目標に向かって直向きに生きる姿は純粋で、儚く散っていく姿は美しい。
実話がベースとなっており、日本軍スパイの浜本は神本利男、マレー人として生きる虎は谷豊がモデルである。
出来事ベースで物語が展開し、読み進めやすかった。
浜本は立場としては軍の人間であり、マレー独立という名目の元東南アジア統治を目指す軍に従い"仕事"をこなす一方、多くの要人と接する中で日本軍の野望は叶わないであろうことを知る。また、自らの夢を「チベットの素朴な人々とともに -
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『EQMM』と早川書房の風雲児たちを描いた『浪漫疾風録』で興味を持った著者の小説を手に取ってみた。
1923年の上海から長江を舞台とした冒険小説。とくだんプロットがあるわけではないが、一癖も二癖もある男たちが、軍閥が抗争を繰り返していた1920年代の長江流域を重慶まで遡り、一攫千金の夢を掴もうとする。
登場人物の中で中国人たちの個性が日本人以上にしっかり書き込まれているところは重要。ある者は主人公の日本人にあくまで忠実に仕え、ある者は過剰に軍人としての規律を守ろうとし、別の者はしたたかな商売人としてウラのウラをかこうとし、さらには革命家としての過去を捨て去ろうと意識的にニヒリストたらんと -
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疾走感あふれる「ほぼ自伝小説」。
昭和31年に早川書房に入社して編集者として成長し、昭和39年に退職して処女作を上梓するまでを描いた成長物語。
ただ、著者自身の歩みを描いていると同時に、日本推理小説界の発展期を描いているので自伝なのに群像劇になっている。
入社試験で面接官を務め、上司となった田村隆一の謎に大物感あふれるエピソードの数々でいきなり読者はつかまれる。
「作家が行くといえばとことんついていくのが編集者だ」と言って江戸川乱歩に引き連れられて飲み歩くが、最後にはくたびれた乱歩がタクシーに飛び乗って逃げ出すのを怒鳴りながら追いかけるとか。
佐藤春夫の重鎮エピソードも面白い。そのほか、この時 -
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ミステリ作品の編集を手掛けるうちに、自分でも書いてみようという欲望を抱くようになった編集者が作家に転向したその後の話。映画化、直木賞受賞などいくつかの成功を収めつつも、睡眠薬中毒に陥り、芥川やら三島やら太宰やらと自身を並べ、作家の孤独を説いて悦に入る。 チャンドラーを敬愛する妻小泉喜美子については、鼻っ柱は強いが話の合う女が、一方的に自分に惚れ、結婚してほしいと懇願してきた、と宣う。結婚してやる条件として、彼女の執筆活動を禁じておきながら、自身は好きなだけ創作に時間を費やし、挙句の果てに呑む打つ買うのやりたい放題。作家は人間として魅力的な人物であってほしいと思うこともあるが、この作品については
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ハードボイルドの礎を築いた生島治郎さんによる純粋な冒険小説。中国での商いに失敗し夢破れた主人公の紅真吾。破産した彼に大手商社の男から儲け話を持ち込まれる。ただそれはとてつもない危険の伴う話だった。いわくつきな男たちが金に向かって突き進むのはまさに王道そのものだが、特によいのは主人公コンビの明暗さだろう。真吾は情に厚く捨てきれない部分を沢山持っている。対して相方になる葉村は自分以外、誰も信用していない男。この2人が反目し合いながらも進むのはやはり楽しい。前半は硬派な展開ながら後半はさながらコンゲームの様相を呈していく。この対比やラストのある意味爽快な結末も「らしく」ていい。
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本書を読むことにしたのは、断片的にはいろいろなところで取り上げられていた、戦後海外ミステリーの紹介の役割を果たした、EQMMの創刊から初期にかけての状況を知りたいと思ったからである。
その期待はある程度満たされたが、本書は何よりも著者の、あまり期待もなく入った新入社員時代から、編集の面白さに目覚め、遂には自らが書く側に回るという、青年時代を描いた半自伝小説であり、教養小説でもある。そしてまた、戦後ミステリーの草創期の熱さが伝わってくる。
田村隆一、都筑道夫、常盤新平、小泉喜美子、開高健、結城昌治、佐野洋といった錚々たるメンバーが出てきて、ハチャメチャなエピソードが次から次に出てくるし、当時