あらすじ
中国に渡って15年、破産した紅真吾(くれないしんご)は、危機から救った大手商社の支店長・沢井(さわい)から、儲け話に誘われる。揚子江を重慶まで溯り、豚毛を買い集めて帰ってくればぼろ儲けできるのだという。だが流域の治安は劣悪で、命の保証はない。一攫千金を狙う真吾は、短剣投げの名手・葉村宗明(はむらむねあき)ら素性の知れない八人の猛者と出立する――。手に汗握る傑作冒険小説。
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生島治郎『黄土の奔流 冒険小説クラシックス』光文社文庫。
過去に刊行された傑作冒険小説の再刊企画の第1弾。第2弾の胡桃沢耕史『天山を越えて 冒険小説クラシックス』を読んでみたら非常に面白かったので、本作も読むことに。
1965年刊行の紅真吾シリーズの第1作。これぞ冒険小説のお手本というようなワクワクするストーリーに心が踊る。今の時代に読んでも面白い、このような優れた作品が1960年代に日本で刊行されていたことにも驚かされた。
頭脳明晰で将来を期待されていた紅真吾は父親の事業の失敗により中国に渡る。父親と共に上海に小さな商社を立ち上げたが、父親の死後に事業は傾き、倒産。破産した真吾はある日偶然知り合った大手商社の支店長・沢井和彦から揚子江を船で遡り、重慶で豚毛を買い集めるという儲け話に誘われる。真吾は素性の知れない8人の猛者たちと重慶を目指すが……
本体価格840円
★★★★★
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『EQMM』と早川書房の風雲児たちを描いた『浪漫疾風録』で興味を持った著者の小説を手に取ってみた。
1923年の上海から長江を舞台とした冒険小説。とくだんプロットがあるわけではないが、一癖も二癖もある男たちが、軍閥が抗争を繰り返していた1920年代の長江流域を重慶まで遡り、一攫千金の夢を掴もうとする。
登場人物の中で中国人たちの個性が日本人以上にしっかり書き込まれているところは重要。ある者は主人公の日本人にあくまで忠実に仕え、ある者は過剰に軍人としての規律を守ろうとし、別の者はしたたかな商売人としてウラのウラをかこうとし、さらには革命家としての過去を捨て去ろうと意識的にニヒリストたらんとする者もいる――。エンターテインメント小説だからこそ、人種主義的なステレオタイプとは異なる男たちの肖像を書き込もうとする意欲は伝わった。しかし、その分ジェンダー表象は思いきり類型的になってしまっている。
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ハードボイルドの礎を築いた生島治郎さんによる純粋な冒険小説。中国での商いに失敗し夢破れた主人公の紅真吾。破産した彼に大手商社の男から儲け話を持ち込まれる。ただそれはとてつもない危険の伴う話だった。いわくつきな男たちが金に向かって突き進むのはまさに王道そのものだが、特によいのは主人公コンビの明暗さだろう。真吾は情に厚く捨てきれない部分を沢山持っている。対して相方になる葉村は自分以外、誰も信用していない男。この2人が反目し合いながらも進むのはやはり楽しい。前半は硬派な展開ながら後半はさながらコンゲームの様相を呈していく。この対比やラストのある意味爽快な結末も「らしく」ていい。